表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第一章 天峰学園入学編
7/42

第6話 天峰学園

「あ、おはよう(らん)


 輝夜は快活な声で話しかけてくる少女の方へと振り返り挨拶をする。


「おっはよーん、朝から姫に会えるとかラッキーだね!」

「前から言ってるけど、その姫って呼ぶのやめてよ。恥ずかしいでしょ!」


 腕を組みながら輝夜は数少ない女友達を睨み付ける。


 彼女の名前は『狗上嵐(くじょうらん)

 俺と輝夜とは小学校からの付き合いで、輝夜を崇拝してない数少ない友達だ。

 どうしても神聖視されやすい輝夜に、こんな気安い態度を取れるのは彼女くらいかもしれない。


「えー、めっちゃ似合ってるよ?それにかぐやと言えば姫でしょ?」


 彼女はトレードマークのポニーテールを揺らしながらケラケラと笑う。


「そこまでにしとけ、嵐。この後誰がなだめると思ってんだ」

「それは真白っちのお仕事だからねー。あ、真白っちもおはー」


 嵐はいつも通り、おどけた態度で俺の肩を叩く。


「とりあえず歩きながら話そ。私は多分よゆーで間に合うけど、姫たちはしんどいでしょ?」


 そう言って嵐は自分の足を指差す。

 嵐の「思創の卵(プロキシー)」は確か「韋駄天」だったか?

 本人曰くめちゃくちゃ速く走れるらしい。

 こいつが能力を使ってまで走っているのは見たことないが、能力関係なく足が速い。

 中学までの公式大会ではタイトル総なめ、出る競技全てベストタイムを塗り替えるという化物ぶりだ。

 しかもおそらく手を抜いた状態でだ。


「また姫って言う」

「ほら、とりあえず行くぞ。文句は後でだ」


 輝夜の背を押しながら歩き出す。

 仕方ないなとジト目で輝夜は俺を睨み付ける。

 そこは俺にじゃないだろう。


「そういや、今日はあいつと一緒じゃないのか?」

「ん?あー、しげのこと?真白っちたちと一緒にしないでよ。幼馴染みっていっても四六時中一緒にいるのは真白っちたちくらいよ」


 嵐は俺たちを見ながら熱い熱いと顔を手で仰ぐ。


「俺らも四六時中いるわけじゃないぞ」

「いやいや、私らからすれば大した差はないから。真白っち的にはしげいない方がいいでしょ?」

「俺はどっちでもいいけど、規束(きつか)の方が嫌がるだろ」


 嵐の幼馴染み『規束重則(きつかしげのり)

