Page43.地雷娘
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「楽じゃのう。」
リムは半透明のソファに背を完全に預けてだらけきっている。僕たちはピリカのウインドボードで谷を砂埃を巻き上げながら爆走中だ。後数十秒もすれば谷を抜ける。
徐々に谷の町側の入り口が大きくなり、その奥に黒い点々がひしめき合っている。マップで確認すると赤く光っており、敵性存在であることが分かった。
「主様!!入り口付近に気持ち悪い色の男たちが集まっています。」
「ブフッ!?気持ち悪いって……直球だね。」
「それ以外の言い方がなくて……。」
トリアが余りにストレートな物言いをするので思わず笑ってしまった。
見えてきたの人相の悪そうな人の群れ。なんだか数百人はいそう。なんでこんなに集まってるのかな?
「おい、奴らやっぱり逃げ帰ってきたみたいだぜ!!」
「ああそうだな。まだここに入って1日しか経ってねぇ。それじゃあ何も得られないだろ!!」
大声で話してる内容から察するに、この人たち僕達を待ってたの?なんで?
「おまえら、ここは一時休戦だからな!!」
「分かってるって。あいつらから"ふくろ"を奪い取るまでは協力してやる!!」
お~、なんとなく話が見えてきた。こいつらは僕の"ふくろ"が目的らしい。一応話を聞いてみるか。
「ピリカ止まってくれ。」
「はーい。」
僕たちはスピードを落とし、集団の前で止まりウインドボードを降りた。
「あの~、こんな所に集まってどうしたんです?通行の邪魔なので退いてもらえると助かるんですけど。」
「俺たちゃお前にようがあったのさ。ものが沢山入る袋持ってんだろ?それを俺たちに寄越せよ。ついでにお前が侍らせている女も置いていけ。」
丁寧に尋ねると、やはり目的は袋だった。
しかし、袋だけなら許してやろうかと思ったけど、欲に目が眩んでピリカ達にまで手を出そうと言うのなら許さない。
「そんなの渡す訳ないじゃないですか。頭が弱いので?」
「はぁーん!?お前この戦力差がわからねぇのか?」
僕はヤレヤレと呆れ気味に答えると、リーダー格らしき男は一度振り返って人数を見るように促した後、醜悪な勝ち誇った表情を浮かべた。
「はぁ……しょうがない。戦意消失魔法『ルナ&ソル』」
「「にゃ。」」
僕は相手の戦意を挫く最強魔法を唱えた。僕の前に九本のモフモフ尻尾を生やした、金色と銀色の二匹のにゃん狐が出てくる。
そして、上半身を起こして、前足を揃えた形の犬のお座りに近い姿勢、所謂エジプト座りをして、お互いに対称に首を傾げた。
「「にゃーん」」
つぶらな目をウルウルさせて男達を射抜いた。
『ぐは!?』
男達が一斉に膝をつく。たった一人を除いて。
「お前ら!?一体どうしたんだ!?」
その一人の獣人が慌てたように男達に声をかける。
「わからねぇのか。あの二匹は恐ろしい生き物だ。」
「そうだ、あんなクリクリした目に見つめられたら、俺たちのハートは簡単に撃ち抜かれちまったのさ。」
二人の男が悔しそうにこちらを見ながら答えた。
ふふふ、ルナとソルの可愛らしさがよく分かっているじゃないか。
「それに見てみろあの毛並み。高級な絨毯など足元にも及ばないであろう滑らかさと艶。」
「触れば極上の感触を与えそうなボリューム。」
「そして何者にも汚されていない純真無垢なあの顔。」
「どれをとっても俺たちじゃ太刀打ちできねぇ!!」
「俺達の負けだ。完敗だぁ!!」
一人の男が語り始めると、それを繋ぐように次々と別の男が言葉を紡いでいく。それと同時に全員から戦意が失われた。
「くっ!?この役立たずどもが!!」
残っていた一人の獣人が自分の剣を抜いて僕たちに飛びかかってきた。
「ぐへっ!?」
しかし、ハクの気弾であっさり制圧された。
「ハク、あれちゃんと生きてる?」
「ん。1%未満に抑えた……大丈夫。」
ピクピクと痙攣している男を見て心配になった僕は、ハクに問いかけると、ハクは無表情のままサムズアップして答えた。
いつも出してる力の百分の一未満か。飛び出してきた男も不憫だな。
ん?この男どこかで見たことあるような?
