結末B 『溺水性愛』 または 『???』
「以上、報告します」
「ああ、ありがとう」
男は手短に礼をし、手元の紙の束に視線を戻した。一通りそれに目を通したら、椅子に腰かけパソコンの電源を入れる。
長い黒衣が床に触れた。男は色の濃いサングラスを選んでかけ、クリックを一つ押す。すると、瞬時に目の前には真っ白な空間が広がっていた。
「やあ、皆。ご機嫌はいかがかな?」
「――――」
「…………」
「相変わらず、キミたちは辛気臭いなあ。ま、いいけどね」
男は反応のない空間を気にもせず言った。
「俺のモルモットが横取りされた。ついては、早急に症例『溺水性愛』を始末しろ。奴はすでにアチラ側、――『黒屍』だ。キミたちなら問題ないと思うが、油断だけはするなよ」
「症例『溺水性愛』。たしか性的倒錯・性的嗜好障害・性的嗜好異常。――総称『パラフィリア』の一種でしたか」
「ああ、そうだ。海やプールなどの水辺や水中、溺水や水没などへ性的嗜好を有する症状だ。奴はすでに女を数人、溺死させている」
「室長。こいつ、対馬国彦……能力はなんですか?」
男は気怠げに資料を指して、軽く叩く。
「不明だ。しかし症例と殺し方から十中八九、『水を操る能力』だろう」
「ふうん、なら僕がやろうかな?」
そう言って、大きく豚のようなシルエットが動いた。
「アホらし。『BN』お前が行って、なに出来んねん?」
今度は関西風のイントネーションの男が小馬鹿にしたように呟く。
「そんなの決まってるよ。水全部、飲み込むんだよ!」
ぐふふと笑い声をあげ、大きな腹を揺らした。
しかし関西風のイントネーションの男は、今度こそ呆れ果てたというように、大げさに肩をすくめるジェスチャーをした。そして、実際にアホか、と口にだしても言った。
「全部飲んでどうするん、そのあとは? お前、こいつ捕まえられるんか?」
「……? ああそうか。この男、けっこう足が早そうだしなあ」
無理かー、と残念そうに体を揺らして腰を下ろす。椅子が大きく軋む音が響き渡った。
「そう言うのならば。お前がやったらどうだ?」
「あ〝~、ダメダメや。俺、今月ピンチやねん」
「日頃、自己管理が出来てないからそうなるのだろう」
ネクタイをしっかり閉めたビジネスマン風の男の提案は、関西弁男の持つ諸々の事情により却下された。
困りきった表情で、「あ~、クソ。つまんねえ!」と喚く関西弁男に駄目出しを送ったビジネスマン風の男は、銀色のメガネのフレームの下、冷たい視線をこの場の全員に対して送っている。だが、それを気にする者などこの場にはいない。
なかなか立候補する者もなく、いっそのこと俺が行くか、と思った男は、部屋の隅でじっと微動だにしない新人の姿に目を止める。
「『DID』キミがやってみないか。キミの『仮面』なら簡単だろう?」
空間中の視線が、『DID』と呼ばれた人間へと集まる。
それに腰までの黒髪を艶やかに揺らした女は、しばらくして頷いた。
パソコンを落として机の引き出しにサングラスをしまった男は、首に手を当てていた。しばらくして、ゴキリ、ゴキリという音がする。
黒い白衣を着た男「警視正 美馬 隆二」は、手の中にある資料をゴミ箱に捨てると、代わりに棚に仕舞われていたカルテの一つを取り出していた。
警察の特殊部署『精神病学捜査研究所』、通称『神捜研』の室長は、口を歪め愉快そうに笑う。
「ハイト君。俺はちゃんとキミに忠告したのにな。どっちを選んでも行き着く先は同じだと」
まあ、俺はどちらでも構わないし――逃がしは、しない。
最後まで見て頂き、ありがとうございました。
結果、ハイト君はどちらのエンドでも「神捜研」所属でイカレな同僚と上司にこき使われる予定です。
しかし、本人の性格も能力と症例もエンドによって変わる設定です。
これは本編のサイキックの話の前日譚のつもりで書いたものです。本編はホラーではなくSFになると思うのですが、いつか書くかもしれません。その時は、ぜひ読んでみてください。よろしくお願いします。




