Page37.不死の庭園
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不寝番を終え、精霊魔法で家を元の状態に戻すと、ミノール達がこちらに近寄ってくるのが見える。でも、昨日別れを済ませていたし、この家についても説明する気もないので、無視して奥へと向かった。
その後、何回か派遣員とすれ違うことはあったけど、軽い挨拶を交わし、特に問題などは起こらなかった。手当たり次第敵を殲滅しながら進むこと一日と少し、ようやく谷を抜けるところまで来た。
ピリカが金金いってモンスターを殺しに行くせいで時間がかかったのは言うまでもないよね?
抜けた先は左右を円のように山が囲んでおり、そこは見渡す限りアンデッドで埋め尽くされていた。その数は数えることすら烏滸がましい程。庭園とはよく言ったもので、アンデッドが徘徊して管理しているような庭というよりは、文字通りアンデッドが庭の草花のように生えているという表現が似合う。数万は下らないと思う。中心部分は霞がかかっていてよく見えない。
その上前評判通り、単なるゾンビやスケルトンなどの低級アンデッドは存在しない。
いるのはリッチ、エルダーリッチと呼ばれる魔術師が死後に知識を持ったままアンデッド化したようなタイプ。それから、貧相な兵士のような格好をしたゴーストソルジャーの上位個体であろう黒い重厚な甲冑を着た半透明のゴーストナイトに、その同列個体である、弓兵のスナイパー、騎兵のデュラハン、斥候のアサシンなどだ。
実体を持たないタイプばかりみたいだ。そのせいかアンデッドと言えば臭いというイメージがあるけど、そういったものも感じない。
「やる気が出ませんねぇ~。」
「ん?どうしたの?熱でもある?」
お金に執着しているピリカが珍しくやる気がないらしい。ガックリと肩を落として溜息を吐いている。どこか病気かもしれない。
僕はピリカの額に手を当てる。
あれ?熱はないな?
「失敬な!!熱なんてないですよ!!」
「ええ~!!モンスターを倒しに行かないピリカなんてピリカじゃないよ!!絶対何処かおかしいよ!!ブラコンの毒でも受けたかな。」
「だから私はどこもおかしくありません!!霊体系アンデッドは何も落とさないので討伐してもお金にならないんですよ!!クエストも討伐証明できないので、依頼者が倒してないと言い張ることもありますからね!!タダ働きはゴメンです!!大体ブラコンってなんですか!?」
「なーんだ、そういうことか。それなら頷ける。ピリカはピリカだった。よかった。ほっ。」
「はぁ……それで納得されるのも複雑なんですけど!?ほっ。じゃないですよ、全く!!」
「まぁいいじゃない。ハクはどう?」
「弱いのしかいない……。」
うーん、そっかー。
二人ならやる気がなくてもやってくれるだろうけど、それで何万といるアンデッドを倒してもらうのもなぁ。
戦い始めればあれだけの数だと僕を守りながらってのも大変だろうし。
「しょうがないですね。ご主人様はここで大人しく待っててください。片付けてくるので。」
「そう……。ここでトリアと……ゆっくりしてるといい……。絶対近づかないで……。」
僕が腕を組んで悩んでいると二人が僕の肩に手を置いて生暖かい表情で僕に呟く。
お、おう。
ついに完全なる戦力外通知来ました。
解雇です、解雇。
今までは騙し騙し使ってたけど、結果出せないからきられちゃった。
実力主義辛い。
しかし、こんなことで負けない。ここでご主人様の威厳を見せないと!!
「ちょっと待って二人とも。ここは僕に任せて欲しい。」
「え、ご主人様戦えないですよね?」
「ごしゅじんは……ここでお茶でも飲んでゆっくりするべき……。」
「あ、主様は危ないので、わ、私と一緒にいましょう。ね?」
いや、そこまて僕の信用なかったのか!?
これはますます由々しき事態じゃないか!!
「いやいやそんなこと言われたら引くわけにはいかない。任せてくれたまえ。何も戦うわけじゃない。」
「むしろそんな態度を取られると信じ難いというかなんというか。」
「あやしい……。」
なるべくキリッとした表情をつくったつもりだけど、二人はジト目で僕を見つめる。
逆に不安にさせるとかどうしたらいいの?
