Page34.馬車工房
総合評価300点いただきました。完全に勢いで書いている作品ですが、今後ともよろしくお願いします。
ということで感謝の更新です。
感謝でめちゃ長くなりました。
俺の名はバシャミーチ。
この国境の街アレスタでも、腕の立つ馬車職人だ。そして、二つ名は『嫉妬狂い』。俺が自分から名乗ってる訳じゃねぇぞ?
女を侍らした男の2、3人に意地悪したら、いつの間にかそう呼ばれていた。意地悪って言っても、座るたびに屁のような音がする仕組みを付けたり、がたがたと振動するようにしたり、夜な夜な変な音がなるようにしたくらいだ。可愛いもんだろ?
なに?かなり陰湿だって?
そんな2人や3人にそんなことしたくらいでそんな二つ名で呼ばれるわけがない?
うるせぇ余計なお世話だ。黙ってろ。
そんなことはさておき、今日も今日とてノコノコとモテ男がやってきやがった。
「いらっしゃいませ。あらあら、あらあらあらあら。馬車をご入用ですか?」
だから俺はそんな奴に目いっぱいの笑顔で声を掛ける。
「あ、はい。」
返事をしたやつはお世辞にもカッコいいとはいいにくい容姿。整っているがそれだけだ。
それにも関わらず、幼い容姿の女の子を含めても三人の史上まれにみる別嬪に囲まれている男。派遣員らしいが駆け出しの装備に、決して腕が経ちそうにないその貧相な体つきと滲み出る雰囲気。俺の方が腕っぷしがありそうなくらいだ。
特に三人の中の猫人族の娘は、同じ獣人族の俺にとって女神にもひとしき美しさを持っており、蜜に吸い寄せられる蝶のように目を離すことができないほど。獣人にとって力こそが魅力を感じるものが多いはずだが、目の前の男はそれには程遠い。装備も駆け出し派遣員のそれ。お世辞にも稼いでいるようにさえ見えなかった。
だからこんな男がこれほどの女とあんなことやこんなことをしていると思うと無性に腹立たしくて、いつもとは違った形で意地の悪い行為をしたくなった。
「こんなに美しいお嬢様方とご一緒とは、さぞかしおモテになるのですね!!どんな馬車をお求めですか?……爆破しろ(小声)。」
おっと心の声が漏れてしまった。まぁいい。さてこいつには女たちの前で恥をかいてもらおうじゃないか。
「いえ、この子達は奴隷なのでモテるわけではないかと。それで個室の馬車があれば欲しいのですが……。」
「はいはい、モテるやつは皆そういうこと言うんだよな~(小声)。それはダメ、ダメですよ、そんなことでは!!お客様達には、今の店にある既存の馬車は似合いません。後ろのお嬢様達は非常に可愛いらしいので、馬車もやはりそれに見合った最上位のモノでないと。……ふふふ、ちょっと高い素材で造らせた予算にしてやる(小声)。」
俺は今回は高い金額を提示して女の子たちの前で馬車が買えないという赤っ恥をかかせる作戦を遂行することにした。
「確かに仰る通りですね。オーダーメイド、ということですか?」
黒髪の男がやけにあっさりと俺に同意する。こいつ何考えているんだ?
「そうです。」
「どのくらい費用が掛かりますか?」
来た!!苦笑しながら費用を気にしている。これはあまり予算がないな?
