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Page40.群れから追われた子狐

6万PV、1万ユニークアクセスありがとうございます。

また評価も頂きました。 ありがとうございます。

感謝の更新です。

「ここが神秘の森かぁ……。」


 樹齢数百年の大樹よりも太く高い樹木が乱立し、空気が澄んでいて、それでいて神社のように清浄な気配が森全体から漂っている。木々の葉の隙間から光が差し込み、まさに神秘の森と呼ぶに相応しい天使でも降り立ちそうな光景が広がっていた。


 僕はため息とともに感嘆の言葉を漏らす。ん?なんか最近自然や圧倒的な光景に感動してばかりだ。地球にいる時はそんなことなかったけど、それはつまり何も経験してなかったのかもしれない。一人で部屋に籠ってることが多かったからなぁ。そんな僕がこんなに外に出かけているなんて地球いた頃からじゃ考えられないね。異世界様様だ。


 しかし、魔物などいなそうな雰囲気の森にも関わらず、ある程度モンスターは生息しているらしい。マップに複数の反応がある。どんなモンスターがいるのか少し気になる。


「わーい!!枯れないのじゃー!!」


 リムが手を広げて走り回っている。どこかの天気の名前のロボットみたいだ。それだけ見ると年相応のと子供に見えるけど、実際は僕たちの誰よりも年上だ。彼女は自分が近づいても木も草も枯れないことに感動してはしゃいでいる。ずっと一人だったから精神も比較的幼いのかもしれない。無理して大人ぶってる可能性があるね。


「ゆ゛め゛の゛よ゛うじゃあ゛あ゛あ゛。ぐす……う゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛」


 声にだんだん嗚咽が混じり、ゆっくりと走るのを辞め、最終的には足が止まって立ったまま大声で泣き始めた。それだけ信じられない現状に、感動という言葉では済ますことが難しい色んな気持ちが溢れてしまってるんだろう。


 会ったばかりにも関わらず、自分たちと似たような部分があるからか、ピリカ達が駆け寄って全員で抱きつき、よしよしと頭を撫でたり、背中をさすったりしていた、特に何も言わず、ただただ無言で。しばらくの間、涙の四重奏が空間を支配した。僕は皆の姿を見ながら物思いに耽っていた。


「ま、待たせたのじゃ……。」

「気にしないでいいよ。それよりもせっかくの可愛い顔が台無しだよ。」


 目の周りを真っ赤に腫らして帰ってきてモジモジと恥ずかしそうにするリム。僕はその目元に残る涙を袖で拭ってやった後、スキルで腫れを引かせてやった。


 目を腫らしてちゃ勿体ないからね、可愛い娘の泣き顔は可愛いけど、やっぱり笑顔が一番。


「な、何をするのじゃ馬鹿者!!」

「もう……涙を拭いただけじゃないか。」


 僕の行動に怒ったのか僕の手を払いのけるリムは、顔を真っ赤にしている。小さいから年の離れた妹か姪っ子でも出来たような気分だ。世の中の兄や叔父が猫可愛がりしたがるのも分かる。


「またご主人様が追い打ちかけに行ってるわよ?」

「ごしゅじんだから……。」

「あ、主様は優しいですから……。」

「そうなのよね~。」


 リムの後ろで何やらコソコソと話をしているけど、僕までその声が届くことはなかった。


「レディに気安く触るなど、ゆ、許さんのじゃ!!」

「ごめんごめん、小さな妹が出来たみたいでつい。」

「ちっちゃくないわ!!妾は立派な淑女じゃぞ!!このボンキュッボンのボデーをみよ!!」

「ストーンストーンストーンボディの間違いじゃ?」

「なんじゃとー!!この無礼者め!!」


 苦笑して頭を掻く僕の胸をリムはポカポカと叩く。


 あれ、おかしいな?攻撃は受け付けない筈なんですけど?痛みも感じないはずなんですけど?凄い痛いんですけど!?僕の能力を超えてくる不死の女王の力ヤバない?


――キューーーーーーーーーー!!


 僕たちがじゃれていると、森に悲痛な鳴き声が木霊した。おそらく襲われているのだろう。マップを確認すると、二匹の小さな反応に、一匹の大きな反応がにじり寄っている。


「今の声は……。」

「獣の鳴き声じゃな!!行くぞ!!」

「え!?待ってよー!!」


 悲鳴を聞いて駆け出すリムを追いかける僕たち。リムの移動速度がめちゃ速い。これが不死の女王の実力。下手したらハクより速いんじゃない?気づいたらその背中が豆粒みたいな大きさになっていた。