あ、ブランクラフトの谷で助けた派遣員チームのミノールの仲間の一人じゃないか。
こいつは性格を書き換えればミノールに報告に行くだろう。その後で対応すればいいや。
その後、全員のステータスを生贄にして真面目な性格に書き換えた後、放置して街へと向かった。
帰りは目ぼしいモンスターも居なかったため、2日間で街道を走破し、9日ぶりに街へと帰ってきた。
よく思えば僕って町に滞在してる時間より外にいる時間の方が圧倒的に長くない?別にいいんだけどさ。街をゆっくり見て回ってないというか……。
護衛依頼まで時間がありそうならもう少しゆっくり見て回ろう。
「兄貴生きてましたか!!良かった。随分帰ってこなかったから心配しましたよ。」
街の門の順番が回ってくると、更生させた門番が本当に嬉しそうに表情を歪めて声をかけてきた。
いやぁ、自分でやっといてなんだけど、性格いじるとか本当に鬼畜だよね僕。突っかかってきた時は凄くヤンチャだったのに今では見る影もないよ。僕はこっちの方がすきだからまぁいっか。
「おう、ちゃんとやってるようだね。」
「うっす!!兄貴に叱られて以来きちんと働いてますよ。街の皆にも声をかけられるようになって……これも兄貴のおかげです!!」
「そ、そっか。それで新しい仲間が増えたんだけど、通って大丈夫?」
「はい!!兄貴が連れてきた方なら誰でも大丈夫です!!」
「お、おう。じゃあ通るね。仕事頑張って。」
「うっす。兄貴に応援されるなんて俺感激っす!!粉骨砕身頑張らせて頂きます!!」
いやぁなんか物凄く感謝されちゃってるし、尊敬されちゃってる。なんか逆に罪悪感を感じるけど、もう考えるのは辞めよう。
僕たちは町の中へと進んだ。
「おお、人が一杯なのじゃ……。ぐすっ……。うぅぅ……。妾は……街にきた……。」
街の中に入ると、リムが行き交う人々や客寄せなどをしている人たちの多さに目を潤ませた。自分も同じように生きているのに、人の中で生きることが許されなかった彼女が、そこに普通に存在しても何も害を与えないことに感極まっているのだろうと思う。
僕はリムの手を引き、通行の邪魔にならないよう道の端に寄った。
「うぅぅ……。すまぬ……すまぬのじゃ。」
動けない自分が迷惑を掛けていることをひたすらに謝るリム。
しかし、いくら待てどもその涙が止まることはなかった。
僕はしゃがんでそっと抱きしめて背中をゆっくりと撫で続けた。
「ふぅ……済まぬ。随分と待たせてしまった。あっ!?」
僕が密着していた体を離すと、リムの足がカクンと操り人形の糸が切れた如く力が抜けた。僕はとっさに抱きかかえる。それは正にお姫様抱っこだった。
小さいだけあって僕でも抱きかかえられるくらいには軽い。
「な、なななにするのじゃ!?妾は子供ではないのじゃぞ!?」
「子供みたいなもんでしょ。あんなに泣きじゃくって。」
「ムキ―!!失礼な。妾は泣いてなどおらぬ。目に強力な毒が入っただけなのじゃ!!」
じたばたと暴れるリム。
「こら!!いい加減大人しくして。周りに迷惑だよ。」
グイグイと僕を追い払おうとする手に苦しみながらも僕はリムを叱った。
「はっ!?」
周りがこちらに注目していることに気付いたリムは、カァッと一瞬で茹蛸のように顔を赤らめ俯いて大人しくなった。その様子をみていた街の人たちは微笑ましそうに僕たちを見た後、仕事へと戻っていった。
僕たちが以前泊まった宿屋に向かうと、部屋は二部屋空いていた。
「リムだけ別の部屋で。それ以外は同じ部屋ね。」
「なんでじゃ!?妾だけ仲間はずれかや?」
僕が部屋を別にすると言うと、リムが切羽詰まった顔で僕を見上げる。
「違うよ。それが異性の友達と家族の距離感の違いってやつさ。男女の友達同士が同じ部屋に泊まることはないんだよ。幼馴染とかでない限りはね。」
「それなら妾を幼馴染にしてたも?」
「それは無理。小さい頃から近所に住んでいて仲のいい友達が幼馴染だからね。」
「なぁどうしたら一緒に部屋にしてくれるのじゃ?恋人とやらになれば良いのか?それとも夫婦か?」
一人で寝るのが余程嫌なのか、リムは食い下がる。その目には涙が溜まっている。
うっ、そんな目を見つめるのはやめてほしい。なんだか悪いことをしてる気分になってくる。
「まぁそうだけど、それはそう簡単になれるものじゃないからね。」
「そうなのかや……。なら、そ、そうじゃ!!妾をお主の奴隷にしてたも!!ピリカ達も奴隷なのじゃろ?それなら問題ないはずじゃ!!」
最終的に奴隷になるとまで言うリム。僕の上着を両腕でギュッと掴んで問い詰めるような姿勢になって、涙を流しながら僕の瞳を見つめている。
まさかここまで依存されているとは思わなかった。
うーん。どうしたものか。
高級店あって受付にいるのは執事風の職員だけだけど、目の前で行われているやりとりに流石の彼も目を開いていた。
年端もいかない幼女を一人別の部屋に追いやる男にしか見えないから流石にバツが悪い。
「ご主人様……一緒の部屋にしてあげてもらえませんか?」
「ごしゅじん……一人は寂しい……。」
「あ、主様、私からもお願いしましゅ!!」
ピリカ達もリムの辛さが分かるのか、懇願してくる。
うーむ。見た目幼女のリムを一人部屋にするのも問題があるか。仕方がない、ここは僕が折れよう。
「はぁ……しょうがないな。一緒にいる間だけだぞ。」
僕がため息を吐いて許可した。
「うぅ……ありがとなのじゃ……。」
リムは俯いて床に涙をこぼした。
こりゃとんでもない爆弾娘を抱えたと、僕は内心で頭を抱えた。でもまぁ可愛いからいいかと思い直した。