俺はどや顔で答えてやることにした。
「金貨200枚ですね。高級建材であるバリモス材木を使用し、純度の高い錫、そしてアーマーダイルと呼ばれるオオトカゲの皮を使用しており、非常に高価で頑丈、そして長く使える逸品となっております。」
「ではそれでお願いします。」
「え!?」
俺はあまりに簡単了承する男に驚き素っ頓狂な声をあげてしまった。
「え?」
目の前のモテ男も意味が分からず間の抜けた声を出して困惑している。
まぁ提示されたものに返事しただけなのに驚かれれば変な顔になってしまうのも無理はない。
「チッ……金持ってなさそうなのにどういうことだよ!?(小声)」
俺は予想に反して男が金をもっていることに舌打ちしながら次のプランを提案する。
「あ、すみません。失念しておりました。お嬢様方ほどの女性となれば王族でも乗れる馬車は必要でしょう。」
「おお!!それは確かにその通りですね!!おいくらでしょう。」
目の前の男が俺の言葉に目を輝かせている。
ふふん次こそはほえ面書かせてやるぜ。
「金貨1000枚ですね。最高級建材であるハイオーク材を使用し、高級な鉱石ブラックストーンで金具を作成することで落ち着いた雰囲気と高貴さを併せ持つ色合いを実現。さらにタイガーエンペラーの皮を加工して使用すると事で柔軟性があがり、揺れも抑えられ長時間の旅にも使用できるモデルとなっております。」
「ではそれでお願いします。」
「え!?」
俺は再びの驚愕に二度目の可笑しな声をあげてしまった。
「え?」
モテ男も同じだ。
なんだと!?金貨1000枚をポンと出すとはこいつは一体何者なんだ?
金貨千枚ともなれば、奴隷7、8人は買えるし、数人の一般家庭なら50年は普通に暮らせるぜ?
腕っぷしが強そうに見えないのが逆に不気味に思えてきた。
俺はヤバいやつに喧嘩を売っちまったのか!?
でも俺はここで引く訳に行かねぇ!!馬車職人の矜持にかけて!!
「うーん、お客様はこれでもご満足いただけないご様子。これは伝説級の馬車をご提供するしかありませんね。」
「そんなことありませんよ?」
本音を語っているだろうが、俺はより上位の提案を持ち込む。負けるわけにはいかないのだ。
「いえいえ私にはわかります。あなたは唯一無二の世界最高の馬車をご所望のようですね。確かにお三方ほどの方ともなれば各国の姫でも相手にならないかもしれません。その三人のあった馬車となればそれも当然でしょう。」
「うぉぉ!!あなたの言う通りですね!!この子たちにはそのくらいの馬車が必要だ!!」
モテ男は目をキラッキラに光らせてあたりが照らされんばかりにはしゃいでいるが、金額を聞いて絶望するがいい。
「でしょうでしょう。」
「うんうん。でも今度はホントにお高いんでしょう?」
お互いに頷きあうと、モテ男は聞きづらそうに俺に尋ねる。
「そうですね。白金貨200枚になります。」
「あら、思ったより安いですね!!お願いします。」
「は!?」
俺は目を見開いて驚愕し、目の前のモテ男を凝視した。
それはそうだろう。白金貨200枚ともなれば最上級のシングル派遣員でも二桁は依頼をこなす必要があり、一般家庭なら家族数十人で一生暮らしても余るくらいの金額だ。それをポンと出せるということはそれだけの実入りがあるということ。こいつはとんでもない大物に違いない。
「どうされました?体調悪いならポーション飲みます?イイのありますよ?」
俺が呆けているとモテ男が心配そうに俺に話しかけ、ポーションを手渡そうとしてくる。
くっ。相手に気遣いまでできるなんて……これがモテ男の由来なのか。
「い、いえ、大丈夫です。分かりました。ああ~でもお客様に相応しい材料となると、非常に入手が困難でして……。いつ頃入荷できるか分からないのですが……。」
俺は申し訳なさそうな表情を作って答えた。
そう、最上級の逸品ものの素材ともなれば高ランク派遣員を多数動員して採取してくる必要があるため、あの金額になってしまうのだ。今から採取に行く派遣員を集めて出発したらどれだけに時間がかかるか見当もつかない。
「どういう素材なんですか?」
「必要な素材は四つ。ここから馬車で2週間程西南西に向かうと非常に魔力の濃いブランクラフトという谷がありまして、その谷で取れるハイブラックストーンと、その谷に出現するターミネイトベアの皮。そこを越えると、不死の庭園と呼ばれる高位アンデッドが雑草のように犇めきあっている魔境がございます。その魔境にまれに落ちているというエンシェントティン。さらにその奥にある、神秘の森と呼ばれる聖なる力を内包した大木が乱立する森。その聖樹と呼ばれる大木。ダブルの派遣員が10組以上のレイドを組んで挑んでなお、ギリギリ取って来れるような代物です。……へへへ、どうだ、流石に取って来れないだろう?(小声)。」
モテ男にどれだけ凄い素材なのかを力説する。
「分かりました。その素材を取ってきたら作ってもらえますか?」
「え!?」
もう何度驚かせれば気が済むんだろう。こいつは何を言ってるんだ?
