出会い
次の日、エルシアは朝から新しい祠を掃除していた。古い汚れが多く磨いたところで見かけが大きく変わることはないが、それでも入念に全体を磨いていく。
家にいると色々と考えてしまいそうになり、明日からまた始まる仕事に支障が出るかもしれない。母親へ心配をかけてしまう可能性もある。それにこういった単純作業をしている方が、何も考えずにいられるからだ。
日が暮れるまで作業を続け、一通り整理し終えるとその場に腰を下ろして休憩をする。家を出る際に母親が持たせた水筒を手に取り、傾けて中身を口へ含む。中にはエルシアが好んでよく飲んでいるジュースが入っていた。母の気遣いと冷たいジュースがエルシアを潤す。
「よし、最後の仕上げ!」
休憩を終えて立ち上がり掃除を再開しようとすると、三人の少年が楽しそうに話しながら公園の中へ入って来た。なんとなく気になったエルシアはその子供達をぼーっと見ていると、子供達はそれぞれ茂みなどに落ちている空き缶や空き瓶を拾い集め、ゴミ箱のあるエルシアの方へ持ってくる。
「お、感心感心。最近は子供の方が純粋にこういうことしてくれるんだよねぇ…。」
子供たちは祠へ近づくと隣にあるゴミ箱に入れるのではなく、瓶や缶をエルシアの祠の上に並べ始めた。
「…?こっちじゃないでしょ?ゴミ箱なら隣に…。」
行動に疑問を浮かべるエルシアをよそにごみを並び終えると、一人がポケットからおもちゃのパチンコの様なものを取り出す。
「お前ら見てろよ!俺の腕はすごいからな!」
そう言って上部のゴムに石をひっかけ、強く引いた後に手を放す。勢いよく飛んだ石は狙いを外れ、エルの祠の内側に当たった。
「ちょっ、痛い!こんなことしたらダメでしょ!!」
エルシアは子供達を咎める声を上げるが、人間に天使の声が聞こえるわけもなく。
「外してんじゃん!次は俺な!!」
と二人目が楽しそうに一人目の子を退かして祠の正面に立ち、また放つ。
「痛い、やめてってば!」
次、また次と祠を撃つ石に苦痛の声をあげ続けること数十分。エルシアは膝を抱えて痛みに耐えていた。ゴムの音がする度丸めた身体を固くして耐え、落ち着き始めていた精神は際限ない痛みによって再び不安定なものになっていく。
「なんでこんなことになってるんだろ…。みんなの期待に応えて…頑張っていい学校にも入って、いい成績もとって…でも幸学の中では全く優秀じゃなくて…。だから私、今まで仕事以外何も見えないくらい、他の人達よりも一生懸命頑張ってきたつもりだった…!だけどそれでもダメで、きっと私がしてきた今までの百年、頑張った百年は全部無駄だったんだ。結局周りの人からの評判ばかり気にして行動してきた、空虚な私なんかが突然投げ込まれた様な幸学内で優秀になるために努力したって、意思のない私が何をすればいいかなんてわかるわけがない!わからない、私は何も…!」
エルシアはより強く膝を抱えいつ終わるかわからない痛みに耐え続けていると、新たな声が公園に響いた。
「おい、お前達!そこには神様がいるんだぞ!!そんなことしたらいけないんだぞ!!」
遊びに夢中になっていた子供達は手を止めて声の元へ振り返り、エルは降り止む石に子供らの様子を伺うため伏せていた顔を恐る恐る上げる。声の元には小学生高学年ほどの子供がいた。その子供はこちらに力強く歩き出すと、祠を背にかばうかの様に立ち三人の子供を睨みつける。
その態度に腹を立てた三人組の一人が一歩前へ出た。
「なんなんだよ、お前!急に出てきやがって、神様とかいるわけねぇだろ!」
「いるんだよ、そんなことも知らないなんてお前達はバカだな!さっさとどっか行きやがれ!!」
子供同士の口喧嘩を続けるも、祠の前から一歩も動かないその子を見て三人の子供達は
「変な奴だな!こんな奴ほっといてどっか別のところ行こうぜ!」
と言って公園から出て行った。
エルシアは予想外の救いに唖然としていると、残った子供は祠に並べられた空き缶や空瓶を隣のゴミ箱の中へ静かに放る。その後祠の内側に転がっている石を一つ残らず集めて茂みの近くに散らばらせ、上に乗った砂利や砂までも手で払った。
混乱しながらもその子の顔をしっかりと確認すると、後ろ姿を見えなくなるまで目で追い続けた。