三話
茶会当日、私は侍女達によってきれいなドレスを着せられていた。 ドレス、といってもまだ子供であるため淑女が着るような煌びやかなものではなく、ワンピースの延長みたいなようなものだが。
これだけ綺麗ならきっと殿下も惚れてしまいますね、とかなんとか侍女が話しているが、冗談じゃない。 婚約者になったら追放ルートまっしぐらだ。
追放されるとわかっていてそれでも殿下の婚約者になりたい、なんて人いるんだろうか。
もしかしたら被虐趣味があって、それを望む人がいるのかもしれない。 多分いないと思うけど。少なくとも私に被虐趣味はないので、婚約者にはなりたくないのだ。
「ねえエミー、どうしたら殿下に関わらずに生きていけるかしら」
と、エミーに参考までに聞いてみた。
「質問の意図が分かりかねます」
って返された。だよね。意味わかんない質問してるって自分でも思ってた。
☆
どんなに嫌だと思っても、時間は過ぎてしまう。 つまり、どんなに嫌だと思っても、殿下との茶会の時間もやってきてきまう。 というか、今まさにその時です。
今まさにその時であることに加え、1つの事実が私の頭を悩ませていた。
それは、他に人がいないことである。 もちろんメイドや侍従のような者はいるが、他に令嬢がいない。 どうやら茶会は私と殿下の1対1のようだ。
婚約者候補が集められるって言ってたから、てっきり何人もいると思ってたのに。 そしたら特に殿下と会話もせずに帰るつもりだったのに。
せっかくだから、王城の美味しいものでも楽しんで来ようとか思ってたんだけどな。 確かにとっても美味しそうなケーキが、綺麗に並べられているように見えたけれど、殿下と1対1。 緊張で味なんて分からない。
お父様、聞いていたことと違います!
バカみたいなことを頭では考えている私だが、殿下が席に着くのをカーテシーをとりつつ待っている。 侯爵家の教育を受けてきたのだ、頭で何を考えていても礼儀を欠かさないことくらいできる。
頭を上げて、と言われその後席に着く。 目の前にはこの国の第1王子、クロード殿下がいる。 なるほど、ゲームで見た王子を幼くしたらこうなるのか。
ゲーム内の王子は学園の高等部だったから、大人っぽい整った顔だった。 けれど、今私の前にいる王子は可愛らしさが先行している印象を受ける。
けど!!可愛いけど!!
この王子、数年後には私を追放する敵なのだ。 油断は禁物である。
「今日はお招きいただきありがとうございます。エルラルド侯爵家のアリア・エルラルドです」
敵だとか思っていることはおくびにも出さず、感謝の言葉を述べる。
そこからは特に何もなく、当たり障りの無い会話が続いた。 婚約者にならないことが追放回避への最短ルートなのだ。 つまり、私にとって特に内容の無い会話が最適解である。
クロード殿下の印象に残らなければ、婚約者に選ばれることもないだろうから。
そのまま茶会は終わった。 最後になぜか名前を尋ねられたが。 はじめに名乗ったはずなのだが、忘れてしまったのだろうか。 意外と記憶力が悪いのか? いや、でもゲーム内のクロードは頭が良かったはず。
そんなことを考えつつも、頭の大部分は茶会が終わったことへの安心で占められていた。 特に何もしなかった。 これで婚約者は回避できたはずだ。
…………と思っていた時もありました。
茶会の日の夕暮れ時に私は父に呼び出された。 その時点で何か嫌な予感がするな、とは思っていた。 予感が外れることを全力で願ってもいた。
でも現実は無情だった。 父の書斎で告げられたのは、
「殿下の婚約者に決まった」
という私にとって最悪の事実だった。
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