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Page38.死神

「飽きた。」

「ですね。」「ん。」「はい。」

「流石にずっとこの景色じゃねぇ……。」


 僕たちがパレードすること数十分、僕たちが歩く幅十メートルほどの道以外、アンデッドの兵隊がずらりと並ぶ姿が延々と続き、何も変化がない。凄い光景ではあるけど、ずっと見ていれば飽きるのは仕方がない。


「ウインドボード頼むよ。」

「分かりました。」


 代わり映えしない景色にウインドボードでピリカに運んでもらうことにした。それからニ十分ほどでようやく庭園の中央付近に到達する。谷から出たばかりでは霞がかって見えなかったけど、今は巨大な岩が鎮座しているのがハッキリとわかった。いや、岩というよりはもはや山だ。それはまるで岩山をそのまま削って作ったような城だった。


「ふぁ~……凄い威圧感のある城、まるで魔王城。」


 僕は谷を見たときと同様に圧倒されていた。城なんて夢の国や日本の城をいくつか見たことがあるだけだし、都庁とか東京タワーよりも高く、横幅もあるから受ける衝撃が大きい。この世界の城も召還されたばかりで見る余裕なんてなかった。


「すっごいですね!!こんな立派な城みたことないですよ!!売ったらいくらになるでしょうか?」

「この城を売るって発想はなかったよ……。」


 ピリカはモンスターだけでなく、目の前の物がどんどんお金へと変貌している。確かに"ふくろ"になら入るだろうけど、ピリカは大丈夫だろうか。心配だ。


「堅そう。殴っていい……?」

「いや止めようね!?誰か物だろうだから。」


 ハクはハクでなんでもかんでも力試しに殴ろうとするのはやめてほしい。


「ふぉおおお!!こ、これがお・しゅ・ろ!!なんて雄々しいフォルム。それでいて細かい細工が施されていて造った方の腕が良さが窺えます。何よりこれだけの作品、いったいどれほどの時間がかかったのか……。できれば形に残したい……。」


 トリアも興奮でよくわからないけどいつもより口が達者になっている。しばらく放っておこう。


「どうしようか?」

「壊す?」

「だめよ、ハクちゃん、価値が落ちるわ。」

「ん。」

「お、大声挨拶してみたらどうでしょうか。」

「やってみるかぁ。」


 一しきり感慨にふけった後、僕たちは高さが何十メートルもある岩の扉の前で頭を突き合わせていた。なにせ現代の家のようにインターホンがあるわけでもなし、大きな岩の扉にノックしても聞こえるとは思えない。さらに、これだけ大きな城にも関わらず、誰一人門番や兵士なども見かけていない。コンタクトを取りようがないのだ。


「こ・ん・に・ち・はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 僕は全力で叫んだ。


「はーい、どちらさまなのじゃ?」


 パカリと開いたのは何十メートルもある扉……ではなく、隅っこのあたり、普通の家の玄関のドアをくらい長方形だった。そこからひょっこ小さな人影が顔をだす。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


 僕たちは予想外の出来事に絶叫した。


「いやいやいや、この大きな扉は!?普通開くのはこっちでしょ!?」

「飾りじゃ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?なんで作ったんだよ!?」

「彫っておったら興が乗っての。でも中を作るとなったら面倒になったのじゃ。それにしてもお主たちは()()()()だな?」

「え?」

「まぁよい、入るが良いのじゃ!!」


 余りの衝撃に声の主のことを見ていなかったけど、よく見ると自分の胸に届かない程度の身長しかない。その人物はフード付きのローブを頭からすっぽりとかぶり、裾をずり刷りと引きずりながら中へと戻っていった。


 声からするに小さな女の子、一体何者なのか。


 僕たちも彼女の後を追いかけ、扉を潜るとそこは冬景色……ではなく、

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 ただの洞窟式住居だった。


「よく来たな、勇者よ!!」


 小さな人物は、洞窟式住居の奥に備え付けられたやたらとデカい玉座っぽい椅子によいしょとよじ登り、振り返って腰掛けて叫んだ。


 僕は目の前の現実を受け入れられないでいた。


 魔王城のような立派な城の大きな入り口がただ飾りで、中もただの洞窟をただ掘り広げたような雑な空間、そして、死神がまとうようなローブを身に纏い、フードをすっぽりとかぶったこの城に似つかない幼女がふんぞり返っている。おそらくこの城の主なのだろう。


 こんな現実受けいれられるだろうか、いやない!!