「むっ……。」

「わわっ!?」

「へっ!?」


 何を血迷ったのか後ろにいたハクが対抗してスピードを上げる。僕とトリアは何故か小脇に抱えられた。


 これは嫌な予感……。


「いく……。」


 小さく呟いた後、急加速。ドンッと巨大な太鼓でも叩いた様な音と風の壁を突き破る衝撃を受け、僕の顔は風の抵抗で肉が流れる。ウギギッ。


「うひゃーーーーーー!!」

「あふぁーーーー!!」

「ハクちゃんは負けず嫌いですねぇ。」


 僕とトリアの顔が凄いことになってる横をピッタリと付いてくるピリカ。ピリカもやっぱり只者じゃない。精霊の力を借りてるんだろうけど、よくハクについてこれるもんだよね。


 そうしてる間にぐんぐんリムに追いつき……、そして抜き去った。抜き去る瞬間、ハクはリムの顔を見て勝ち誇り、無表情ながらドヤ顔を感を出している。


「な、なんじゃその顔はーー!!負けぬ、まだ負けぬよ、妾は!!」


 ハクの顔にイラついたのか張り合うリム。必死に食らいついてくる。二人はこんな時に何してるんだ、全く。後数秒もすれば悲鳴の中の主の元へ辿り着く。わかってるんだろうか?


 凄まじい風の中かろうじて見えるのはキマイラという文字列と、獅子の頭と胴体に、蝙蝠の羽、蛇の尻尾を持つ化け物が小さな二匹の生き物にすぐにでも飛びかかろうとしている場面だった。


「いた!!」


 僕が叫ぶ。早く助けないと!!


「キャウンッ。」


 情けない鳴き声がドップラーしていく。その声の主はキマイラだった。しかし、二人はキマイラを跳ね飛ばしても止まることなく、そのまま突き進んだ。


「うぉーい!!こら!!どこまでいくんだ!!悲鳴の主は通り過ぎたよ!!戻って戻って!!」

「うぎぎぎぎぎぎ!!」

「むむむむむむむ!!」


 僕の必死の叫びも虚しく、お互いに夢中になって二人が止まる気配がない。一体どうすんのよこの状況。


「ロックハンマー!!」

「アヘッ!?」

「ギャ!!」


 鈍器で殴られた様な鈍い音とともに二人の歩みが止まる。ハクは僕とトリアを下ろし、リムと供に頭を抱えてのたうち回る。


「二人とも何やってるんですか!!現場通り過ぎましたよ!!」

「あっ!!」

「むぅ……。」


 どうやらピリカが精霊魔法で二人を止めてくれたらしい。二人はピリカの言葉にハッとした表情を浮かべた後、バツの悪そうな顔になった。


「キマイラはお金になるし、二匹の獣も高く売れるかもしれないのに、余計なことで張り合わないように!!」

「すまぬ。わ、わかったのじゃ。」

「ごめんなさい……。」

「そっち!?」


 ピリカの主張に、その異様な圧力からか二人は素直に謝った。


 違うくない!?そこは最初の目的を見失って二人で張り合うのに夢中になってしまったことを攻めるところじゃないの!?僕がおかしいの!?ねぇ!?


 僕達が元の場所に急いで戻ると、四肢が千切れピクピクと痙攣してぐったりと倒れているキマイラと、二匹の獣が怪我をして血を流して木の根元付近に倒れていた。


 リムが2体の獣の元に駆け寄ると、僕達もキマイラに留めを刺した後、それに続く。そこに居たのは二匹の狐であった。ただ、普通の狐と違うのはフサフサの尻尾が九本生えていたことだ。所謂九尾の狐ってやつかな。


「これは珍しいですね。幻狐種です。狐系のモンスターとは違って理性的な狐で、出会った人に幻を見せてイタズラをしたり、命の危機を助けてくれたりする種族ですね。幻狐は通常尻尾が一本なので変異種だと思います。これは好事家に一匹金貨千枚以上で売れますよ!!」

「お主は鬼畜なのか!?」

「ピリカそれは流石に酷いと思うよ?」

「じょ、冗談ですよ、冗談!!そんなことしないですよ?」


 ピリカの目がまた金貨になってる。絶対売る気満々だったでしょ。目を逸らして冷や汗かいてるし。


「なんとかならんのか?」


 横たわる狐の前にしゃがんだ後、僕を見上げるリム。だから目を潤ませて上目遣いをするのは止めろ!!幼女力の高いお願い攻撃を耐えられる大人は居ないのだ。


 見たところ血がかなり流れており、このままだと死んでしまうだろう。助ける義理はないけど、流石に見捨てて死なれるのも目覚めが悪い。しかもモフモフだし。だから僕はこう言う。


