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別れは突然に。


ピピピピッ、ピピピピッ。


無機質なアラーム音で俺は目を覚ます。スヌーズ機能を止めながら時刻を確認。8時か。あれだけしつこかった眠気はすっかりなくなり、ここ最近で1番いい目覚めだ。


そういえば今日から大学が始まるんだった。昨日は色々なことがありすぎていまいち実感がない。


「……ぐぅ……」


布人間改め、眠り姫はいまだ眠りこくっている。さすがにこいつを連れて大学に行くわけにはいかないので、昨日は諦めたこいつを起こすミッションを達成しないと。


「おーい、起きてくれー、いや起きてくださーい頼むから」


言いながら小さい肩を揺する。かなり強めにブンブン振っていると「んん……」とうめき声を上げながらその瞳が開かれる。


「……だれ?」


「いやいや」


命の恩人のことをもう忘れたのか。あとでカップ麺の代金を請求してやろうか。


「昨日のこと、覚えてないのか?」


「……たしか、おなかすいたから……へやをでて……」


目を覚ましたはいいが、まだその目はとろんとして微睡みの中にいるようだ。あれだけ爆睡してたのに。


「で、そこで力尽きて行き倒れてた君を助けたの。俺が」


「……そうだった、命の恩人」


「そうそう、命の恩人」


「……ありがと」


「お礼はいいからはやくどいてくれない?」


「……ん」


わかったのかわかってないのかよく分からない声で返事をして、もぞもぞと俺から離れる。ベッドから降りた眠り姫は近くにあった人ダメクッションにもたれかかる。いや、だからそれは俺のだ。


「……どれだけ気に入ったんだよ、それ」


「……これ、すごくいい……」


言いながらクッションに顔を押し付けて匂いを嗅いでいる。おい、やめろ。


「……俺は雛川日向ひながわひなた。ここに住んでる」


「……空野そらの……まひる……」


文句を言うのも面倒になり、とりあえず自己紹介をすると名前を教えてくれた。


空野まひる、ね。名前の割には肌は白いし、まったくイメージとは真逆だな。


「まひる……さん、とりあえず部屋に戻れそう?」


「………ん」


こくりと頷く。よかった、さすがにこの部屋に置いて行くわけにはいかないからな……。


「俺はこれから出かけるから、部屋にもどってくれるかな?」


「……わかった」


返事をしながら立ち上がる。その体のほとんどはオーバーサイズにも程があるパーカーで覆われている。見えているのは膝から下だけと言う有様だ。


「って、おい!それは俺のだ!」


俺の愛用の人ダメクッションを持っていこうとしているまひるを呼びとめる。しれっと持ち帰ろうとするなよ。


「……ん」


名残惜しそうにおれの相棒を床に置く。と思ったらそこから動かなくなってしまった。


「……はぁ、わかったわかった。それあげるから」


「……いいの?」


「いいのって、気に入ったんだろそれ」


「……ありがと」


正直、あげるには惜しいぐらいには気に入っていたのだが、仕方ない。もう大学まであまり時間もないし、はやく部屋に戻ってもらう方が先決だ。それに、もうあいつのよだれまみれだし。


のそのそと俺の部屋から出ていくまひるの姿を見送る。ふらふらと歩くその姿はまるで昨日の俺のようだ。


「あ、そうだ。ギターの練習!」


「……?」


「するのはいいけどアンプにヘッドホンしてくれる?」


すっかり忘れていたが、こいつが騒音の原因だった。ここで言っておかないとまた騒音に悩まされる。


「……わかった」


振り返り小さく返事をする。よかった、これで今日からは安眠できそうだ。


俺の元相棒を抱えながらまひるは部屋を出ていく。さよなら、相棒……。



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