Page36.ブラコン
蠍たちを殲滅した後袋に回収すると、二人が僕たちの元に戻ってきた。
「金貨400枚ですよ~、ぼろ儲けですねぇ!!」
「全体的に鍛錬不足……。いまいち……。」
「ふ、二人とも、かっこいいです!!」
トリアが二人に駆け寄って尊敬の眼差しを送り、可愛い女の子達が目の前でキャッキャッしている。
あぁ~、いつも癒される。
「もう……いきなり飛び出さないでよ。ビックリしたよ。」
「えへへ、すみません。我慢できなくて。」
「次からはちゃんと待つようにね。」
「はーい。」
そんなキャピキャピした雰囲気をぶち破り、一応独断専行したピリカに釘をさす。未だに目が金貨になっているところを見ると守るか怪しいけど、主人として一言言っておく必要があると思う。ハクはピリカの専行にあわせて飛び出してフォローしただけなので特に何も言わない。
ピリカは舌を出して苦笑いしながらウインクする。所謂テヘペロって奴だ。日本の女子がやろうものなら似合わなくて気色悪いと思ったかもしれないが、目の前にいる天使然とした美少女がやると様になっていた。
やっぱり可愛いは正義なんやなって。
それから僕たちは先を進んでいく。盲信は危険だけど、ウチのパーティにはマップ機能とトリアの目と能力があるため、基本的に斥候は要らないので、ハクを前衛に、中衛というか護衛対象の僕が真ん中、その横にトリア、後衛にピリカという隊列だ。
「それにしても入ってすぐの所になんであんな数が固まってたんだろうね?」
しばらく進むと僕はふと気になったことを誰ともなく尋ねる。
「うーん、そうですね~。オークやゴブリンでもない繁殖力の強くないモンスターが群れを組むのは珍しいので、近くに上位種やこの縄張りのボスでもいるかもしれません。」
「なるほどね。同種のモンスターでなくてもそんなことあるんだ?」
「ありますよ。強いモンスターの知能が高い個体の場合、従えることがあります。この谷だとターミネイトベアやロックタイガーあたりですかね。」
答えてくれたの物知りなピリカだ。
上位種かボスか分からないけど、群れに指示を出して守らせていたってことなのかな。
「さっきのモンスターは大体クインティプルのモンスターなので、あれより強い個体がいるなら金貨30枚くらいはくだらないと思うんですよねぇ!!ロックタイガーやターミネイトベアならそれ以上かもしれません!!早く出てきてほしいです!!」
続けざまに、より沢山の金貨に想いを馳せて気を逸らせまくし立てるピリカと、「大陸喰らい程度の……モンスターじゃないと……準備運動にもならない……。」と少し残念そうな感情を滲み出しながら呟くハク。
流石に大陸喰らいさんはもう辞めていただきたいのですが?
「もう出てこなくていいよあんなの。」
「むぅ……。ドラゴンで我慢する……。」
「いやいやもっと強くなってない?それ我慢ていわないよね?」
「じゃあデーモンロードでいい……。」
「絶対弱くなってないよね!?」
――キンッ
――キンッ
そんな話をしつつ、散発的に襲い掛かってくるモンスターを処理しながら進むこと数キロ。金属がぶつかり合うような音や怒号、そして猛獣の叫び声のようなものが遠くから聴こえて来た。
「どうやら400メートル程先で先ほどより大きな黒い蠍モンスターと派遣員らしき集団が戦っていますね。」
トリアが集中して前方を確認している。
「マップでも確認できたよ。派遣員側は12人。そのうち2人は倒れてるみたいだ。これが上位種か。」
「どうしますか?」
ピリカが僕の横に駆け寄って来て問いかけた。
「そうだなぁ、とりあえずそこまで言ったら声かけてみよう。加勢が必要だっていうなら助ける、そうじゃないなら先に進もうか。」
「分かりました。」
「ん。」
「わ、分かりました。」
僕たちがその場に着くと、派遣員側はさらに人数を減らし、動けるものは8人になっていた。対する体高5メートルはありそうな巨大な蠍モンスターであるブラックスコーピオン、略してブラコンは多数の切り傷があるもののダメージは軽微だ。
「おーい、助けはいるかぁ??」
ヤバそうだけど、念の為盗賊や悪徳な同業だと思われないように僕が声をかける。
「た、助かった!!頼む!!」
後衛の魔術師らしき男がこちらを向いて叫ぶ。しかし、僕たちを視界にいれた瞬間絶望したような表情になった。