意味が分からない。
俺は自分の顔がどうなってるのかもう検討もつかなくなっていた。
「え?」
何度も繰り返されるこのパターンに相手も何やら病気か何かを疑っているような表情をしている。しかしそんなことはない。ただ目の前の現実が受け入れられないだけなのだ。
俺は恐る恐るモテ男を見つめる。
「なんです?」
モテ男が首を傾げて聞いてくる。
なんなんだこいつは……。どうしてこうも平然としていられる。どれほど危険か分かっているのか?
「お客様が材料を取ってくると?……そんなことないよね?(小声)」
「そうです。」
「……そんなバカな!?(小声)かなり危険ですよ?」
「大丈夫です。危なくなったら逃げます。」
にこやかな笑顔でサムズアップしている男に俺は敗北を感じた。
こいつになら本物を作ってやっても構わねぇ。俺には敵わない相手だった。見た目で判断して対応を間違えちまったんだ。
「はぁ……。分かりました。素材を全て揃えていただけるなら、工賃だけで構いません。金貨100枚で良いですよ。……負けたよモテ男、こうなりゃ作ってやろうじゃないか!!(小声)」
「ホントですか!!やった!!ありがとうございます。お金ですが、素材とってきてからでもいいですか?」
「大丈夫ですよ。契約書を作成しますね。……このとんでもない色男が!!(小声)」
彼らは契約書を受け取ると店を去っていった。
「あれがモテる男の背中か……。俺も見習ないとな……。」
独りごちておくの工房へと向かった。
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「へぇ、色んな馬車があるもんだな~。」
「そうですね、王侯貴族が乗るような箱型の物や円の一部分が欠けた形に近い物、商人が積荷を乗せるような物、幌が付いた物に大別されますが、その中でも大きさや形は様々ですからね。」
「なるほどね。」
次の日、いつもよりノンビリと朝の微睡みの時間を過ごした僕達は、早速馬車を取り扱っている店にやって来ていた。
様々な馬車があって面白いけど、狙うのは個室になっている馬車。理由は、内部を家のように改造するつもりなので個室型の方がポイントのロスが少ないだろうからだ。値段は安ければ安い方がいいかな。弄りまくるから。
僕たちは馬車群の奥にあった工房らしき建物に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ。あらあら、あらあらあらあら。馬車をご入用ですか?」
「あ、はい。」
「こんなに美しいお嬢様方とご一緒とは、さぞかしおモテになるのですね!!どんな馬車をお求めですか?……ブツブツ。」
僕達を対応してくれたのは、小太りな中年のおじさん。僕達を見るなり笑顔をピクピクと引きつらせている。最後の方は聞こえなかったけど、笑顔なのに態度が非常に刺々しい。何かあったんだろうか。
「いえ、この子達は奴隷なのでモテるわけではないかと。それで個室の馬車があれば欲しいのですが……。」
「ブツブツ……。それはダメ、ダメですよ、そんなことでは!!お客様達には、今の店にある既存の馬車は似合いません。後ろのお嬢様達は非常に可愛いらしいので、馬車もやはりそれに見合った最上位のモノでないと。……ブツブツ。」
ちょいちょいおじさん独りごちてるけど、何言ってるか聞こえないんだよなぁ。何言ってんだろ。
