行き倒れ少女は突然に。
「や、やばい……」
無事入学式を終えた俺は家への道をふらふらと歩く。あまりの眠さにもはや倒れながら歩いている。
入学式で寝ようと思っていたのだが、隣に座っていた強面のせいでそれは叶わなかった。もし倒れかかったりしたらぶん殴られそうだったし。
「家が近くでよかった……」
普通なら5分で着く道のりが、15分かかった。俺の部屋は2階の1番奥にある。最後の階段を死力を尽くして登る。さながらエレベスト登頂を目指す登山家のように。
「よ、よし……!とうちゃ……うおっ!?」
部屋に続く廊下を歩いていると、部屋の目前で何かにつまづいて転びそうになる。誰だ、こんなところにものを置いたやつは。
心の中で文句を言いながら足元を見る。
どうやら布にくるまったゴミのようだ。大きな布の塊がある。
しかし、よく見るとその塊から腕やら足のような肌色の物体が伸びていることに気づく。……マネキン、か?
「……うう〜〜〜」
「うおおおおっ!?」
ゴミの正体を観察していると、布の塊からうめき声のような声が聞こえた。さらに、もぞもぞと動き出した布の塊に思わず叫んでしまう。
「……だれ?」
布の塊がむくりと起き上がりこちらを見る。どうやら布の塊だと思っていたのは人間だったようだ。
「え、えっと、そこの住民……ですけど」
いまいち状況が飲み込めないが、俺は目の前の自分の部屋を指差しながら答える。
「……そう」
布人間は興味なさげに答えると、また動かなくなってしまった。
いや、俺の部屋の前で倒れられてると困るんだが。
「……ここでなにしてるんですか?」
「……お腹……すいた……」
「え?」
「お腹……すいて……うごけない……」
「は?」
どうやら今時珍しい行き倒れみたいだ。……じゃなくて、なんでこんなところで行き倒れられるんだよ。
「えっ、と……そこで倒れられてると困るんだけど……」
「……でも、うごけない……」
俺は動けなくなるぐらいお腹が空く経験をしたことはないが、どうやら緊急事態だということは分かった。このままほっとくわけにもいかなさそうだ。
「あ、あの、良かったらうちで何か食べます?といってもカップ麺ぐらいしかないですけど──」
「……」
「おーい」
提案してみたが動かなくなってしまった。どうやら限界に達したみたいだ。
「マジかよ……」
仕方ないので布の塊の腕らしきところを抱えて俺の家まで引きずることにする。持ち上げてみると予想より遥かに軽い。ちゃんと食べてるのかこいつ……。
ずる、ずると部屋まで運びいれる。こんなところ誰かに見られたら誘拐犯か殺人犯だと思われるだろうな……。
冷や汗をかきながらようやく部屋まで運び入れることに成功した。とりあえず、愛用の人をダメにするクッションの上に置いておく。生きてるのか分からないぐらい微動だにしないのでさすがに心配になってきた。
買い置きしてあるカップ麺を適当に選び、お湯を注ぐ。完成までの3分がとてつもなく長く感じる。
「おーい、完成しましたよー」
相変わらず微動だにしない布の塊に声をかける。肩を揺すると「うぅ……」と小さいうめき声が上がる。よかった、生きてる。
焦点の合わない瞳でこちらを見ている布人間に、出来たてのカップ麺を見せる。
「……食べれる?」
「……むり……たべさせて……」
マジかよ。どんだけ弱ってるんだこいつ。
仕方ないのでフォークと取り皿を持ってきて冷ましながら口へ運ぶ。まさか人生初あーんがこんな形になってしまうとは思ってもみなかったな……。
「……あーん」
「…あーん。……むぐむぐ……ごくん」
どうやら飲み込む力は残っているみたいだ。よかった。
それからは流れ作業のように、麺を冷ましては小さな口に運ぶ。むぐむぐ、ごくん。むぐむぐごくん。
10分ほどかけてやっとすべての麺を食べさせ終える。最後のほうは完全に麺が伸び切っていたが、文句も言わずむぐむぐと食べていたのでまぁ大丈夫だろう。
「どう?少しは落ち着いた?」
「……うん。ありがとう、命の恩人」
「んなおおげさな……」
とは言うものの、あのまま誰にも見つかってなかったなら死んでいた可能性も否定できない。第一発見者にならなくてよかった、ほんとに。
「で、なんであんなところで倒れてたんだ?」
「……お腹すいて、買い物いこうと思って、部屋から出たら、たおれた」
「……もしかして、隣の家に住んでる……?」
「……うん」
なんてこった。まさか隣に越してきた騒音の主はこいつだったのか……!
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