あぁ僕たちが年端もいかない年齢で、小さな女の子ばかり。しかも明らかに強そうじゃないということで落胆したのね。うん、わからないでもないよ。
「了解。ハク、あれは運動になりそう?」
魔術師風の男の心情を他所に、僕はハクの方を向いて聞くと、無言で首を振った。
かぁー!!あれでもダメなんだ!!結構強そうだけどなぁ!!もちろん大陸喰らいに比べれば月とスッポンって感じだけどさ。
それにしても僕の感覚もおかしくなったもんだ。こっちの世界に来たばかりの時にあんなモンスターと出会ったら怖くて動けなくなっちゃってたよ。これも大陸喰らいと戦ったお陰かな。
まぁ運動にもならないならピリカに任せよう。
「ピリカ任せたよ。」
「待ってました!!金貨30枚!!いきますよ!!イフリート、シルフ、お願い!!超極細ライトニングレーザー!!」
張り切って僕たちの前に出て精霊魔法を使用するピリカ。珍しく二種類の精霊を使っている。
あのモンスターを最小限の数で倒すには必要だったってことかな。お金稼ぎにどんどん貪欲になっていってるね。
僕がピリカを観察しているうちにピリカの頭上に光が集まり、ビリビリと稲光を飛ばす。次の瞬間半径30センチ程の光線となって打ち出された。
光はブラコンの頭に向かって伸びていき、体を守る殻など無いかのように貫き、後ろへと抜け、さらに背後の岩壁も貫通し、空まで直線を描いていた。
「終わりましたよ、ご主人様。」
「ちゃんと死んでるね。お疲れ様。」
僕はそう言ってピリカの頭を撫でる。その顔をだらし無く歪んでいた。
『はぁ!?』
派遣員たちがバッとこちらを向き、声を揃えて叫んだ。
「えっと、大丈夫でしたか?」
面倒なので、僕たちは何事もなかったように呆然としてる彼らの方に近づいて声をかける。
「あ、ああ……。大丈夫だ、助かった。なんてお礼言ったらいいか……。」
8人の中の人で如何にも騎士のような全身鎧を装着し、身長190センチ以上はある爽やかなイケメンがやや曖昧な表情を浮かべて返事をした後、兜を取って頭を下げた。慌てたように他の7人も頭を軽く下げる。
イケメンの頭には牛っぽいツノと小さな耳が付いている。他にも半分くらいは獣人で、もう半分くらいはそれ以外のパーティだ。前衛が獣人、後衛がそれ以外って感じ。
うちもそうだしね。
「いえいえ、気にしないでください。困った時はお互い様ですよ。それより倒れている仲間の方は大丈夫ですか?」
「あ、そうだった!!ソーニャ、アンリ確認してくれ!!」
「「はっ、はい!!」」
僕が確認すると、騎士もどきさんは慌てたように僧侶らしい女性に指示を出した。
大事な仲間だろうに忘れてたのかな??
気が動転しすぎでしょ。
女性たちは倒れた仲間の元に駆け寄って安否を確認している。とはいえ、彼らが無事ーとはいいがたいが、命に別状がないーなのは『図鑑』スキルで確認して分かっていた。
こちらで治すと手の内を晒すことになるため、本人達でどうにかなるなら自分達で対応してもらう。精霊魔法はどうなんだといわれそうだけど、あくまで既存の魔法だからね、ノーカウントだ。
「全員なんとか大丈夫のようだ。」
2人が近寄って騎士もどきさんに声をかけると、彼はホッと息を吐いた後僕らに答えた。
「なら良かったです。これからどうされるのですか?」
「うーん、仲間の疲労が酷い。休んでから谷を脱出することにするよ。それで……助けられたのにこんなこというのも恥知らずだし、そんな権利がないこともわかっている。だが、それ推して頼みがある。本当に申し訳ないんだが、このモンスターの素材を分けてくれないか?」
騎士もどきさん含め他の人たちも体も装備も荷物もひどい状態だったのでこれからどうするのか尋ねると、答えた後で申し訳なさそうな表情で僕に深く頭を下げた。
うーむ、どうしたものか。もちろんお金を稼げるに越したことはないけどね。僕たちが来なければ全滅していたであろうこの人たちにこのモンスターの権利はなく、彼の頼みを聞く必要はない。でも、逆恨みになるけど、そんなことして恨みを買いたくもないし、恩を売っておいた方が何かと得だ。
「ええ、僕たちは魔石と眼球と余った部分をいただければ「ご主人様なにを……モガモガ」」