 こいつを簡単に説明するならば輝夜の熱狂的な信者である。

 規束とは永遠に仲良くなることはないだろうと思う。


「嫌っていうか、あれは・・・ねぇ」


 嵐はそう言いながら輝夜の方を見る


「規束くんと真白って何であんなに喧嘩するの?規束くん優しくていい人なのに」


 そういうとこだよ原因は、と思わずいいかけて飲み込む。

 規束は基本的には礼儀正しく、真面目な委員長タイプだが、こと輝夜が絡むと一変する。

 特に幼馴染みという特別待遇な俺との相性は言わずもがなだが。


「何でだろーな」

「何でだろーね」


 思わずハモる俺と嵐を輝夜はジト目で見てくる。


「真白と嵐って仲いいよね、今もハモってたし」

「仲がいいって言うか・・・」

「単に気を使うわなくていいって感じよね?」


 俺と嵐は顔を見合わせたあとに輝夜を見る。

 納得がいかないのか目はまだ座ったままである。

 何をどう勘違いすれば俺と嵐がいい仲に見えるのか。


「変なこと言ってないで行くぞ。やっと学園の入り口だ」


 ようやく天峰学園の門にたどり着き一息をつく。

 門の前に新入生用の看板があり、校舎の位置を確認する。


「中心よりだが、そこまで遠くはないな」

「今回は近くで楽チンだねー」

「今回は?どういう意味だ?」


 輝夜と嵐が一瞬キョトンとして盛大にため息をつく。


「真白っち説明会寝てたっしょ」

「もう説明するのも面倒になってきたわね」


 どうやらこれも説明会で話があったようだ。


「防衛観念うんたらーで、定期的に校舎や学園内の研究施設の配置が変わるらしーよ」

「多分今回は新入生のために門の近くにしてくれてるんだと思う」


 なるほど、だから地図に表記されていないのか。

 どれくらいの頻度で変わるかはわからないが、その都度地図を作り直すのは確かに面倒だな。


「まぁ、近いなら近いに越したことはないな」


 気を取り直して学園内へと足を踏み出す。

 どんなことが待ち受けているかわからないが、期待で胸が高鳴っているのがわかる。

 それは輝夜や嵐も同じようで、俺たちは顔を見合わせ同時に門を潜る。


 ここから俺たちの新生活がはじま――――


「予定より14分47秒のズレだな、御影」


 新生活が――――


「何があったのか知らないが、随分ゆっくりと登校してきたな、御影」

 

 始まらなかった。


「お父さん!何で門にいるの?」

「輝夜、お前に伝達事項があって待っていた」


 そう、この一睨みで人を殺してしまいそうな、厳格な雰囲気を醸し出しているお方こそ輝夜の父『上代鷲司(かみしろしゅうじ)』その人である。


「入学式の主席の挨拶で少し打ち合わせがある、あちらの女性について行きなさい」


 少しはなれた位置にスーツの似合う女性が立っていた。

 軽くお辞儀をすると輝夜にこちらに来るよう手で促す。


「あー、それじゃあ・・・私行くね?」


 チラッと俺に目線を送り、輝夜はそそくさと女性の方へと駆けていく。


「私は校舎近いのわかったからそこら辺走ってから向かうよ。この学園広いからトレーニングにいいねー」


 乾いた笑いを出しながら嵐もこの場から駆け抜けていく。

 流石自慢の足だ、もう姿が見えない。


「じゃあ俺も校舎に――――」

「ならば私も同行しよう。聞きたいことが幾つかある」


 そう言うとツカツカと歩き出した。


 ですよねー。

 バイバイとは行きませんよねー。

 俺は遅れないように少し後ろに並び歩く。


「聞きたいこととは・・・」

「今朝の事以外に私に何か報告があるのかね」

「・・・ないです」


 俺は覚悟を決め、校舎に向かって歩きながら今朝の出来事を話す。

 時おり頷きながら俺の話を黙って聞いているところを見ると、はじめから見ていたんだろうな。


「なるほど、事情はわかった。わかったが・・・」

「いでっ!」


 鈍器で殴られたような衝撃が頭に走る。

 鷲司さんの方を見ると固く結ばれた拳を胸の前に掲げていた。


「娘を危険にさらしたことには違いはないな。何のためのお目付け役だ」

「そうは言ってもおとうさ―――。」

「君に父と言われる理由はないが」


 ギロリと目を見開きただならぬオーラが溢れ出す。


「すいません、鷲司さん。輝夜が大人しいのは鷲司さんか巴さんがいるときだけと思うのですが」

「それでもだ。ただ、輝夜の矢を防いだことは感謝しよう。あのままでは確実に何人か重症者が出ていただろう」


 いや、多分死人が出てたと思う威力だったと思うのですが、何て事は言えず愛想笑いしか浮かべれない。


「新入生は今後送迎をすることを検討するべきか、そもそも合格者を秘匿すべきか、街の警備システムの強化を打診すべきか、私だけでは決めれないな」


 ブツブツと今日の出来事に対する打開策を考えているようだ。


「一先ず学園長に進言だな。校舎はすぐそこだ、くれぐれも(・・・・・)遅れるなよ」


 そう言うと、鷲司さんは校舎とは別の方へと向かっていった。


「一応俺を案内してくれてた、のか?」


 きっちり校舎の入り口まで送るあたり、先生なんだなぁと改めて思う。


「しっかり釘刺されたし、学園探索は入学式が終わってからにするか」


 俺は大人しく校舎の中へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