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Page42.初体験

評価いただきました。

それから総合評価が不吉な444ポイントになりました。

ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

「もう日も暮れた。ど、どうしてもというなら泊めてやってもよいぞ?」と言うので、お言葉に甘えてリムの城で夜を明かすことになった僕達。


 物を食べることも、風呂に入ることも、お花を摘むこともなく、寝ても寝なくてもよかったリムの城は、玉座の間と寝室、地下の魔石倉庫があるだけ。家具もベッドさえもなく、あるのは玉座くらい。よくこんな所に一人でずっと居て発狂しなかったものだ。


「妾が友を家に招待出来るとは……生きていて本当に良かったのじゃ……。」


 僕達に聞こえなかったが、リムは感慨深げに独りごちでいた。


「リムはこの城に思い入れはある?特に中に。」

「ないのじゃ。それがどうしたのかの?」

「いやちょっと何もなさ過ぎて僕達がキツイんだよね。トイレとか風呂とか寝室とか。」

「ガーン。」


 僕の言葉にショックを受けて崩れ落ちるリム。「妾の家は友を呼ぶに相応しくないと言うのか……。」などと呟いている。


 泊めて貰えるとはいえ、野宿の方が居心地が良いというのは流石に辛い。リムはかなり世間知らずだし、言うことは言っておく。


「落ち込んでる所悪いんだけど、風呂とかトイレとか作っていい?」

「おお!!そんなことができるのかや?作ってたも!!」


 ということで、僕は図鑑でリムの城を確認して、リビングに客室と脱衣所に十人は入れる風呂、トイレを増設した。風呂とトイレは現代日本をモデルに、半永久的に動く仕様にしている。しかもトイレットペーパーや石鹸やシャンプーなどの消耗品は途切れずにずっと生成され続ける優れもの。お陰で五十万ポイントも飛んだ。元々リムのものだし、このくらい掛けてもいいだろう。


 地下倉庫にあった魔石を全部図鑑に取り込んだ所、十兆ポイント越えしたので、余程のことがない限り大丈夫だと思うしね。流石に六桁年の蓄積量は伊達じゃなかった。


「ふむ、これが人の住む家というものか。」

「他と違うと思うけどね。どう?気に入ってくれた?」

「う、うむ。悪くないの。」


 こっちの好き放題にいじったけど、満更でもない様子のリム。


 僕が作った家をこの世界の基準にしそうなので訂正しておく。ちゃんと理解してるのか分からないから街に着いた後もう一度説明しておこう。


 これでかなり便利な生活が出来るな。ピリカの精霊魔法に頼らなくていい部分が増えるし。


「それから言い忘れてたんだけど、体をいじった時、欲求とか代謝とか人間に少し近づけておいたから。」

「な、なんと!?そんなことまでしてくれておったのか?ありがとなのじゃ。」

「ここは人の体を断りもなく勝手にいじってと怒る所だと思うけどね。」

「いや、これからは人の生活をしてみたかったからの。助かったのじゃ。通りでお腹の辺りが背中とくっ付きそうな変な感じがすると思ったわ。」

「あ、それ腹が減ってる証拠だから。俺たちも昼食べてないし、夕食にしよう。」

「ほほう。ここで初めての食事というものが体験できるとは……。タクミとの巡り合わせには感謝せねばならんな。」


 死を撒き散らす力を書き換えた時に断りもなく体の機能をいじったことさえ感謝される始末。なんて事してくれたんだ、と抗議されるかと思っていたけど、拍子抜けだった。


 やはり普通の人間とは怒る点が違うらしい。


「これが食事というものか!!美味いのじゃ!!」

「そりゃ良かった。でも食べものというのは今出してるものだけしゃなくて、まだまだ色んな種類があるんだよ。それこそ数え切れないくらいに。」

「なんと!?そんなにかえ?これはますます色んな所に行って色んな物を食べたいのう。」


 僕がリビングで出した初めての食事にリムは大興奮。


 今回は、自分が気に入った店の串焼きやスープとパンを出したんだけど、食事が大層気に入ったリムは、世界を旅するかもしれないね。


 とは言え、街の外が危険地帯のこの世界で、どれほど食事のバリエーションが増やせるか、というのはちょっと疑問だけどね。その土地土地の郷土料理を食べるというイメージになりそう。


 僕以外の勇者が広めようとしても一部の金持ちくらいしか食べられない金額になるんじゃないかな。魔法の袋もないみたいだし。


 僕でも作れる簡単な料理くらいは今度作ってあげるのもいいかも。


 ルナとソルは一心不乱にご飯を食べている。


「リムちゃんは可愛いのでオシャレするのも良いと思いますよ。」

「オシャレとな?」

「今その魔力で作ったローブしか着てないみたいですけど、世の中にはもっと沢山の服があるんです。リムちゃんは可愛いから勿体ないです。」

「か、可愛いじゃと!?ふ、不遜じゃぞ?」

「可愛いは正義……」

「そ、そうなのかや?」


 ピリカが服やアクセサリーの話題を振る。


 確かに身の丈に合ってなさすぎるローブしか着る物が無いというのは、女の子としてどうかと思う。皆も似たような境遇だっただけに買い物の醍醐味なんかも教えてあげたいんだろう。


