騒音少女は突然に。
「……だあああああ!うるっせえええ!」
大学に入学し上京してきた俺は早くも後悔していた。
3月から準備し、選んだ格安マンション。間取りは1Kだが、角部屋で日当たり良好。さらに大学へは徒歩5分という好立地。隣には行きつけのコンビニと、まさに俺のために用意されたような部屋。
迷うことなく契約し、引っ越しが終わって早1ヶ月。そこに悪魔がやってきた……。
「今何時だと思ってんだ……」
午前2時。平均的大学生の主な活動時間にそれはやってくる。
ギャイイイイン。ギュワワワワン──
恐らくギターの音だろう。普通、この時間ならアンプにヘッドホンをして静かに練習すべき楽器。それをあろうことかこの時間にアンプから直で鳴らす奴がいるとは。
「うるせえ……」
たしか3日前ぐらいだったか。隣に新しく越してきた奴がいたはずだ。挨拶にもきてないし、顔は見てないが、間違いない。あの日から毎日、この時間にギターを弾いている。
騒音問題というのは時に大きな事件へとつながる。そんなの気にするなよという奴もいるが、実際に被害に遭うと、こんなにも精神を削られるとは……。
「……明日大家さんに言うか……」
俺はそう決心し、パソコンの電源を落としベッドに横になった。
ギターの音はまだ元気よくその轟音をかき鳴らしている。
「……上手いな、こいつ」
そう、なにより腹立たしいのはこいつのギターが超絶上手いことだ。
俺も音楽は少し齧っているのでわかる。テクニカルなフレーズを正確に、そして時に大胆にかき鳴らすこいつのギターは、恐らくプロでもなかなかいないレベルだ。
何より恐ろしいのは、有名な曲のギターソロなどをめっちゃいい感じにアレンジして弾いてることだ。ギターだけが鳴らしているとは思えない音の数。アレンジセンスもずば抜けている。
「でもうるせぇことに変わりはないんだよな……」
そう、いくら上手かろうがうるさいものはうるさいのだ。ギターが上手いことは認めるが、この時間に練習するのは非常識すぎる。
「はぁ……。恐いやつだったらどうしよ……」
もし大家さんが注意してもやめなかったら?
逆恨みで俺の部屋にやってきたら?
……悪い想像ばかりが頭に広がる。
それに明日は大学の入学式だ。早く寝ないとやばい。イヤホンを耳栓がわりに耳に突っ込む。少しマシにはなったがまだうるさい。どれだけ小さい音でも一度気になるといつまでも気になるあの現象だ。
俺は心を無にし、さらにはアイマスクをつけ、無理やり眠ろうと試みる。
うるさい。
お、今のフレーズかっけぇ。
やっぱうるさい。
──俺はまだ、この隣に引っ越してきた騒音少女との出逢いが、これからの俺の人生を大きく変えていくなんて夢にも思っていなかったんだ──。