Page3.日雇い労働者になる。
目を開けると見慣れない天井が目に入る。
ああ、そういえば勇者召喚に巻き込まれたんだったっけ。
まぁ日本の退屈な毎日に飽きていたし、異世界に憧れもあったから今の状況は悪くないね。
勇者になって馬車馬のように働かせられるのは御免だけど。
外はすっかり明るくなり、日も出たばかりということはないらしい。昨日は色々あったから疲れて寝てしまったんだろうね。
――コンコン
「はい」
「あ、やっと起きたんですね。朝食の時間はとっくに過ぎてますよ!早くしないと締めちゃいますからね!」
「あ、すみません!」
思考を引き戻すようにノックの音が脳に届き、ドアの向こうから受付嬢の少し強めの語気で催促されると、僕は慌てて一階へと向かった。
料理は、パンとポタージュだ。硬いパンかと思ったが、ふんわりとしたパンが用意されている。この辺りは小麦、または小麦に準ずる穀物の栽培が盛んなのかもしれない。
朝食を食べ終えると、僕はもう一泊分の宿泊費を支払って、街へと繰り出した。
まずは当面の生活費を稼ぐために派遣員ギルドへと向かう。派遣員ギルドは城下町の中央部に、様々なギルドとともに連立している。建物の造りは他のギルドとそう大差はないが、中にいる人達の雰囲気が、外に比べると一段とガラが悪く、貧相な格好のものが多い。
おそらく日々の暮らしにも困るような輩か集まっているのだろうなぁ。前の服装で来ていたらカモがネギを背負ってやって来たと思われていたかもしれない。
僕は受付を見渡して、一旦物陰に隠れた後、出来るだけ温厚そうな女性を選び、順番待ちの列へと並ぶ。十五分程するとようやく自分の番となった。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。あのえっと、仕事を紹介していただきたいのですが?」
「仕事のご紹介ですね!まずは派遣員ギルドへの登録をしていただく必要がございます。こちらの用紙に必要事項をご記入ください。全てご記入いただく必要がございません。名前だけは最低限ご記入ください。」
「分かりました。」
タレ目で美人な受付嬢さんは見た目通りに優しく丁寧な対応をしてくれる。優しい。恋に落ちそう。
受付嬢さんに詳しい説明を受けると、派遣員証に血を垂らして受け取った。ナイフで指を切る動作はやったことがないのでとても緊張したけど、さほど痛くはなかった。
申請書を書く際、世間話などをしながら受付嬢さんの名前を聞いた。ハンナさんというらしい。ハンナさんによると、派遣員には信頼度によってランク分けされており、下から順に、ディカプル、ノナプル、オクタプル、セプタプル、セクスタプル、クインティプル、クアドラプル、トリプル、ダブル、シングルの十階級。
ディカプルはほとんどお使い程度の町の雑用ばかりで旨味がない。小さな子供向けの階級のようなもので、十二歳以上であれば、最初からノナプルにあがることが出来るらしい。
ノナプルからは街の近くの森の薬草集めや果物採取、街の雑用がメインみたい。近くの森には危険なモンスターはおらず、小さな害獣程度で12歳以上であれば逃げ切るのも容易いとのこと。
オクタプルからは異世界らしいモンスターの討伐の仕事ができるようになる。これは近所の害獣退治がメイン。
そして、セプタプルになると一般人にとって殺すのが大変なモンスターの討伐の仕事が出来るようになり、このランクから仕事と生活が成り立つようになる、らしい。らしいというのは、ある程度の数をコンスタントに狩り続ける必要があるので、ソロだと厳しいのだとか。
しかし、セプタプルくらいだと、街と街の行き来もままならない。街から離れれば離れるほどモンスターは多くなり、群れになっていることもあるそうな。勿論モンスターだけでなく、盗賊の類も結構いるようだ。
いくらさほど強くないモンスターや盗賊でも数の力は大きいんだよね。だからセプタプル以下の派遣員は、護衛のついた商隊などにくっついて街と街を移動することが多い。
セクスタプルまで行けば街道間のモンスターの群れや盗賊程度では相手にならない程度の戦闘力やコミュニケーション能力を持っていると判断される。このランクから護衛依頼なども受けることができるようになる。
当面の目標は、セプタプルランクを目指して日銭を稼ぎながら、大きく稼げそうなチャンスを探していきたい。
早めにやるべきことを整理してみる。
■図鑑スキルの確認
■図鑑スキルの試行錯誤
■もっと世界のことを調べる(文化、常識、国、人種etc)
■戦闘奴隷を買う
■生活できる程度の稼ぎを持つ
■奴隷ゲットのため、一攫千金できるチャンスを探す
このくらいかなぁ。
僕は、誰もいない場所でスキルを試す為、薬草取りの仕事を受けて街の外に出た。