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Page35.ブランクラフトの谷と変化

45000PV、8000ユニークありがとうございます。

「すげぇ!!」

「しゅ、しゅごいでしゅ。」


 前方には切り立った山と山のちょうど間に道が出来ているかのようにU字の造形を生み出している。グランドキャニオンのように木々はなく、岩肌が露出し、絶壁で挟まれている形だ 。山も標高が高く、まるで御伽噺の世界。


 いや、実際にそうなんだけど。


 街を出て4日。谷を目の前に立ち尽くす僕とトリアは、そんな自然の偉大な光景を見上げて圧倒されていた。地球では自然に触れることさえ殆どない日々を過ごしていたし、こんな光景を観れる場所はそう多くない筈だ。高校生という立場上なかなか遠出もしにくく、また日本にいた時は興味もなかった為、自然の壮大な風景を実際に目にすることは一度もなかった。


 それがなんの因果か異世界に来てしまい、自由に動ける立場と力―他力―を手に入れ、収入もある程度目処が立っているとくれば、異世界という不思議に溢れた世界を冒険したくなる気持ちもわかってもらえると思う。しかも現地人もあまり寄り付かなそうな秘境の類と聞けば行ってみたくなるのもしょうがないよね。


 それにしても派遣員ギルドのギルドマスターであるロイドさんが「長ければ1か月以上かかるかも?うん、わかった。全然行ってきていいよー。試験用の依頼は調整しとくね♪」と、簡単に許可くれたときは思わず、「軽!!」と心の中で叫んでしまった。


 そんなんでいいのだろうか派遣員ギルド。


「ご主人様~!!トリちゃん!!早く行きましょうよ~!!お金がすぐそこで待ってますよ~!!」


 ぼーっとしていた僕達を呼ぶのはピリカ。恐らく付近にいるモンスターの気配を感知しているのだろう。待ちきれなくてうずうずしているらしい。それに彼女にとってモンスターはもはやただの硬貨にしか見えていないようだ。ピリカの目も硬貨になっている。


 一見隠れるところが少なそうだけど、濃密な魔力が漂い、マップにも複数の強い反応を示すマークが点在していた。岩肌がデコボコしていて、意外に隠れる場所が多いらしく、なかなか高レベルのモンスター達が徘徊しているようだ。もちろんモンスターだけでなく、馬車で教えてもらったハイブラックストーンなども売れば高く売れそう。そういう意味でも楽しみで仕方がないのだろう。赤いマントを目の前にぶら下げられた闘牛のように今にも駆け出しそうだった。


「あぁ、ごめんごめん。行こうか。」

「は、はぃ。」


 トリアと手を繋いで谷の入り口で待つピリカの所へ向かった。ハクはと言えば「いつもより……強いモンスター……いるから……いい運動になる。」とか言っている。


 今は涼しい顔をしてピリカの傍に立っているが、実はハクはリハビリがてらここまで走ってきている。走ってきた、というと物凄く簡単だけど、ウインドボードは敵を殲滅しながらでも40kmくらい出てる。にも関わらず、彼女は体力作りなどと言ってここまで走り続けてきた。


 殆ど息を切らしておらず、余裕だった事が窺える。ここまで来る途中「ご主人も一緒に走る?」などと言われたけど、丁重にお断りした。今から絶壁に挟まれた谷を進むのだけど、元気そのものでバリバリ戦っていく気満々である。まさに体力お化け。


