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Page27.致命の一撃

 シューティングスターによって降り注ぐ熱線を伴う岩が、大陸喰らいの体を押し潰して焼く。あたりには数メートル単位のクレーターがいくつも出来た。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 体全体を揺らしてつんざくように鳴く大陸喰らい。


 ダメージはあるにはありそうだけど、ほんの表面を削ったに過ぎない。


「チッ」


 なんて硬い表皮。私は思わず舌打ちをしてしまう。


 ご主人様が私たちが誘導しやすい方向に走っていく。進行角度から大体の合流地点を予測して、そこに向かって大陸喰らいを誘導する。私たちが関所に向かって左にそのまま進めば問題ない。


「ぐっ!!」


 一度お願いしただけで大分消費した。まだまだ元のようにはいかない。でもここで辞めるわけにはいかない。


「八気掌 破鎚!!」


 私の精霊魔法が終息した直後に、ハクが飛び出して連打を決めて、私の隣まで空中を後転してきて着地する。早すぎて私にはギリギリ捉えるのでやっとだ。彼女は今、飴色の粘液のような膜に覆われている。凄まじい力を感じた。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 紫色の液体を撒き散らし、多少はダメージがあるのか、大陸喰らいが嫌がるようにブンブンと頭を振りながら不快な声を上げる。


「シルフ、ウンディーネお願い。アイスジャベリン!!」


 私は大陸喰らいの左側面に移動して、空に浮かぶ氷の槍を横っ面に向かって投擲する。段階的に巨大化し、最終的に三メートルを超える先の尖った巨大な氷柱となって突き刺さる。


「ハク!!」

「ん!!」


 ハクは、私の声で技を繰り出す。


「八気掌 陽炎」


 ハクから影が分かれるように増えていき、最終的にハクと見分けのつかない分身が数十あたりに分散する。


「それじゃあ、あっちに引っ張ってくわよ。」

「分かった。」


  私たちは、大陸喰らいの動きを待つ。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 頭を振るのを辞めた大陸喰らいは自分の目の前にいる私たちに顔を向ける。


「SHU!SHU!SHU!」


 口から液体の弾丸を放つ大陸喰らい。


 私たちはありの子を散らすように躱して、合流地点側へと誘導するように二十メートル程下がった。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 それを好機と思ったのか、私たちに向かって突進。


「シルフ、ウンディーネ、イフリート、ノーム、お願い。フォースシールド!!」


 私たちの前に、火、水、風、土の四つの属性を併せ持ち、虹色の光沢を放つ、半透明の巨大な盾が出現した。大陸喰らい以上に大きい。


――ドゴーンッ


 盾と大陸喰らいがぶつかり合う。大陸喰らいの勢いは殺しきれず、盾ごと精霊魔法を支えている私が後ろに押し込まれる。


 くっ、なんてパワーなの!?


 私の様子を見たハクが一瞬で私の後ろに来て私を支えてくれた。


――ガガガガガガガガガガガガガ


「グッ」

「頑張って。」


 苦悶の声を漏らす私をハクが励ます。


 やっぱりだれかと一緒だと心強い。


 そのまま押されること三十メートル程度。ようやく私たちは止まった。


 私は盾を解除して、ハクの姿が搔き消える。


――ドンッ


 大陸喰らいの頭を地面に叩きつけられて跳ね上がった。ハクの蹴り落としだ。


 一撃一撃の攻撃力が私のシューティングスターくらいあるわ。虚弱体質になってなかったら今頃世界に轟かす格闘家だったと思う。


「天空掌!!」


 跳ね上がった顎にあたる部分まで飛び上がって、掌打を浴びせた。体を通って頭の方から飴色の衝撃が突き抜ける。


 あれだけ滅多打ちにしてるのに大したダメージになってないのよね。とんでもない頑丈さだわ。だからこそ今まで誰も倒すに至っていないもいうことなのかも。


 私はハクが攻撃してる間に距離を取った。後ろを振り返るとすでにご主人様は止まっていて、私たちが大陸喰らいを連れてくるのを待っている。その距離残り200メートル程度。ちょっと辛そうに肩で息をしている。


 ご主人様は能力が低いからなぁ。むしろ約1キロをよく走りきったものだなと思った。


「GRUUUUUUUUUUUUU!!」


 大陸喰らいが持ち上げられた頭をそのまま振り下ろす。しかし残念ハクはすでにアゴを蹴って離脱している。


――ドーン!!


