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デウス・ウルト   作者: 妖怪はらへった
第一章 天峰学園入学編
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第5話 学園都市

「なになに?急にどうしたの?」


 急に腕を引かれ、驚きを隠せない輝夜をよそに俺は周囲を忙しなく確認する。

 奥にいたおかっぱ君も何事かと俺と輝夜を交互に見ていた。


「カラスが、鳥がこっち見てたって言えばわかるだろ」

「あー、それはちょっと・・・まずいわね」


 察してくれた輝夜はうつ向きながら、こめかみをトントンと指で鳴らす。


「問題はどこから見てたかだけど、このまま秩序の檻(セキュリティ)のお世話になると多分俺が死ぬ」

「でしょうね。とりあえず学園に避難しましょうか」


 俺と輝夜は頷き合い、この後の事を考えてため息をつく。

 願わくば全て終わった後に見ているといいのだが。

 方針が決まったところで輝夜は正面のおかっぱ君の方に振り返る。


「円くんバタバタで悪いけど、また学園でね!もし私たちの事聞かれたら適当に答えておいて!」


 輝夜はそう言い残すと来たときのように、一目散にもといた道へと駆け出す。


「は・・・はい」


 聞こえているかわからない円の返事に、俺が代わりに会釈で返す。

 沈黙の別れを済ませ輝夜の後を追いかける。

 一刻も早くこの場を離れなければ。

 どこにいるかわからない、さっきのカラスを探しながら俺は心で呟いた。





 一人取り残された網綾円(もうりょうまどか)は、輝夜達が駆けていった先をただ見つめていた。

 手に残る輝夜の温かさを忘れないかのように、円は強く握りしめる。


「上城・・・輝夜さん」


 名前を反芻しながら数分前のやり取りを何度も思い返す。


 おどおどとした自分の態度に苛立つこともなく、見かけで侮りや嘲笑もしない、家族よりも優しくされたのははじめての出来事だった。

 まっすぐと自分の内側を見るかのような、あの強い眼差しに惹かれた。

 こんなにも美しい女性がいるのだと。


 輝夜の怒声が聞こえた時に一瞬見た、神々しいほどの光輝く弓がとても彼女に似合っていたなと納得する。


「あの姿はまさに女神(ミューズ)・・・いや、戦女神(ワルキューレ)か?」


 円は握手をした自分の手をまじまじと見つめゆっくりと開く。


(あの笑顔は誰にでも振り撒くのだろうか)


 願うなら特別でありたい、あって欲しいそんな事ばかりが円の頭をよぎる。


「そう言えば、僕の女神になれなれしかったあの男は誰なんだ?」


 円と輝夜を引き裂いた男に胸が疼き、手をギュッと握りしめる。

 もう一度強く握った手には彼女の温もりはなかった。





「おかっぱ君、網綾円(もうりょうまどか)って言うのか」


 走りながら輝夜に先ほどの自己紹介の流れを聞く。

 あんな衝撃的な出会いをすればあんな眼にもなるわな。

 別れ際の会釈の時見た彼の瞳には、そこにはもういない輝夜しか写っていなかった。


「・・・これは、後々面倒くさそうだな」

「ん?何か言った?」

「別に」


 輝夜は無意識に善意を振り撒きすぎるんだよな。

 困っている人を助けるのは構わないんだが、その後のフォローが手厚すぎるせいで信者が増えすぎる。

 輝夜は昔からファンクラブもとい親衛隊が多くいる。

 幼馴染みである俺は当然その余波を受けるのだ。


「もうそろそろいいかな。大分門も近くなってきたし」


 俺は徐々に走る速度を抑え、制服に付いた土埃などをはたく。

 入学式早々に制服の汚れなどで注意はされたくないからな。


「そういえば輝夜、俺たち制御装具(インペリウム)を持ってないのに門を通れるのか?」


 余程まぬけな質問だったのか、輝夜はジト目でこっちに振り返る。


「あんた本当に説明会なにも聞いてなかったのね。この制服が仮の制御装具(インペリウム)よ。ちなみに制服それぞれに特殊な細工をされてるから、なりすましなどの偽装も出来ないからね」

「なるほど、ハイテクだな」

「あんたねぇ」


 本当に理解してるのかと輝夜は目で訴えてく る。


「お、ようやく門か。近くで見ると壮観だな」


 門とそびえ立つ壁が放つ威圧感に思わず見上げる。

 絶対堅守の壁、それを誇るかのように壁にはキズ一つついてはいなかった。

 上を見上げていると中心にカメラのレンズが付いた球体のロボがゆっくりと降りてきた。


『制服スキャン完了、仮制御装具確認、天峰学園新入生確認、ドウゾオ通リクダサイ』


 ロボが俺と輝夜を交互に見て、あのカメラで確認しているようだ。

 それにしてもどういう技術なんだろうか。

 普通に中に浮いてるんだが。


反重力(アンチグラビティ)かしら?実用段階に来てたのは知ってたけど、実装されてたのね」

「なるほどね、反重力(アンチグラビティ)ね」


 原理はわからんが重力に逆らっていることはわかった。


「指向性を持たせての飛行運用はどうしてるのかしら?」

「よし、とりあえず中に入ろうか」

「ちょ、ちょっと!」


 思考の渦に飲まれそうになっている輝夜の背中を押しながら中に入る。

 俺にはさっぱりわからんから、もう超技術でスゴいで終わらせておこう。


 門を潜った先は大きな広場となっており、中央に案内板のようなものがある。

 俺たちと同じ制服のやつが見えるな、あいつらも新入生か。


「学園の位置確認しにいこうぜ」

「そうね、主要施設の場所も知りたいし」


 人だかりに混ざり、俺たちも地図を見る。


「学園の場所は・・・おっ近いな。近いがこれは・・・」


 歩いて10分ほどの距離にあるようだ。

 学園のHPでおおよその大きさは書いてあったが、地図で見るとその大きさを実感してしまう。


「今さらなんだが、これ学校の大きさじゃないよな。夢の国の遊園地くらいあるだろ」


 中学の時の修学旅行を思い出しながら地図をまじまじと見る。


「まぁ、研究施設とかも学園内にあるからしょうがないんじゃない?」

「校舎がそんなに遠くないことを祈ってるよ」


 地図を見る限り学園都市の門からは近いが、どの位置に校舎があるかは載っていないため、どれ位の距離を移動しなければいけないのかわからない。


「学園の場所が予めわかってたら楽なんだが」

「しょうがないでしょ、拒絶する壁(イージス)があるとはいえ最低限の警戒は必要なんだから」


 世界最高峰の技術と知識が詰まった研究機関故か、現地にいかなければわからない仕様となっている。

 拒絶する壁(イージス)の能力の一つに認識阻害があり、人工衛星や望遠鏡などを使っても、学園都市外からは確認できないようになっているのだ。


「場所が正確じゃないから間に合うかわからんな」

「そうね、そろそろいきましょうか」


 俺たちの回りにいた新入生も地図を見るなり急ぎ足で向かっていた。


「早く学園についてゆっくりした――――」

「あー、姫じゃん!朝からついてるー!」


 いいかけた言葉を飲み、俺たちの後ろから聞こえる声に盛大にため息をつく。


 頼むからこれ以上のトラブルはごめんだぞ。

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