睡眠は突然に。
「えーと、君は隣に住んでるんだよね?」
「……うん」
「夜、ギターの練習とかしてたり?」
「……うん」
どうやら騒音の原因はこいつで確定のようだ。まさかこんな変人だったとは……。
すると、お腹がいっぱいになった布の塊は目深にかぶっていたフードを取った。というかこのパーカー、でかすぎだろ。
「……ごはん、ありがと」
こちらを見ているのか見ていないのか分からない目でお礼を言うと、人をダメにするクッションにそのまま倒れ込んだ。おい、俺のだそれは。
その時、初めて俺はそいつの顔を見た。
──空に浮かぶ雲のように白い肌。
──水面に映る月のように輝く銀色の長い髪。
──この世の美を詰め込んだ人形のような輪郭。
……そして、それらを台なしにする目元の隈とどろりとした目──。
今まで見てきた人間の中で、こいつの目が一番覇気がないと断言できるぐらいにそいつの目は暗い光を灯していた。
「……ぐぅ」
「っておい!?寝るな!」
布の塊改め、死んだ目世界一は、俺の愛用クッションにもたれかかりながら寝息をたて始めた。知らない人の家で寝れるって、どんな神経してるんだよ。
しかもよく見るとよだれまで垂らしている。超熟睡だ。そのクッション、高いんだぞ……!
「……はぁ……」
名前も知らないそいつは、よほど寝心地が気に入ったのか起きる気配がない。どうしよう。隣の部屋に住んでるらしいが、あそこまで運ぶのも手間だ。見られたりする危険もあるし、できればそれは避けたい。
頭を悩ませるのがバカらしくなってきた俺は、今まで我慢してきた眠気に気づく。眠い。とりあえずシャワーだけでも浴びようか……。
なんとか最後の気合でシャワーを済ませる。熱い湯を浴びれば眠気が覚めるかと思ったけど、ここまで来ると意味はないようだ。むしろより眠くなってきた。
そしてそのまま、相変わらず熟睡している布の塊をまたぎ、倒れるようにベットに寝転ぶ。
念願のベッドを手に入れた俺はそのまま意識を手放した──。