 大陸喰らいが地面に頭を叩きつけた。大地がグラグラと大きく揺れる。


 足元がおぼつかない。これじゃハクの次の動きに支障が出るかもしれない。


「ノーム!!」


 私はノームで地面の揺れを止めた。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 ハクが潰れずにいることを忌々しく思っているのか、頭を振り上げて唸り声をあげた。


「怒ってる場合じゃないわよ!!シルフ、ウンディーネ、イフリート、ノーム!!マナバースト!!」


 私はその隙に精霊魔法を打ち込む。


――ド、ドォオオオオオオン


 眩い光が辺りを覆い、消滅するまで収縮したかと思いきや、純粋な色のない魔力の爆発が起こった。爆風が辺りを巻き上げる。風に煽られ、はためく私とハクの服。


 視線を二つ感じる気がするけど気のせいでしょ。もっと怒ってこっちに来なさいよ。


「GRUUUUUUUAAAA!!」


 爆発を諸共せずに打ち上がった首を、私たちのところに直線的に伸ばす。


 今のも効いてないの!?


 私が大陸喰らいにぶつからないように避けると、ハクが上から降ってきて、両足で頭を踏みつける。


 空中蹴ってるし、ハクはやりたい放題ね。


 でも、その口元からはどろりとした赤い液体が漏れ出ていた。


 全く無茶をして……。


 私はその間にバックステップで後退していく。シルフの力を借りて軽やかに下がる。


 残り100メートル!!


「ゴホッ!!」


 私も咳き込み、絡んだ痰をペッと吐き出して、隣に降りてきたハクに声をかける。


「ハク大丈夫?」

「ん……お互いに。」

「私は大丈夫よ。」

「私も。」


 お互いの口元や手足の節々から真紅の液体が滴りおちる。


「それにしても硬いわね。嫌になる。」

「嫌なら辞めたらいい。私はごしゅじんにご褒美もらう」

「な、なによそれ。独り占めはダメよ!!辞めないわ!!」

「分かってるならいい。」


 ハクに弄ばれたのだ気づいたのは大陸喰らいが動いた後。


「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 無視するなとばかりに声をあげての突進。


「フォースシールド!!」


 少し意識が朦朧としてきて集中力が切れてきたらしい。


 すぐに盾を貼り身構える。すぐにハクはサポート体制に入る。


――ドォオオオオオオン

――ガガガガガガガガガガガガガ


 盾を押し込まれる衝撃音と地面をずり下がる音が辺りに響き渡った。


 ホント馬鹿力が過ぎる。



 これでおよそ80メートル。



 それを何度か繰り返し、地上を、真っ直ぐ突っ込んできた場合は私が盾で止めて、勢いを、殺した後に私が盾を解除し、ハクが攻撃して、空から突っ込んでくる大陸喰らいを私が抑えた。その後、ハクが攻撃した後に、地上を突撃してきて盾を出す。


 そのサイクルでもう残り40メートル。


 後ろを振り返ると、ご主人様が人文字で後一回という意味の形をとっていた。


 後一回程度近づけばご主人様の策が炸裂するということだ。私たちそれを信じて実行するのみ。


「ハク次が最後よ!!」

「ん……了解。」


 ご主人様から受け取った伝言を念の為ハクにも共有して、最後の一回に備えた。


 ハクが叩きつけ、そこに私が魔法を打ち込み、苛立って向かってきたのをハクが叩き潰した。


 突進がくる!!


「フォースシールド!!」


 私は盾を具現化して、慣れたようにハクが私を支える。


――ド、ドォオオオオオオン


 私たちは押し込まれる。35、30、25、20。そこまで踏ん張って勢い殺した瞬間。私たちは左右に散った。


「死ね!!大陸喰らい!!」


 ご主人様の叫びが響き渡った。その瞬間頭がある位置に地面に刺さる形で関所の門が出現。顔部分は消し飛んでいた。


「主様!!後ろ!!」


 しかし、同時にトリアの悲痛な叫びが耳に届いた。ご主人様の後ろを見ると、黒装束の人物の白刃が煌めいていた。

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