僕が彼の頼みを聞こうとすると、ピリカが何か言おうとしたけど、ハクとトリアが後ろから羽交い締めにして口をふさいでいた。
「コホン……僕たちは魔石と眼球、それと余った部分をいただければ構いませんよ。」
「な、なんと!?本当か?……いいのか?」
僕の答えに驚愕を顔に張り付ける騎士もどきさん。そして僕の後ろで行われている状況からこちらをうかがうように尋ねてくる。
まさか承諾してもらえると思ってなかったんだろうね。
「ええ、これでも稼いでますからね……彼女たちが(小声)」
「ああ、そうだな!!君たちなら稼いでるのだろうな。そういえばさっきの魔法は精霊魔法だよな!?とんでもない威力だな!?」
「はい、そうですよ。自慢の仲間ですからね!!」
僕の小声には気づかなかったようで、とても嬉しそうな顔をして精霊魔法の話題を出す。
「それにしてもあんな強大な精霊魔法みたことないわ。」
精霊魔法の話になると、パーティの仲間らしきエルフの弓使いが割り込んできた。エルフは美形ばかりなのでこの人も例に漏れず美人だ。
ピリカは可愛い系に極振りしてる感じだけど、この人は綺麗系でスーツを着せて秘書とかやらせればそれはもう似合いそう。
うちのピリカの方が可愛いけどね!!
僕は心の中で胸を張った。
「ぷはぁ……。そうですか?あれくらいは普通では?」
「そんな訳ないでしょ!!あんたくらいの年齢なら精々オークを数十匹殺す程度よ!!ブラックスコーピオンと岩壁を易々と貫通するなんてありえないわ!!」
口元を解放されたピリカは首を傾げると、エルフさんが唾を飛ばして激しく抗議してくる。
綺麗な顔が台無しだよ?
そういえば最近忘れがちだけどウインドボードさえ使い手が少ないんだよね。ステータスも勇者より高いし、使える精霊魔法の威力も一般的ではない可能性は充分ある。
「そもそも祝詞は?」
「えっ?なんですかそれ?」
「はぁ!?なんでエルフのくせに祝詞も知らないのよ!?どうやって精霊魔法使ってんのよ!?」
「そう言われましても……普通にお願いすれば大体聞いてくれますけど?」
「どういうことよ!?精霊と喋れるとでもいうの!?精霊の言ってることなんて私たちでも大体しか分からないじゃない!?」
「えっそうなんですか!?見えますし、触れますし、普通に会話できますが?」
「あんたどうなってんのよ!?そんな能力があったら里から出れるわけないでしょ!?」
「いえ、私は里では厄介者扱いでしたから。ずっと一人だったので普通に出れましたが?」
「あんたの里おかしいんじゃない!?」
まくし立てるエルフさんと困惑しながら答えるピリカ。
いろんなこと知ってるのに自分のことはよく知らないんだよな。
昔のことがあるから自分や自分と同じ種族のことを無意識に拒絶して、情報を受け入れないようにしているのかもしれない。
「まぁまぁエルフさん落ち着いてください。ピリカも困ってるんで。」
「煩いわね!!人間がエルフの事情に入ってこないで!!」
「そこなんとかお願いしますよ、僕の家族なので。」
「邪魔よ、大事な話なんだから!!」
僕の言葉を一切取り合おうとしないエルフさんは、興奮しすぎて頭に血が上っているらしい。
ダメだよ、そんなこと言ったら!!
「おまえ……なんて言った?ごしゅじんが邪魔……?」
地獄の釜で煮詰められた怨霊達の怨差の声のように、どす黒い声が耳に届く。エルフさんがワーワー喚いてるにもかかわらずそれはもうすんなりと。
「うるさいって……ひっ!?」
ーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
比喩ではなく、地面が揺れ、地鳴りが響き渡る。岩壁にピシリと亀裂が入り、破片がパラパラと落ちてくる。
見えないけどこの国入った時みたいになってんだろうなぁ。
エルフさんは尻もちをついて涙を流し、ガクガクと震えながら粗相していた。他の面々もカチカチと歯を鳴らしている。
これはまずい。
「ハク、ハウス!!」
僕は僕専用神級魔法『ハウス』を発動した。
「ん。」
途端にあたりに満ちていた濃密な殺気が霧散する。エルフさん以外もへたり込んでしまった。
「あ~、すみません。」
「ひっ!?」
僕が頭を下げるとエルフさんは恐怖に身を震わせ、短く悲鳴をあげる。
めちゃショックなんですが!?