 こわやこわや。


「全く!!ご主人様は目の前にお金の山があるというのに惚けてしまって!!」

「ごめん、こんな景色見たことなかったんだ。」

「ご、ごめんなしゃい。あまりに綺麗だったので。」

「ふふふ、いいですよ。さぁ行きましょう、お金を稼ぎに!!」

「あ、あれ?なんか違うような?」


 本来の目的は馬車の材料の採取のためトリアは困惑しているが、そこは突っ込まないのが花だ。ハクは無視を決め込んで凄い速さでスクワットしていた。


「ギャアアアアアアアア!!」


 言葉を交わしていると谷から漏れ出したモンスターがやってきた。


「眉間です。」

「気弾。」

「グゲェエエエエエエエエ!!」


 普段噛むことの多いトリアと違い、オドオドしていない戦闘時の声に、ハクが指で物理的に作用するまで圧縮し具現化した気の玉を弾いて眉間を正確に貫く。


 ――ズシンッ


 レーザーを思わせる極細の直線がハクから空へと向かって伸び、次の瞬間にはモンスターは崩れ落ちた。


「相変わらず正確な狙いだなぁ。」

「ん。八気掌は()()を的確に滅ぼす殲滅武術……。当然。」

「ハハハッ。物騒な武術だ。」

「ハクちゃん偉いですね!!損傷は最小限です!!高く売れますよ!!」

「トリアの指示のおかげ……。」

「わ、私はただモンスターの死点を伝えただけでしゅ。」

「それ普通できないから。」


 謙遜するトリアの物言いに僕は突っ込みながら頭を撫でる。


 足手纏いと思われたトリアもステータスランクが高く、その上相手の弱点というにはおこがましい、そこを破壊すれば絶命させることができる場所を見抜くことさえ可能となっていた。もちろんそういう場所がないモンスターもいるし、見えないモンスターも多いが、弱点はどのモンスターでも見ることができた。今はピリカとハクから基礎訓練を受けはじめ、なかなか筋が良いという評価をうけている。


 なんともうらやましい限りだよ、はぁ……。


 周りにはこのモンスター以外にも沢山のモンスターが倒れている。なぜなら谷から溢れたモンスターがそれなりに徘徊していたからだ。壁があるわけでも門番があるわけでもないのだから当然といえば当然だ。僕とトリアが呆けてる間に殲滅してしまったらしい。


 僕はその場から()()()、さっさと袋にしまった。


 今までであれば近づく必要があったけど、


「ご主人様、遠くから袋の中に入れられないんですか?」


 というピリカの言葉によって、僕の持つ魔法の袋がさらなる進化を遂げる。


 目で見える範囲とマップとの連動による収納機能が追加されたのだ。さらに袋内で自動で解体できる機能も付けた。これでいちいち近づくことなく、マップが届く範囲であれば袋に詰めることができるし、解体する時間も不要となった。


 本来2日もあれば谷に着くはずだったんだけど、4日もかかったのは偏に一定距離にいるモンスターをピリカとハクが殲滅していたからだ。おかげですでに結構な稼ぎになっている。


 トリアは僕側だと思っていたけど、僕だけがお荷物で、彼女たちが連携して殲滅したモンスターを袋に入れるだけのただの荷物持ち(ポーター)だった、つらい……。



 谷に侵入すると、100メートル程幅が数メートルの道が続いた後、数十メートルに幅が広がった。


「ひゃっほー!!」

「ん。」


 開けた場所に出た瞬間、スターターピストルが鳴ったかのようにピリカとハクが飛び出す。二人はそれぞれ別方向に進み、その先にいたのは体高3メートルはありそうな巨大な蠍型の化け物。いかにも固そうな赤黒い殻に覆われており、打撃に強そうだ。


 その名もレッドスコーピオン!!


「イフリート!!ファイヤーランス!!」


 しかし、ピリカが叫ぶと槍の形に成形された炎の塊がモンスターを何の抵抗もなく貫いて命を奪う。


「あはは!!金貨10枚♪」


 ピリカは子供の用に無邪気に笑いながら倒したモンスターを査定する。


 全然固くなかった……。

 それにしてもホントこの国に来てからより一層感情が表に出てきたなぁ。

 いや、不自由のない生活が送れるようになり、直近の危機も去ったことでピリカの本来もつ性格が表れてきてるのかもしれない。


 笑い声をあげながら、侵入者に気付いた次の蠍に向かって走っていく。


「ん。八気掌 剄斬。」


 ハクも相手に気付かれる前に肉薄し、飛び上がって脳天に一回転した後、かかとおとしを食らわせる。ただのかかと落としではない、足があめ色に輝いていて、気を纏っていることがわかる。そしてモンスターに当たった瞬間、気は蠍の内部に入り込み、全身を駆け巡った。次の瞬間には蠍は崩れ落ちていた。


「ん。運動不足……もっと運動した方がいい。生活習慣病になる……。」

「金貨20まーい♪」


 なんとも場違いな言葉をつぶやきながら、ハクも次のターゲットへと駆け出す。ハクの分も金貨を数えるピリカも精霊魔法で次々と蠍を葬っていく。


「金貨200まーい♪」

「筋トレした方が良い……。瞬発力が足りてない……。」


 近くに感知できるのは20匹ほど。今や半数へと減っていた。


「うーん、漏れ出たモンスターにこのタイプはいなかったけど、この谷のモンスターって強いんじゃなかったっけ?」

「そ、そうですね。んー、案外、よ、弱いのかも?」

「そうかもね。もう少し奥にいけば強いのいるかなぁ。」


 僕とトリアは顔を見合わせて頷きあうと、二人の後をのんびりとついていった。

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