「力が欲しいか?」


 と。


「いや、ご主人様意味が分からないですよ?」

「欲しい……。」

「は、ハクさんにはもう要らないんじゃないかな~?」

「お主らは何を言っとるんじゃ!?」


 混乱する四人。


 ふぅ。分かっていた。誰もネタを知らないからこうなることは。しかし、人には言わねばならない時がある。今はその時だったのだ。


「「キュー……」」


 か細い二つの声が耳に届く。


 そうか欲しいか。ふふーん。いいだろう。


 図鑑で見たところ、元々の里を忌み子として追われ、逃げてきたようだ。生きていると分かれば、今の姿のままだと後から面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。傲慢だし、倫理に反すると言われるかもしれないけど、僕達が面倒事に関わらないためにも、この際だから姿も変えてしまおう。


「姿形が変わることになるがいいか?」

「な、何言っとるんじゃ!?さっさとせんか!!」

「もう煩いな~。せっかく様式美ってやつをやってるのに。どうする?」

「「キュー……。」」

「いいからはよせい。」

「分かった、分かったって!!返事もくれたし、やるさ。」


 僕の服を掴んでガクガクと振るリム。力強いんだからやめてほしい。肩外れちゃう。さて、姿が変わることにも了承してくれたからサッサとやってしまおう。


 僕は彼らの情報を書き換えた。


 彼らを光が包み込む。見る見る傷が塞がり、血も元に戻っていく。完全に健康な状態を取り戻す。それと同時に姿も徐々に変化していき、変化が終わった時その場所に横たわっていたのは、九本の狐尻尾が生えた金色と銀色の猫、つまり『九尾のにゃん狐』だった。


「「ニャーン!!」」


 彼らは変化が終わるなり、むくりと起き上がり、僕の元へ駆け寄り飛びついて来た。


 ふわぁ、僕の好きな猫と狐のモフモフ尻尾が九本もある。これぞモフモフオブモフモフ、天国なんじゃあ。


「ありえんのじゃ……。」

「モッフモフ可愛いでしゅ!!」

「新種!?一体いくらになるのか……ぐへへ。」


 リムは驚いて固まり、トリアはモフモフに魅了され、ピリカはさらに価値が上がっているであろう二匹のにゃん狐の金額を予想してだらしない笑みを浮かべている。


「むぅ……私もモフモフしてもらう……。」


 二匹に触発されたハクも僕に抱きつき、二匹と一人を満足するまで撫で続けることになった。さらに他の皆も参加して、結局リム以外全員撫で回すことになったのは当然の流れだと思う。


「お前たちはどうする?自由に生きたければ行っていいよ?」


 皆が満足するまで撫で回した後、僕は二匹のにゃん狐に問う。


 付いて来てくれれば嬉しいけど、姿形も種族も変わったから元同族からは何もされないと思うし、種族変化で強くなってるからそうそう死ぬこともない。二匹は自由に生きればいいと思う。


「「キュ。」」


 しかし、二匹とも僕の元に駆け寄ってついていくとばかりに鳴き声を上げながら、足に体を擦り付けてマーキングし始めた。


「ついて来てくれるの?」

「「ニャー!!」」


 二匹は威勢良く鳴いた。肯定の気持ちが伝わってくる。


「分かった。ちょうどいい。体大きく出来るよね?馬車を引く動物をどうしようかと思ってたところだったんだ。仕事は馬車を引くのでもいいかな?」

「「キュ!!」」


 僕の言葉に前足を敬礼のようにして答える二匹。可愛すぎる。


「そうだな~、後は名前か……。元々は名前なかったみたいだし、どうしよっか。」

「金貨と銀貨が良いと思います!!」

「オリーブオイルと魚……。」

「え、えっと、シルバーとゴールドではどうでしょう。」

「オスとメスでどうじゃ?」

「「フシャー!!」」

「ふざけてんの!?却下!!」

『えー!?』


 皆ふざけてるとしか思えない名前を提案する。辛うじてピリカのシルバーとゴールドってのは有りか無しかでいえば有だと思う。でも流石に金貨と銀貨とか、オリーブオイルと魚はないでしょ。一番あり得ないのはオスとメスだけどな、これは論外。


 うーん、安直かもしれないけど、金と銀といえば月と太陽、ムーンとサンは微妙かな~、それならユエとリィー?タイヤン?なんとなくあわないかなぁ。ルナとソル?これが一番マシかなぁ。狐のままならまんま金狐と銀狐にしたんだけどね。


「銀色の君はルナ、金色の君はソルでどうかな?」

「「ナーン」」


 二匹は僕の提案した名前を気に入ってくれたらしい。


「よし、それじゃあ気を取りなおして聖樹の採取と、モンスター狩りしますか!!」

『はーい』

「「キュ!!」」


 僕達は分担して聖樹をふくろに詰め、モンスター狩りまくることにした。

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