僕だけは普通なのに!!
「ごしゅじんの話きく……。」
「は、はぃ!!」
通常運転のハクが指示すると、声をふり絞って返事をするエルフさん。
「あの~、頭は冷えましたか?」
「は、はぃ!!申し訳ありませんでした。」
「いえ、わかってもらえたら問題ないです。それから自分でこんなこというのもあれなんですが、僕を害するような事を話したり、しようとしない方がいいと思います。ハクがさっきみたいになるんで。」
「はぃ!!」
エルフさんと供に他のメンバー全員が首が折れそうな勢いで首を縦に動かす。意識が戻っていない4人の首も何故か動いてる。
「それで今更ですが、僕はセプタプルランク派遣員の匠といいます。」
「あ、ああ……。俺はこのパーティのリーダークインティプルランク派遣員のミノールだ。こっちのエルフはノンナ。ノンナがすまなかったな。」
「いえいえ、同族だから色々あるんだと思います。」
「いやしかし、君達がセプタプルとは俄かには信じがたいな。実際に見たことがあるのはダブルまでだが、戦闘力はそれこそシングルと言われても納得する。」
「まだ派遣員になって30日も経ってませんし、試験受けるの面倒で特に困ってもいなかったのであげてないんですよ。」
「なるほどな。確かにあれだけのことが出来ればランクが低くても困らなそうだ。君達はこれからどうするんだ?」
「僕たちは素材を貰ったら休んで先に進みます。」
「そうか、街まで護衛して貰いたかったが、無理も言えんな。」
「すみません、「あ、主様!!今倒した個体より大きな蠍が二体こちらに猛スピードでやってきます!!なんていったらいいんでしょうか。黒に青が少し混じってるような色してます!!」」
自己紹介を済ませて会話をしていると、トリアが僕に重ねて報告してくる。
さっきのハクの威圧に当てられたか。
それともブラコンが倒されたからかな?
「このモンスターはメスの方が体が大きいので、番いや母親がやってきたのかもしれませんね。」
ピリカが説明を捕捉するが、僕は違うと思う。
やってきたはさっきの個体の妹たち。
そう彼女たちは名前の通りブラコンなんだ!!
そうに違いない!!
「おいおいマジか!?大丈夫なのか?」
ミノールが立ち上がり、心配そうに話しかけてくる。
「ああ、大丈夫ですよ。ハクがやる気なので。」
「むふぅ……」
ハクを見やると鼻息をフンスと出して、胸の前で拳を打ち鳴らしている。
「なので、何処かで休んでてください。」
「お、おう、分かった。すまんが任せる。」
ミノールはノンナを連れて仲間たちが集まってる方へと下がっていった。ドドドという轟音と共に二つの巨大な影が見えてくる。
あれは別個体だね、さらに上位種のハイパーブラックスコーピオン。略してハイパーブラコンだ。
「「シャアアアアアアアアアア!!」」
二匹が叫ぶ。アテレコするなら「お兄ちゃんが死んでる!!殺したやつは誰だあ!!」という感じかな。
二匹が五十メートル程に迫った時、ハクが走り出した。気づいたらすでにハイパーブラコンの前に居て、何十人かに分身しているように見える。
「「シャシャシャシャシャ!!」」
ハクを見つけて鳴き声を出しているけど、多分「お兄ちゃんを殺したのはお前か!!お前は私たちが殺す!!」という意味だろうね。
ハクは二匹の攻撃を巧みに躱し、掌打や蹴りを浴びせている。ハイパーブラコンもなかなかやるものでハクの攻撃に耐えている。
いつもと違って気を纏わせていない攻撃っぽいけど。それにしても絶対人の動きじゃないよあれ!!