「まぁまぁ見ててよ、僕の力忘れちゃったのかな?」
「うーん……分かりました。でも危ないと思ったらすぐ介入しますからね。」
「同じく……。」
「ホントに大丈夫だから。」
僕は3人の頭を撫でて、お揃いの腕輪を書き換える。一瞬腕輪から光が放たれたけど、すぐに収まった。
「これで大丈夫。行こうか。」
「何したんですか?」
「ちょっとね。これで襲われないと思うよ。」
ピリカは何をしたのか気になったのか尋ねてくるも、僕は慣れないウインクをして誤魔化した。
やっぱり見て驚いてもらわないとね!!
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫大丈夫。ダメだったらピリカとハクがなんとかしてくれるさ。」
僕は心配そうなトリアの頭をポンポンと撫でると、しぶしぶながらもトリアは納得したみたいだった。
僕達は不死の庭園へと足を踏み入れる。しかし、アンデッド達は群がってくるものの、敵意は無く、周りを囲むようにしてゾロゾロと着いてくるだけ。攻撃をしかけてくる様子は全くない。
「一体どうなってるんですか!?」
「アンデッドは本来生者に……襲いかかってくるもの……。」
害意がないので二人ともアンデッド達の好きなようにさせているけど、不思議に思っているようだ。
「さ、流石に怖いですね。」
トリアが僕の服の裾を掴んで震えている。
うーん、やっぱり襲われないと分かっていてもこれは圧迫感があるし、トリアみたいな小さな子には怖いか。なら……
「整列!!」
僕が声を張り上げるとアンデッド達は種族別に並び始める。数分もすると谷側のアンデッドが、軍隊のように綺麗に陣容を作り上げた。流石にこれだけの人数?がそろうと圧巻だ。
「道を開けよ!!」
さらに僕は声を振り絞る。目の前がモーセの海のようにパックリと割れて一本の道が出来上がった。
「こ、これは壮観ですね!!」
「アンデッドが言うこと聞く?……ありえない……。」
「き、綺麗です。」
三人とも信じられない光景に呆然としているようだ。
「ふふん、どう?僕もやる時はやるでしょ!?」
僕は腰に手を当ててドヤ顔で胸を張る。
「やっぱりご主人様は非常識ですね!!戦闘以外は。」
「ごしゅじん規格外……戦闘以外は。」
「あ、主様はホントにすごいでしゅ!!戦闘以外は。」
「ひどくない!?」
戦闘以外という部分を殊更に強調してる3人。僕は思わずツッこんでしまった。
「それで、これはもしかして……?」
「うん、ピリカが想像した通り、腕輪にアンデッドを魅了して言うことを聞かせる力を持たせたんだ。」
「はぁ……やっぱり……。魔法の袋と言い、今回の腕輪といい、神話でも聞いたことがないようなアイテムをポンポン作り出しますね、ご主人様は。」
「まぁいいじゃない。お金にならないアンデッドと戦わなくていいんだから。」
「それはそうなんですけどね、なんだか納得いかない……。」
そう、今回はアンデッドを思いのままに操れる能力を腕輪に付与した。しかも、アンデッドからアンデッドに情報共有していく追加効果付き。声が届かなくでも問題なしなのである。
これで不死の庭園はおろかアンデッドとはずっと戦わなくていいはず。今回のゴースト系やスケルトン系はまだしも、ゾンビやグールと言った腐った奴とは戦いたくないからね。
「もちろん、ピリカもハクもトリアも同じように命令できるからね。」
「うむむ……。」
「ごしゅじんありがと……。」
「あ、ありがとうございましゅ!!」
未だに納得がいかず悩むピリカを放置して、僕達はアンデッド達の間をパレードでもするように進んだ。
更新直後にアクセスが増えるのは、ブクマや新着にのるので分かるんですが、何日間もそこそこアクセスがあるのはどちらから来られるんですかね。不思議です。




