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Page25.激突

 大陸喰らいは、明らかに僕達を認識している。顔らしき先端をこちらに向けて、唸りをあげていた。


「まさかここで『大陸喰らい』と会うなんて!?」


 僕はハクに下され、正面にいる相手を見据える。


「ん……私達を……見てる。」

「おそらく倒すか、痛い目に合わせて撃退するかの二つに一つでしょう。」


 ハクとピリカがそれぞれの考えていることを読んで、それぞれ呟いた。


 あいつを倒すとか無理ゲーが過ぎないだろうか。


 ウィンドウを確認すると、


 ギガントワーム

 HP 5426000/5426000

 MP 65/65

 SP 235904/235904


 と表示されている。


 現在ポイントは合計60000ポイント程度。ヴェッキオの街のギルドマスターから奪った大量のポイントでもこれだ。


 HPを削りきるにはポイントが足りない。確実に勝つには書き換えてしまう事だけど、やってしまうと魔石のランクまで下がり、倒すことで得られる経験値も下がってしまう。さらに素材としての価値も下がるし、可能なら極力元の状態を崩さないままで倒したい。


 ひとまず、僕は毒と麻痺に睡眠を大陸喰らいの状態に追加して書き換えた。大陸喰らいはグラリとよろめき、こちら側に勢いよく倒れてくる。


――ズシン!!


 すでに数百メートルは離れていた僕達だけど、倒れた大陸喰らいは僕達のほんの数十メートル先に先端が来るほどの長さがあった。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 倒れた衝撃であっさりと目を覚ます大陸喰らいは、怒りからか叫んだ。麻痺もすでに治っているようで、状態異常に対する耐性が高いことが窺える。


 なんていうことだ。状態異常にしてすぐ回復されてしまう。ずっと状態異常にし続けるとそれだけポイントを消費する。


「ハク、ピリカ。アイツにダメージ与えられそう?」

「万全なら……間違いなく……いけた。」

「ですね。今の状態だと、浅い傷くらいでしょうか。やってみないと分からないですけど。」


 この子達が全盛期の時ってどんだけ強かったの?まぁそんなことは後だ。今でもダメージは与えられるんだろう。やってみてもらうしかない。


「もう一度状態異常にするからやってみて!!」

「分かりました!!」

「了解……。」


 僕は再び書き換えた。しかし、すでに大陸喰らいは動き出していた。こちらに突進してきたのである。


「ちっ……。」

「うわっ!!」

「ちょっと!!」

「きゃ!?」


 状態異常を固定しているけど、すでについた勢いは消せない。新幹線よりも速いスピードでこちらに近づいてくる。


 ハクとピリカは僕達を抱えて飛んだ。


――ガガガガガガガガガ!!


 眠ったままの大陸喰らいが地面を削る。身体能力は高くないけど、体が大きいから思ったより高くなくても驚異的だ。ゴキブリが人間サイズになるとヤバイのと同じ。


 僕達の目の前を家より高い巨大な体が通り過ぎる。


 そりゃ関所も簡単に壊れるわけだよ。あんなの食らったら僕の体なんて一発でお陀仏になってしまう。ピリカとハクは分からないけど、トリアも同じだと思う。


「ハク、ピリカ!!攻撃してみて!!」


 僕は2人に向かって叫んだ。2人は僕とトリアを地面に下ろして攻撃を開始する。


「シルフ!!テンペストアロー!!」


 先に攻撃を仕掛けたのはピリカ。ここは2人の武器のちがいだ。ピリカが遠距離攻撃、ハクは近距離攻撃だ。耳鳴りがすると同時に、人の背丈程の風をまとった半透明の緑色の矢が、数十大陸喰らいに襲いかかる。