それはさておき、僕は馬車に拘りはなかったので適当なやつを買えればよかったんだけど、確かにピリカ達を乗せるにはそれ相応の馬車でないといかんね。一理あるな。ピリカたちを褒めるなんてやるじゃないかおじさん。
僕は気を取り直しておじさんの言葉に頷く。
「確かに仰る通りですね。オーダーメイド、ということですか?」
「そうです。」
「どのくらい費用が掛かりますか?」
「金貨200枚ですね。高級建材であるバリモス材木を使用し、純度の高い錫、そしてアーマーダイルと呼ばれるオオトカゲの皮を使用しており、非常に高価で頑丈、そして長く使える逸品となっております。」
「ではそれでお願いします。」
「え!?」
「え?」
「……ブツブツ。」
僕がお願いすると、目を見開いて驚くおじさん。
いや、オーダーメイドを勧められたからお願いしたのに、驚かれるとは一体どういうことなんだろうか?お金そんなに持ってないと思われたのかな?確かに上等な服を着てるわけじゃないからなぁ。
僕は首をかしげる。
「あ、すみません。失念しておりました。お嬢様方ほどの女性となれば王族でも乗れる馬車は必要でしょう。」
「おお!!それは確かにその通りですね!!おいくらでしょう。」
うんうんもっといいものがあるなら、確かに彼女たちにはいいものに乗ってほしいよね!!
「金貨1000枚ですね。最高級建材であるハイオーク材を使用し、高級な鉱石ブラックストーンで金具を作成することで落ち着いた雰囲気と高貴さを併せ持つ色合いを実現。さらにタイガーエンペラーの皮を加工して使用すると事で柔軟性があがり、揺れも抑えられ長時間の旅にも使用できるモデルとなっております。」
「ではそれでお願いします。」
「え!?」
「え?」
またこのパターン?なんで相手が提案してきてくれたものを肯定するだけでこんなに驚かれるのだろうか。
強そうな魔物狩りまくればなんとかなるでしょ。
主にピリカとハクが。僕とトリアは見学。
「うーん、お客様はこれでもご満足いただけないご様子。これは伝説級の馬車をご提供するしかありませんね。」
「そんなことありませんよ?」
僕は満足しているんだが、おじさんは最高の馬車を紹介したそうなので見せてもらおう。最高の彼女たちには最高の馬車を。これは常識。
「いえいえ私にはわかります。あなたは唯一無二の世界最高の馬車をご所望のようですね。確かにお三方ほどの方ともなれば各国の姫でも相手にならないかもしれません。その三人のあった馬車となればそれも当然でしょう。」
「うぉぉ!!あなたの言う通りですね!!この子たちにはそのくらいの馬車が必要だ!!」
「でしょうでしょう。」
マジで!?そんなものが作れるならぜひ作ってもらいたい!!
俺は目を輝かせて頷いた後、苦笑を浮かべて尋ねた。
「うんうん。でも今度はホントにお高いんでしょう?」
ハウマッチ?ハリーハリーハリー!!
「そうですね。白金貨200枚になります。」
なんだ、それだけか。袋より全然安いじゃなーい。買いです。
「あら、思ったより安いですね!!お願いします。」
「は!?」
僕の答えにおじさんが、一瞬般若のような形相になったような気がするけど気のせいだろう。先程から顔を逸らして声で何か言ってるようだけどホントに全然聞こえないな。
おじさんさっきからちょいちょい固まるけど大丈夫だろうか?体調悪くしてない?