「何が起こってるのアレ?」
「一人で二匹のハイパーブラックスコーピオンとやり合えるとか獣王様かよ。」
「獣人族の女神のようだ。」
「息の一つも乱れてなさそうだぞ。」
後ろで主に獣人族が信じられないと言った雰囲気で話している。
やっぱハクもかなり異常な強さなんだな。近くで見てるとアレが基準になるんだよね。他の人と関わる機会もほとんどなかったから、どれくらいおかしいのか分からなかったけど、これはいい機会だ。
「あ!!動きが変わったぞ!!」
「アレはとどめを刺すだな。」
「カッコいいわぁ!!」
さっきまでの怯えは何処にいったのか、ハクの戦いに見入ってる様子だ。
とどめを刺すってことは準備運動が終わったってことかな。ブラコンの動きも鈍ってきてるしね。
「「ギャオオオオオオオ!!」」
ハクの両手から飴色の二筋の閃光が打ち出されると、体をぶち抜いて二体のブラコンの中のブラコンは断末魔と共に沈んだ。
その断末魔には「お兄ちゃんごめん。敵は取れなかったよ……。」という無念の気持ちがこもっていたのではなかろうか。
少しだけブラコンに同情した。
「マジパネェな。」
「アレはヤバいわ。」
「惚れた。」
「なんであの人間と一緒にいるのかしら?」
「ば、バカそんなこと言うな!!」
「あ、つい。」
僕は興奮冷めやらぬ派遣員達の会話を尻目に、二体を袋に回収する。
『は?』
後ろからまた揃った声がする。
あ、いけない。いつもの癖で袋にしまっちゃったよ。いきなりモンスターが消えたら驚くよね。
「あ~、すみません。死体が消えたのは僕のせいです。僕が回収したんですよ。」
『こいつも大概だった。』
僕の説明に口を揃えて唖然とする派遣員たち。
失敬な!!僕は普通の只の荷物係のヒモだよ!!
はぁ……言っててなんか悲しくなってきた。
「後から来た二体は全部貰いますね。」
「そ、それは勿論だ。こちらは一切何もしていないんだからな。」
「それで、ブラックスコーピオンの解体はどうしますか?」
「そうだな、それはこちらでやらせて貰おう。タダで貰うのも悪い。」
「分かりました。そちらはお任せします。っとその前にピリカ彼らをキレイにしてくれるか?また汚れるだろうけど。」
「分かりました。ウンディーネ、シルフお願い。」
ハイパーブラコンの所有権や解体について話し合い、彼らの体や服を洗浄する。
泥や返り血、そして粗相で臭うからね。
日本人は匂いに敏感なのです。
彼らの体の周りを水の膜が包み込んで汚れを落とし、風がつむじ風のように巻き上げて一瞬で水分を蒸発させた。
「お、おうすまんな。気持ち悪かったんだ。それにしてもこんなことに精霊魔法使うなんてタクミ達はとんでもないな。」
いきなりのことに驚いて戸惑い気味のミノールだが、サッパリしたのは嬉しいそうだ。他の面々に視線をやると同様みたいだ。
「そうなんですか?他の派遣員達と関わりがなかったのでよく分からないですね。」
「普通は魔力は温存しとくんだよ。命に関わるからな。」
「確かにその通りですね。でもピリカは魔力切れになったこと無いので多分大丈夫だと思いますよ。」
「魔力切れにならないとは……本当にとんでもないなお前達は。」
ミノールは呆れ顔で返す。
「それはそれとして解体にどれくらい時間かかりそうですか?」
「そんな風に片付けてもいいものではないと思うが……はぁ……まぁいいか。解体だったな。この人数であの大きさだと今日一杯は掛かるだろうな。」
「そうですか……。分かりました。解体が終わるまで僕たちは周辺のモンスターを狩ってきます。」
「お、おう。お前達なら問題ないと思うが気をつけてな。」
「分かりました。」
派遣員達はミノールの指示の下、解体を始めた。
「大精霊……。」
驚愕の表情を浮かべて呟いたエルフの声は、誰に届くこともなく風の中に溶けて消えた。
解体が始まった頃、ハクが戻って来て僕の前に頭を突き出す。
はいはい、分かってるよ。
「ハクお疲れ様。運動になった?」
「ニャア……ニャアア。ん……まぁまぁ。」
僕が頭を撫でると、甘えた声を出して気持ちよさそうに目を細めながら答えた。
もうこの顔を見てると本当にギューって抱きしめてずっと撫でたくなるんだよね。
何度も思うんだけど、普段無表情なだけに破壊力が半端ないの。
我慢するのが大変だよ。
「トリアも報告ありがとね。」
知らせてくれたトリアの頭も優しく撫でる。
「は、はひ!!」
トリアは顔を赤くして俯いてモジモジしている。
こういう反応も本当に胸が締め付けられる。うちの娘たちはなんでこんなにも可愛いのでしょうか!?
