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五話

 あの茶会から数年が過ぎたある日。


 "婚約する可能性が高いけど、まだ婚約発表していない"というなんとも微妙な関係の私たちは、あれから数年、少なくとも月に一度は会って食事をしたりしていた。


 婚約しているわけでは無いのだから、そんな婚約者らしいことはしなくてもいいと訴えたのだが、なぜか却下された。


 数年もこんなことをやっていれば、さすがに私も慣れてくる。 今では殿下と2人でも特に緊張しなくなってきていた。


「このティラミス、美味しいですね」

「王家御用達の店のものだからな」


 ほら、こんなふうに食事を楽しみながら会話をできるようになっているのだ。


 殿下も私も、この数年でだいぶ成長した。 殿下は一人称がわたしになった。 それだけでなんか大人っぽい。 一方変化がありつつも、変わっていないこともある。 今アップルティーを飲んでいる殿下の顔は、相変わらず美しいこととか。


「アリアに気に入ってもらえてよかったよ」

「私とのこの場のために用意してくださり、ありがとうございます」


 まあ、用意したのは王城の使用人のみなさんなんですけとね。 みなさん、本当にありがとう。


「ああ、婚約者のためだからな」

「殿下、違います。 婚約する可能性が高いけど、まだ婚約発表していない者です」

「略せば婚約者みたいなものだ」

「だいぶ誤解されそうな略し方ですね」

「どうせ数年後には正式に婚約するんだ。 問題ないだろう」


 いいえ。 問題しかないですよ。 その時が来てから気付いても遅いんですよ。


 ……とはもちろん言えない私は、少し微笑んで「そうですね」とだけ答えておいた。



 殿下ももちろん暇ではないので、私たちの会っている時間は、毎回短めである。 たいていそれぞれが2、3杯紅茶を楽しんだところでお開きとなる。


 今日も私は2杯目を飲み切ったところで解散となった。





 ここまで完全に普段通りだったのだが、今現在進行形でいつもと違うことが起こっている。 猫がいる。 猫がいるのだ、目の前に。


 今日はたまたま、殿下に庭園に寄ってから帰る許可をいただいたので、王城の庭園を見学させてもらっていた。


 さすが王家、って感じで何度見ても咲き誇る花はどこを見ても綺麗である。


 そんな庭園の中に白い猫がいた。 普通なら「なぜこんなところに猫が?」と思うべきだ。 だけど私は普通じゃなかった。


 ヒロインの可愛いビジュアルが私は好きだったように、前世の私、可愛いものに目がなかったのだ。当然猫も愛でる対象である。


 しかも庭園は外側を衛兵が警備していて、許可のないものは立ち入らないため周りには誰もいなかった。 これは愛でるしかないでしょう。 そうでしょう。


 さらに、猫が鳴きながら擦り寄ってきた。 もう私は完全に落ちました、彼女に。 いやメスかオスかわかんないけど。


 庭園内にあるベンチまで移動してから、私は存分に猫と戯れた。 戯れつつ付けた名前はシロだ。 犬っぽいとか、白いからシロとかそのまますぎるとか言わないで。


 そのうち、シロが膝の上で寝てしまった。 しばらく撫でていた私だが、どうやら私も知らない間に眠ってしまっていたらしい。


 次の記憶は、殿下に起こされたところだった。 後から聞いた話によると、なかなか庭園から出てこない私を心配した護衛から数人を挟んで、殿下にそのことが伝わったらしい。


 庭園は許可なく入れないから殿下自ら起こしに来てくれたのか。 仕事増やしちゃって申し訳ない。


 そういえば、気付いた時にはもうシロはいなかった。


「中で何かあったのかと思ったよ。 無事で良かった」

「申し訳ありません。 ありがとうございます」

「うん、もう少し自覚持とうね?」


 最後少し殿下の顔が怖かった。 綺麗な顔で微笑みつつ言ってるから余計に怖い。


 私が悪いから何も言えないけれど。 本当に申し訳ないとは思ってる。 以後気をつけます。


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