「どうされました?体調悪いならポーション飲みます?イイのありますよ?」
「い、いえ、分かりました。ああ~でもお客様に相応しい史上最高の材料となると、非常に入手が困難でして……。いつ頃入荷できるか分からないのですが……。」
僕がおじさんにポーションを差し出すと、おじさんは受け取りを拒否して気まずそうに顔を歪めて揉み手をしながら僕に告げる。
なるほど、そんなに凄い素材なのか。それはぜひとも使ってもらいたいね。
「どういう素材なんですか?」
「必要な素材は四つ。ここから馬車で2週間程西南西に向かうと非常に魔力の濃いブランクラフトという谷がありまして、その谷で取れるハイブラックストーンと、その谷に出現するターミネイトベアの皮。そこを越えると、不死の庭園と呼ばれる高位アンデッドが雑草のように犇めきあっている魔境がございます。その魔境にまれに落ちているというエンシェントティン。さらにその奥にある、神秘の森と呼ばれる聖なる力を内包した大木が乱立する森。その聖樹と呼ばれる大木。ダブルの派遣員が10組以上のレイドを組んで挑んでなお、ギリギリ取って来れるような代物です。……ブツブツ。」
へぇ、なかなか面白そうな場所があるんだなぁ。ぜひとも行ってみたい。異世界に来たんだから色んな所に行ってみないとね!!探検するついでにその木材とって来ればいいよね。護衛依頼もあるからそんなに時間は取れないかもしれないけど。力説してくれてるように取ってくるの大変そうだから高く買い取ってもらえるだろうし、その売却とモンスターの壊滅でなんとか白金貨200枚くらい用意できるでしょ。
「分かりました。その素材を取ってきたら作ってもらえますか?」
「え!?」
「え?」
僕が思いついた提案に、またありえないものを見たような顔をされた。なぜ?げせぬ。
「なんです?」
「お客様が材料を取ってくると?……ブツブツ。」
「そうです。」
「……ブツブツ。かなり危険ですよ?」
「大丈夫です。危なくなったら逃げます。」
恐る恐る尋ねるおっさんに僕はサムズアップして答える。
「はぁ……。分かりました。素材を全て揃えていただけるなら、工賃だけで構いません。金貨100枚で良いですよ。……ブツブツ。」
「ホントですか!!やった!!ありがとうございます。お金ですが、素材とってきてからでもいいですか?」
「大丈夫ですよ。契約書を作成しますね。……ブツブツ。」
その後、契約書を交わしてから僕たちは店を後にした。
「馬車工房の人独り言多かったけど、めちゃくちゃいい人だったな。」
「そうですね、私たちのことをあれほど考えてくれるとはなかなかいい馬車職人のようです。」
「ん、優秀。」
「私は自分が可愛いか分からないのですが……。」
「トリアはとっても可愛いぞ。もちろんピリカもハクもね。」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「ニャアァ……嬉しい。」
「はわわ……あ、ありがとうございましゅ。」
店を出ると馬車工房の受付をしてくれたおじさんのことに話題が及ぶ。
皆の言う通り、あの人は素晴らしい人だったと思う。僕は書き替えられるからって安く済まそうだなんて。ダメな男の思考になっていた。おじさんはその思考を正してくれたんだ。ぜひ素材を取ってきて売り上げに貢献してあげたいところだ。
頑張るぞぉ!!
主に僕以外の皆が!!
「護衛依頼がいつになるか分からないし、念のためギルドマスターに確認してからサッサと行ってこようか。」
「そうですね、早い方がいいでしょう。」
「ん。」
「お、同じく。」
「ウインドボードだとどのくらいで行けるかな?」
「そうですね……大地喰らいを倒した後、結構調子が戻ったのか倍速くらいでいけるかと。」
帰りに僕たちは必要なものを補充しながら門へと向かっていると、ひとつの露店の前で皆の足が止まった。
どうしたんだろうか?