「解体は彼らがやってくれることになったので、終わるまで僕たちは周りのモンスターを狩りに行くよ。」
「一狩り行くんですね!!やった!!」
「運動したりない……ちょうどいい……。」
「わ、私も少し戦ってみたいでしゅ!!」
一通り撫で終わった後、皆にこれからの予定を説明した。彼女たちがやる気に満ちているのでっそくマップとトリアの感覚を頼りに辺りのモンスターの殲滅を始めた。
弱めのモンスターはハクとピリカがフォローに回り、トリアメインで戦う練習を行い、ちょっと強めだけどハクの運動にならないものはピリカが一撃必殺し、さらに強いものはハクの運動の相手となった。
6時間程狩り続けた結果、ターミネイトベア20体、ロックタイガー30体、ハイパーブラコン20体、ブラコン100体、レッサードラゴンという名のデカいトカゲ200体という戦果。周囲1キロ圏内はほぼ殲滅したと思う。
「金貨4000枚は堅いですね!!」とピリカはホクホク顔であった。
僕はもちろん只の荷物持ちでしたが何か??
ブラコンとミノール達が居た場所に戻ると、日も暮れかけて辺りは暗くなって来ていた。
「終わりましたか?」
「お、帰ってきたか。ああ、後少しだ。ミック、ダナン、サッコー!!タクミ達に魔石と眼球を渡してやれ!!」
「「「はい!!」」」
指名された獣人達が僕たちの前に魔石と眼球を持ってくる。めちゃくちゃデカイので一人一個ずつ持っていた。
「ありがとう。」
僕はそう言って袋にしまった。急になくなった重さに3人はバランスを崩して少しよろける。
「い、一体何処にしまってんだ?」
ミノールが気になったのか僕に聞いてきた。
「この袋ですよ。」
派遣員ギルドで見せてるし、特に隠すこともないので、腰につけた袋を見せる。
「はぁ!?そんな袋ある訳がないだろう!!」
「ギルドでもそんな感じでしたよ。信じても信じなくても僕はどっちでもいいですしね。」
信じられないといった表情のミノールに、ヤレヤレと呆れた色を顔に浮かべて返す僕。正直自分達が使えればいいので、誰かに信じてもらう必要はないし、そのために何かする義理もない。
「そ、そうか。すまんな、今日はありえないことばかり起こって気が高ぶってるようだ。」
「いえいえ気にしないでください。ちなみに僕にしか使えないので奪っても取り出せないし、入れられないですから。」
「リーダー終わりました!!」
僕たちが会話している内に解体が終わったようでメンバーの一人が報告にきた。
「よし分かった。タクミついてきてくれ。」
「分かりました。」
僕たちはミノールについていき、解体場所に向かった。
「俺たちが欲しいのはこっちの、ブラックスコーピオンの尻尾の先の針、後はハサミ部分の殻を持てるだけって感じだが、問題ないか?」
自分達用に分けてある分を指差してミノールは僕に確認する。
「ええ、問題ないですよ。」
「ありがとう。この恩は街に帰ったら必ずさせてもらう。」
「そんなに気にしないでください、ホントに。偶々通りがかっただけですから。」
「普通は助けられたら素材なんて貰えないし、金も請求されるんだがな。」
「必要な分は受け取りましたし、お金にも困ってませんからね。」
「俺もそんな風になりたいもんだ。」
余った分を袋にしまい、用事を済ませたのでミノール達と別れることにする。
「それじゃあ僕たち別の所で野営するんでこれで。」
「一緒に固まってた方がいいんじゃないのか?」
「僕たちは自分達で十分なので。」
「そうか……分かった。ではまた街で会おう。」
「はい、それでは。」
僕たちの戦力をアテにしてる気がしたし、家族の団欒を邪魔されたくないので、必要なことが終わればサッサと離れるに限る。
僕たちはミノール達とは対角線上の反対側に陣取り、ピリカに頑丈な壁付きの家を作ってもらい、野営?を始めた。
『はぁ!?』
本日何度目かの叫びが夜の谷にこだまし、闇に消えていった。
■■■■■
「あの野郎、調子に乗りやがって。」
タクミに助けられたミノール達。その中の一人の獣人の瞳には、助けられた恩も忘れ、激しい嫉妬の炎が燃え上がっていた。
サクッと終わらせて次に行こう思ったんですが、主人公達の強さを把握させるための観測者として同業者を登場させたら、こんなに長くなってしまいました。今までで最長?




