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花嫁の到着

フロイデ(ガー)の出口から出てくる大勢の人の中に、明るい色のワンピースの上に紺色のコートを羽織ったサオがいた。

健二の姿をみとめると、花が咲くような笑顔になって足早に駆けてくる。


「いらっしゃいサオさん。長旅だったので、お疲れでしょう」

「健二さん、お久しぶりです。そんなに疲れてはいないんですよ。荷物の方は……その、健二さんの会社の引っ越し便で、先に送らせてもらったので」

「そうですか、それはよかった。じゃあ、車を待たせてるので行きましょうか」

「はい」


最近はブライが運転する車で会社に通っている健二だが、今日は久しぶりにダオに運転を頼んで黒塗りの大きな車を出してもらった。


車に乗ると、内装が珍しかったのか、サオはキョロキョロしている。

「大きいですねぇ。向かいにも四人ほど座れそうですね」

「そうですね。ウジャの町だとこういう車はあんまり見かけないですよね。僕もこの車に初めて乗った時には驚きました」

「はぁ~、なんか健二さんはすっかり都会の人になってしまって、ちょっと遠い人のように感じてしまいます。あの……本当に私でよかったんでしょうか?」


あれ?

サオさんは、この縁談に納得してるんだろうか?


「そのことなんですけど、サオさんは僕にとって、もったいなさすぎる人なんですよ。サオさんの方こそ、異世界から来た宇宙人で、仕事も始めたばかりの、こんな僕のような男でよかったんでしょうか?」

「あら……」


二人で顔を合わせて、同時に吹き出してしまった。


なんだ、お互いに同じようなことを心配してたんだ。



車の中で仕事のことやフロイデの町の住み心地などを話し、家に着いてからもダイニングキッチンやサロンで知人や家族のことを話し続けている。

サオさんとこんなに長く話し続けられることにも驚いたが、それがちっとも負担に思えないのも不思議なことだ。


以前、ウジャの町で隣同士に住んでいた時は、遠慮や恥ずかしさもあって数えるほどしか会話をしたことがなかった。

けれど目の前に「結婚」という免罪符があると、こうも違うのかと思ってしまう。



「そうなんですか、じゃあお兄さんはずっとこちらの下町に住んでおられるんですね」

「ええ、大学を卒業してからそのまま附属病院に就職したので、ウジャにはもう十年近く帰ってないですね。結婚してすぐに義姉が妊娠したので、これからは里帰りする回数も少なくなりそうです。両親はちょっと寂しく思っているのかもしれません」

「それなのにまた娘さんをエボルシオンに嫁に出すんですか? ……お父さんたちは、この結婚に本当に納得されてるんでしょうか?」


健二が心配そうな顔をしたからだろう、サオはクスリと笑って両親の考えを教えてくれた。


「健二さんは自分の評価が低すぎますよ。始めたばかりの仕事で大成功されていることもですが、人物評価も群を抜いていました。町長さんからいただいた釣書には、保証人のところにウジャの町の町長であるトーサン、セーラム大学教授のソンバック博士、世界的に有名なグループ会社の社長であるオウ会頭とそうそうたる名前が並んでいました」

「え? そうなんですか?」

「もう、知らなかったんですか? 困った人ですね。今度、皆さんに会った時にはお礼を言ってくださいね」

「はい」


はやくもサオに主導権を握られているような気がするぞ。


「ウジャのような田舎町では、同じ世代の人で話が合うような人はなかなか見つかりません。父も警察の伝手を頼って私の結婚相手を探してくれていましたが、良いご縁がなかったんです。私も同僚の中で同棲してみようと思えるほど好きになれる人がいなかったですしね」

「はぁ……」


なんか具体的に、サオの結婚相手を思い浮かべると、ちょっとムッとしてしまうな。

これは嫉妬というものなのだろうか。


「だから父としては、今回のご縁を喜んでいました。母の方は近いところに嫁にいってほしかったようですが、兄嫁が遠方から嫁いできてくれているので、自分だけが希望を通すわけにもいかないと言っていました。『どうせ嫁に出すのなら、マッチョイが住んでいる所に近い方がなにかと安心だし、こちらから訪ねるのも一度にできて便利だわ』と言って、最後には納得してくれたんです」

「そうだったんですか。それなら二人でなるべくたくさん、ウジャに里帰りをしないといけませんね。僕もトーサンやチャンに会いたいので、好都合です」


健二の言葉が嬉しかったのか、サオは幸せそうに微笑んでいた。


「あの……それに私も、以前から健二さんのことが気になっていて……あなたが引っ越しをされた時には、だいぶ落ち込んだんです」

「え? 本当ですか?! うわっ、僕も同じです」

「……」

「こっちに来てからも、サオさんは今頃どうしてるのかなと気になっていて、ほら、秋に植えられていた春野菜はもうできたのかな、とか……」

「もうっ、それって健二さんが料理に使いたかったからじゃないですか?」

「そんなことはないですよ。純粋に恋心です」

「え?」

「あ……」


うわぁ、口が滑った。


二人して真っ赤になってモジモジとうつむいてしまった。

しばらくしてサオさんがこちらを見上げてきた顔が、可愛すぎてキュンキュンしてしまった。

これは、今夜を期待していいのだろうか?


煩悩まみれの健二の頭の中に、理性を呼び戻すのは至難の業のようである。

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