 それに食事同様バリエーションな少ないだろうから少なくとも僕が分かる範囲でそのバリエーションを増やしてあげたい。特に現代下着、スカート、水着、ニーハイソックスの作成は急務である。これは至上命題だ。断固として譲れないのだ。


 3人が僕とお揃いの腕輪を自慢してリムが羨ましそうにしていたのはとても印象深い。しかし、リムはあくまでも"友達"。家族じゃない。僕があげるものじゃないんだよね。


 食事が終わった後、お互いのこれまでの事を話すことになったけど、基本的には僕達のここまでの旅の話をして、リムはそれを嬉しそうに聞いていた。


「なぁ、なんだかお腹の下の方が張って、股のあたりがムズムズするのじゃが。」


 その途中でいきなりそんな事を言われた。


「お、おしっこじゃないでしょうか?」


 リムが言ってることに対してトリアが答える。


 なるほど。


「それじゃあ、トリア一緒にトイレについてやってくれない?トイレの使い方は大丈夫?」

「わ、分かりました。さ、さぁリムちゃん行きましょう。」

「分かったのじゃ!!」


 トリアがリムを連れてトイレに立った。


 数分後、リムがやたらと機嫌が良さそうな笑顔で戻ってきて「おしっこ、というものはなんとも爽快な気分になるのう。病みつきになりそうじゃ。」などと宣ったので、人前で、特に男の前でそんなことを絶対しゃべらないようにこんこんと説教をした。


 リムは涙目になっていたが、心を鬼にしなければならない。なぜなら今後人のような生活をしていく中でそんなことを人前で言ったら恥をかくのはリムだからだ。


「もう分かったのじゃ。言わないから許してたも?」


 説教を始めて一時間後、リムが目をウルウルさせて訴えてきたので流石に辞めてあげた。


「さて、そろそろ風呂でも入るかな。ピリカ、ハク、トリア、リムと一緒に入ってきなよ。」

「なんじゃ?お主も一緒に入ればいいではないか。」


 僕がお風呂を勧めると、リムはそんなことを言ってきた。


「また説教しなきゃいけなそうだ。」

「ひっ。なんでじゃ!?」


 僕がジト目で睨むと、ガクガクと震えながらリムは怯える。


「風呂ってのは男と女は分かれて入るもんなんだよ、恋人や家族以外は。友達なんて論外だから。」

「なんと!?そうであったか……。妾のナイスボデーを見せるいい機会だと思ったのじゃが。」

「見せなくていいから。さぁ入ってきなよ。」


 リムの世間知らずっぷりはこの先思いやられるなぁ。


「ご主人様、奴隷の私たちが先に入るなんてできないので先に入ってください。」

「ん。」

「そ、その通りでしゅ。」


 先に入るように勧めたのになぜか否定された。仕方がない先に入るか。


「分かったよ。先に入ってくる。」


 僕は脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へ足を踏み入れた。


「ふぅ~。」


 風呂椅子に座り、久しぶりのシャンプーで頭を洗う。最近はもっぱら精霊魔法で洗浄するだけだったからうれしい。やっぱり元々シャンプーで洗っていた身としては物足りないんだよね。


 ――ゴシゴシッゴシゴシッ


 指の腹を使って頭皮を優しく洗う。


 ――ガラガラッ


「ん?」


 何か音が聞こえたような……。


「ご主人様♪」

「ごしゅじん……。」


 後ろから幸せな感触が伝わる。


「うわっ!?」


 予想していない事態に思わず声が出る。ふにょん、この感触はピリカとハクだな。しかし、泡で目がふさがって見えない。僕は頭をシャワーで流す。


 目の前にいたのはタオルを巻いたトリアとリムだった。


「な、なんでいるんだよ!!」


 あれだけ言ったのに伝わらなかったのか?


「タオル巻いてれば友達でもOKと教わったのじゃ。」


 リムがフンッと鼻で笑ってドヤ顔で腕を組む。


 なんだと!?