「うぉーい!!聞いとるのかぇ?」


 叫んでいる幼女は、アッシュグレーのパッツンボブカットで、頭にどくろのお面のようなものをつけている。目はまるで獣のようで、黄金に輝いている。幼女らしく少しぷにっとした柔らかそうな頬が、もちもちして気持ちよさそうだ。将来美人になることは間違いないだろう。


「こら!!いい加減に人の話を聞けと言うに。人が数千年ぶりにやってきてくれたかと思えば呆けよって。」


 眉をひそませてプリプリと怒りながら、玉座から降りて身の丈に合っていないタボタボのローブを引きずりつつ僕の前にやってくる。


「いい加減にせんか!!」


 彼女がコツンと僕の脛を蹴る。しかし、当たることはなかった。


「な、なんじゃ!?いったいどうなっておるんじゃ!?」


 彼女が取り乱したことでようやく僕たちの思考は現実へと帰還を果たす。


「ハッ!?えっと……僕は勇者じゃないよ?」

「お、おお……ようやく戻ってきおったか。」

「それはともかくどうなってんのさ!!見た目はあんなに凄いのに、実際の扉と中が貧相でがっかりだよ!!」

「なんじゃと!!一人で彫ったんじゃぞ!!それも100年!!中を作る頃にはとっくに飽きたわ!!」

「百年!?一人!?ありえない。いったい何歳だよ!!」

「歳など二百から先は数えておらぬ!!それにレディに歳を聞くなんて失礼なやつじゃ!!」

「それはごめん。」

「う、うむ。分かればいいのじゃ……分かれば……。」


 女性に歳を聞いちゃいけないな、それは謝らないといけない。


 僕が謝ると彼女の怒りも急速にしぼんでいくのが分かる。


「それで、君は何者なのかな?僕はタクミ、セプタプルランクの派遣員をやってるよ。彼女たちは僕の奴隷で護衛をしてくれているピリカ、ハク、トリアって言うんだ。」


 話がずれたので本筋へ戻す。


「派遣員?セプタプル?」

「うーん、まぁ人の依頼を受けて依頼を処理する何でも屋みたいなものだよ。」

「なるほどの。妾が何者か、というはいささか難しい問題じゃの。周りからは「死神」と呼ばれておった。」

「物騒だね。」

「致し方あるまい。実際妾は物騒じゃ。妾の周りにいる者は干からびて死に砂となり消え、植物も枯てしまうのじゃから。それにアンデッドも近くで生まれるしの。」

「「「「え!?」」」」


 僕たちは汗を流しながら顔を見合わせた。


「まじで!?」

「マジじゃ。」


 それってヤバヤバのヤバじゃないか!!

 僕たち死ぬの?死んじゃうの?

 童貞のままにたくないよぉぉぉぉぉぉ。


「じゃからお主たちがなぜ消えぬのか不思議なのじゃが?」

「「「「え!?」」」」


 僕たちは再び顔を見合わせた。


 そうか、今現在僕たちは生きている。

 つまり僕たちは現状その命を奪ってるような能力を受けていないってことだよね。そうすると……。


「あ!!」


 僕は思い出した。


「何か分かったかの?」

「ああ。この腕輪なんだけど、何かあった時のために僕ら以外からのあらゆる状態異常・ダメージを受けない効果を付けていたからかも。」

「ご主人様!!」「ごしゅじん!!」「主様!!」


 三人が僕にヒシと抱き着いてくる。


 照れるなぁ。うんうん、そういえばアンデッド魅了の機能を追加した時に一緒に書き換えておいたんだった。忘れてたよ。良かった良かった。


「なんと!?そんな道具は効いて事がないな。お主……もしかして凄いのか?」

「凄いですよ、戦闘以外は。」

「凄い……戦闘以外。」

「しゅ、しゅごいでしゅよ、戦闘以外は。」

「ひどいなぁ。オブラートに包もうね?」

「「「???」」」

「ハハハハ、お主ら面白いのう。」


 僕たちを訝し気に見つめる彼女に、ひっつきながら僕の代わりに答える三人。もうちょっと配慮してほしいな、とほほ。


「そういえば、なんでこんなところに独りでいるの?いや、言いたくなければいいんだけど。」


 僕はいたたまれなくって話を変える。


「うむ。簡単に言えば、妾は人も動物も自然も好きでの。これ以上殺めとうなくてこの何もない土地にやってきたのじゃ。」

「そうなんだ。君は優しいんだね。」

「ば、ばかもん!!そんなんじゃないわ!!」


 彼女は顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。とっても可愛い。


 うーん、彼女は良い娘―自分より大分年上だけど―みたいだし、どうせなら彼女をこの檻から出してあげたいな。ちょっと聞いてみよう。


「君の力をなんとかできるとしたらどうする?」

「まことか!?」

「うん、出来ないことはないよ、ただし……」

「分かっておる。妾の出来ることならなんでもする。どうしてもというなら妾のこのダイナマイトボディを差し出しても構わん。なんとかしてくれんか……?」


 彼女は体をくねらせてしなを作って後、僕の手を握って上目遣いで僕に願う。幼女、辞めてくれ、その顔は僕に効く。しかし、そのツルペタボディがダイナマイトなんていくらなんでもないしょう!!


「いやいや、君の体は受け取れないよ。僕が欲しいのは魔石さ。そうだなぁ、クアドラブルランクの魔石……「なんじゃ!!そんなものでいいのか!?ついてくるのじゃ!!」」


 彼女は僕の言葉にかぶせるように述べると、僕の手を引いて洞窟式住居の奥へとグイグイと進んでいく。玉座の脇を通り、少し進むと螺旋階段があった。そこ降りていき、さらに細い道を進むこと数分、開けた場所に出るとそこにあったのは、数えきれないほどの高ランクモンスターの巨大な魔石群だった。

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