――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 大陸喰らいの胴体を貫かんとばかりに叩く。


 さらに追撃のようにハクが、風を置き去るスピードで駆け抜け、胴体へと迫る。


「八気掌 真伝 龍閃掌!!」


 ハクの両手に、粘性のある液体のような光る膜が集まり、両手を合わせて牙を思わせる形を作る。


 胴体の手前で右足をダンと地面に叩きつけ、両手を打ち出し、胴体を撃ち抜いた。地面な亀裂が走り、胴体がボコンッと撓んで宙に浮く。


 ハクはありとあらゆる気を自分の身体能力や攻撃に上乗せして戦う八気掌の使い手。両手に集めることで増した気は相手を内側から貫き、その威力は龍をも穿つとか。


「やったか!?」


 僕はつい呟いてしまう。


 これ言いたくなる気持ちが分かった。


 大陸喰らいの突進と2人の攻撃で舞い上がった土煙がゆっくりと晴れていく。見えた胴体には、数十の小さな穴と両手ほどの穴が、数十センチ程の深さで空いていた。


 ギガントワーム

 HP 5424721/5426000

 MP 65/65

 SP 235704/235904


 2人の攻撃で減ったのは1300弱。4000発くらい今の攻撃をいれないと殺せない。これで殺すのは現実的じゃない。


 2人がそばに戻ってきた。


「凄いな。ダメージ与えられてるよ。今のが最大威力の攻撃?」

「完璧な状態ならまだ出せる技はありますが、今やると体への負担が大きくて……。」

「私も……今使ってるのは…せいぜい……二気。負担を考えず……万象の気纏えば……まだまだいける。」


 負担を考えなければ……か。やらないってことは今使うと体がヤバいことになるんだろうな。最悪死ぬとか……。そこまでするなら書き換えた方がいい気がする。書き換えられるなら、だけど。


 僕は試しに説明文を変更しようとしてみた。


「3000000ポイント必要ですが、編集しますか?YES or NO」


 と、脳内に表示された。


 相手が強大だとここまでポイントが変わるのか。


 その間も僕のポイントは減り続けている。ここまでに消費したポイントは1万。無視できない消費量だ。ここまでたった1分程。長期戦はまずい。現実的なのは状態異常を掛けてる間にどこかに身を隠すとか?探知できる可能性もあるから確実とは言えないけど。


「お、お二人は、よ、よく、あ、あんなに、お、恐ろしい、も、モンスターに、む、向かって、い 、いけますね。」


 ピリカとハクに声をかけるのはブルブルと震えて座り込んでいるトリア。


「昔は日常茶飯事でしたし。」

「やらないと……みんな死ぬ。」


 2人はなんて事のないように答える。


 2人にとっては当たり前のことなんだろうね。


「お、お二人は、こ、心も体も、つ、強いんですね~。」

「そんなことない。」


 怯えるトリアが感心するように呟いたが、ハクは首を振った。


 10日前くらいまでは2人も死ぬ間際だったからなぁ。今の姿しか見ていないトリアには想像できないのかもしれない。それよりも時間がない。ポイント消費でだめなら別の方法を考えるしかない。ポイント以外僕が持っているものは……。


 あ、もしかしたら倒せるかもしれない。


 僕は頭の上に閃きマークを浮かべた。


「ちょっと思いついた。僕とトリアが関所の方にしばらく離脱するから、もし暴れ出したら、こっちに誘導しつつ足止めできる?」

「うーん、そのくらいなら。」

「ちょっと……頑張れば……なんとかなる。」


 僕が少し悩みながら提案すると、2人は苦笑いを浮かべながら答える。2人に無理させることになるけど、ちょっと頑張って貰おう。


「頑張ったらご褒美あげるよ。」

「え!?ホントですか?俄然やる気が出ました!!」

「ご褒美楽しみ……頑張る。」


 2人が目を輝かせる。


 不謹慎かもしれないけど、ご褒美くらいでがんばってくれるならお安い御用だ。


「分かった。トリアは一緒に行こう。」

「で、でも……。」


 トリアが自分だけ僕と一緒に行くことに難色を示す。


 トリアが残ると2人の内1人はトリアの護衛になってしまう。そうなると大陸喰らいが暴れた時、一人で相手しなきゃいけなくなる。それは厳しいだろう。それよりも僕の近くにいてもらった方が感知の恩恵を受けられる分、僕が助かる。


「大丈夫。トリアがここにいるとどちらかが守らないといけなくなるからね。」


 僕が訳を説明すると、トリアは「わかり……ました。」と渋々ながら承諾した。


「よし、2人とも頼むね。手遅れになる前に逃げるように。2人の命最優先だよ。」

「任せてください!!」

「分かった。」


 僕がピリカやハクに向き直って話をすると、彼女たちはいい笑顔を浮かべて頷いた。

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