 僕は他の三人をジト目で睨む。


『ひゅ、ひゅ~』


 全員が鳴ってもいない口笛で誤魔化した。誤魔化せてないぞ。


 ピリカとハクも珍しくタオルを巻いている。この調子でちょっとずつ恥じらいというものを何としてでも覚えてもらいたいところだ。


「はぁ……仕方ない。今日は許すけど、他に男の友人が出来た時は絶対一緒に風呂なんて入ろうとするなよ。恋人や夫婦になったなら別だけど。」

「わ、分かったのじゃ。」


 僕があきれながら許すと、ホッとしたようにリムが安堵する。背中を洗いっこして、ルナとソルを洗った後、湯船につかった。


『あぁ~』


 全員の声が重なる。これは何度風呂に入っても出てしまう仕方ない声なのだ。


「これが風呂というものか。気持ちいいのう。」

「お風呂すき……。健康にいい……。」

「そうなかや?」

「うん……。病気にかかりにくくなるし……汗と一緒に悪い物を……体の外に出せる……。」

「なるほどのう。」 


 リムは湯船の縁に背を預け、ほとんど風呂に浮かんで漂って会話する。ハクはその隣で風呂の良さについて語っている。僕はその隣、さらに隣にピリカがいて、僕に背を預けるようにトリアが座っている。


「キュ。」「ニャ。」


 ルナとソルはバシャバシャと湯船を泳いで遊んでいる。


 あ、でも一言釘を刺しておかないと。


「お風呂は街にはあまりないからね。入れるのは人間でも偉くてお金を沢山持ってる人くらいだから。宿もよっぽどいい宿じゃないとないよ。」

「ふむふむ。」

「それに、ここまで充実した風呂を提供できるところがあるかもわからないからあまり期待しないように。」

「そうなのか、分かったのじゃ。」


 この城の風呂と違うとか言い出してトラブルになったら大変だからね。


 それから15分ほど風呂を堪能した僕たちは風呂から上がった。でも真のお楽しみはこれから。


「皆もった?」

『はーい。』『ニャーン。』


 皆が手に持っているのはもちろんあれ、そうコーヒー牛乳とフルーツ牛乳だ。脱衣所に設置しておいたんだよね。やっぱり風呂上りにこれは欠かせないでしょ。ルナとソルには深皿に入れてやっている。


「足を肩幅に開いて、腰に片手をあてる。」

『はーい。』『ニャーン。』

「ではいただこうか!!」

『はーい。』『ニャーン。』


 全員で瓶を思いきり呷った。


 ゴキュゴキュと嚥下音だけが場を包む。


『ぷはー。美味い!!』『ニャー!!』


 一気に飲み終えると、皆に大好評だった。気に入ってもらえてよかった。


 その後、僕たちは客室、リムは寝室に戻った。やっと眠れる。そう思ってベッドに倒れ込んだ。


――バンッ


 しかしその時、客室のドアを勢い良く開く音が聞こえた。誰だ、といえばリムしかいないのだけど。


「どうしました?」


 ピリカがリムに近づいて尋ねる。


「わ、妾も一緒に寝たらだめかや?」


 リムがモジモジして顔を赤らめながら答えると、ピリカが困ったように僕の方をみる。


 こんなんじゃ絶対町に行ったらコロッと騙されてしまうぞ。リムは不老不死だし、ステータス自体は規格外に高いから万一もないと思うけど、無知ゆえに嫌な思いをする可能性はゼロじゃない。それに相手の方が悲惨な結果になって、その結果リムが町にいることができないという事態もあり得る。


「はぁ……。しょうがない。いいよ。」

「ホントかや!?ありがとなのじゃ。」


 僕が大きくため息吐いて許可すると、花が咲いたような笑顔を見せてリムは喜んだ。


 設置した4つのベッドのうち2つを連結させて、僕を中心に、左右をピリカとハク、上をトリア、ピリカの隣にリムが横になる。「これが友とのお泊りなのじゃな。」と興奮するリムとピロートーク?をしているうちに誰ともなし言葉がなくなって、いつしか全員の寝息だけが部屋に残った。


「ふぉーー!!妾の袋じゃ!!」


 次の日、全員分の魔法の袋を作ると、リムが人一倍喜び、袋を掲げて謎の舞を踊っていた。ルナとソルも首に袋をかけて一緒に走り回る。そこまで喜ばれると作った側としては非常に嬉しいものだ。


「ふふふ、これで一人でも稼ぎ放題。」


 人には見せてはいけないくらい顔を歪ませているのはピリカ。他の二人は腰に身に着けてニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「さて帰りますか。」

『はーい。』『ニャーン。』


 僕の呟きにリムも含めて全員が返事を返す。いやいやいやおかしいでしょ。


「リムも行くの?」

「そうじゃぞ。町に行ってみたかったのじゃ。ばらばらに行くより一緒に行った方がよかろう?」

「全く急だなぁ。仕方がない。町まで送るよ。」

「分かったのじゃ!!」


 城にとどまると思われたリムが一緒に街に行くと言い出した。確かにばらばらに行くのは得策じゃない。僕たちにとってよりは主にリムにとって。


 はぁ……これから常識を覚えさせるための日々を思い浮かべながら僕たちは帰路についた。

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