「いらっしゃい。」
販売しているのはエルフのお姉さん。見た目は20代後半くらいに見えるが、ピリカより年上に見えることからおそらくかなりの年齢のはず。
「何か言いたいことでも?」
お姉さんが俺のよこしまな思考に気付いたのか、凄まじいプレッシャーを放って僕に尋ねる。
「なんでもありません!!」
僕はびしっと気を付けして答えた。
だって怖いんだもの。このエルフは年齢を気にする珍しいタイプのお姉さんだったか。気を付けよう。
販売しているのは精緻な細工が施された装飾品の数々。指輪や腕輪、髪飾りなどどれをとっても一級品に見えた。三人の目はその装飾品に釘付けになっている。特に銀色の腕輪が皆のお気に入りらしい。
「シルバーの腕輪を4つ貰えますか?」
「ほほう。お前さん中々やる男じゃないか。一つ金貨12枚ってところだが、全部で40枚にまけてやろう。」
「ありがとうございます。」
結構高いけど、図鑑で見る限り、実はこの腕輪ミスリル製。価値も本来なら倍くらいしてもおかしくない代物だった。なぜ売れていないのか不思議なくらいだ。
「いいんですか、ご主人様?」
「いいの……?」
「い、いいんでしゅか……?」
「ああ、もちろんさ。」
「「「ありがとう(ござい)(ます)(ましゅ)」」」
僕は三人に笑顔で頷くと、三人は花開いたような笑みを浮かべた。
この笑顔を見れただけで買った甲斐があるってもんだよ。
まぁ大体この子たちが稼いでるのは言わないでくれよな!!
「サイズ自動調整の魔法が掛かってるから嵌めれば、ちょうどいい大きさになるからね、限度はあるが。それと外したいと念じれば、元の大きさになって外せるようになる。」
「そりゃ便利ですね。これお代です。」
僕たちは支払いをして腕輪を受け取ると、全員で腕に嵌めてみた。
「おお!!」
エルフのお姉さんが言うように腕の太さに合わせてサイズが調整される。
「ご主人様とおそろいです。」
「お揃い……嬉しい。」
「お、おしょろい……。」
ピリカとハクとトリアは品物の精緻な細工以上に、お揃いが嬉しいらしい。各々太陽にかざすようにして眺めている。
四人でおそろいの腕輪とか、なんだか気恥ずかしいな。
「家族の証ってことになるのかな。」
僕が呟く。
三人がギュンって擬音がふさわしいスピードでこちらを向いた。目の中にきらめきが溢れていた。
「ご主人様と家族……。」
「素敵な響き……。」
「おにぃしゃま……。」
恍惚の表情を浮かべる三人。
家族も友人たちもほとんどいなかった彼女たちにとって、家族や人と肌と肌を触れ合わせることは憧れや夢にも似た部分があるのかもしれない。僕が彼女たちの憧れを実現してやれるならそれはとっても嬉しいことだ。
「ははッ。三人とも骨抜きにされてるじゃないか、流石だねぇ。」
エルフのお姉さんが大声で笑ってポワポワした空気を破壊する。
「僕はメリットあるから買っただけなんですがねぇ。」
「それがお前さんだったことに意味があるんだろうさ。これからも大切にしてやんなよ。」
「それはもちろんです。」
ニヤリと口をゆがめるエルフのお姉さんに、僕はどや顔で返事をした。
「いい返事だ。ではまた来ておくれ。」
「はい、ありがとうございました。」
お姉さんにお礼をした後、僕は皆の方を向く。
「さて、さっそく行ってみようか?」
「分かりました。」「ん。」「は、はい。」
僕たちは露店から街の入り口へと歩を進めた。
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某ギルドマスターの部屋。
「あ、タクミ君に紹介した馬車の工房って凄くモテる男を目の敵にしてるんだよな。大丈夫かな。」
しばらく室内にペンの走る音だけが響き渡る。
「まいっか。タクミ君なら大丈夫でしょ。」
爽やかイケメンなギルドマスターは考えるのを止めた。




