Page24.襲来
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「ギャー!!」
「ウワーン、ママー!!」
「終わりだ〜、もうこの街は終わりなんだ……。」
「誰か、誰か助けて!!」
――バッガーンッ
――ドゴーンッ
優美だったであろう街並みは消え失せ、今あるのは炎と崩れた廃墟。至る所で大質量の物体が硬い物とぶつかる轟音や、体の芯まで響く爆発音が木霊している。戦士は痛みで悶え苦しみ、子供は泣き叫び、男が絶望で膝をつき、女は助けを求める。しかし、この者たちを救う者は居ない。
この街を守るべき存在である、守備隊や町長の私兵団は既に壊滅していた。街がこのような状態になれば、通常火事場泥棒が蔓延るものだが、そういった準盗賊の連中もいない。彼らもまた死んでいたからだ。
もはや生き残りは数えるほどしかおらず、救助は絶望的。自力で逃げ果せて別の街に行くほかない。それが出来なければ日本のように救助体制も整っていないこの世界では、ただ死を待つのみである。
――ゴゴゴゴ……
――ドッカァアアアアアアン!!
街の中央部で一際大きく地面が揺れ、かつて庁舎であった成れの果てが吹き飛び、爆音を響かせる。飛び上がった物が落ちるのは定め。大きな物では10メートルを超える瓦礫が付近に、隕石のように降り注ぐ。外見の残していた建物は軒並みグチャグチャにつぶれ、残していない建物は見るも無残な姿になった。
庁舎があった場所には天にも登るような塔が現れ、鎌首をもたげていた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
僕達は森の中を進行中だ。といってもピリカの精霊魔法に乗ってるので、歩いてるわけでも、何かしてるわけでもない。強いて言えば、索敵が僕の担当だ。旅は順調そのもの。テンプレ馬乗り盗賊は面倒なので、目視した瞬間にマップ連動編集で性格を書き換えて勝手に街に行ってもらった。
「トリア、何か怪しい反応はある?」
「特にありません。」
「追手はまだかかってないのかもしれないですね。」
「それなら良いんだけどね。」
僕らは30~40kmくらいで進んでいるけど、風の影響を受ける事なく、互いに会話できる。
トリアに、僕が気づかない反応がないか尋ねても、特に問題はないらしい。ピリカは追手自体いないかも、と楽観的になりつつある。
三人には僕が召喚された異世界人であることはまだ話していない。でも、それ無しにしても、僕のやってること―ちょっかいかけてくる悪人の性格を真面目に書き換えて改心させる―が、危険視される可能は否定できない。だから、追手の可能性は十分にある。人を自由に操れるんじゃないか?と思われても仕方ないからだ。とは説明してるけど、いまいち国が動くには動機が弱いと思っているのかもしれない。
「とにかく国境を越えて安全な場所を確保するまでは警戒しよう。」
「「はい」」
「ん……。」
僕達はさらに三時間進み、無事にウインドボードを降りる場所にたどり着いた。森が途切れて国境に通じる街道に合流したんだけど、何か静かすぎて不気味だ。後15分も歩けば国境の距離。
「後もうすこしで国境ですね。」
「だね。」
「特に反応はないですね。」
「ん……気配がしない。」
あまりに順調過ぎて逆に怖い。何かあるんじゃないかと勘ぐってしまう。最初から追手がいると考えてるからそう感じるのかもしれない。ちょっと自分を追い詰め過ぎかな。話題を変えよう。
「順調なのは良いことだね。ヴェストリアに行ったら何しよっかな。」
「私は……強い人と……戦いたい。体……まだまだ……戻ってない。後は……健康に良い料理……食べたい。」
「私は沢山稼ぎたいですね~。沢山稼いで、ご主人様みたいに私みたいな境遇の人に使ったり、孤児や浮浪児なんかの救済に寄付できれば、なお良いですね。」
「わ、私はもっと沢山の物を見てみたいです。わ、私のぼんやりとした世界には色がありませんでしたし、形もなんとなく分かる感じでしたから。」
「なるほどね。なんにせよ皆のやりたいことを叶えるなら、一箇所に止まるより、色んな国を回って旅するのがいいかな。」
皆それぞれうーんと唸りながら答えた。それぞれやりたいことが見つかって良かった。助けられて本当に良かったと思う。
「ご主人様はやりたいことはないんですか?」
ピリカが僕におずおずと尋ねる。
「3人を幸せにすることかな。せっかく買ったんだから幸せになってもらいたいしね。みんなのやりたいことを叶えたい。」
「「「そういうとこ(です)(ですよ)」」」
「え!?」
僕が答えると、なぜか皆に突っ込まれた。
え?皆幸せになりたくないとかないよね?どういうことなんだろう。よくわからない。二人とは約束してるし。
「あ、あとは皆みたいな訳あり奴隷や処分奴隷がいれば買いたいかな。今までみたいに。」
処分されるのは気分悪いからね。可愛い女の子以外は適当に書き換えて購入と同時に解放だけど。
「私たちのような人は、生きることを諦めている者もいたりするので、ぜひ助けて欲しいですね。」
「ん……まだいるはず。」
「わ、私も助けてもらってこんなに幸せなので、お、同じ境遇の人がいるなら、わ、分けてあげたいです。」
やっぱり似た境遇の人は助けて欲しいよね。僕も可愛い子が処分されるのは世界の損失だと思うから助けます。
僕達は、ヴェストリアに入った後とことに花を咲かさながら街道を歩く。気づけば国境の関所まで、後20~30メートルの所までやってきた。
関所はヴェストリアに向かう山道の入り口にあり、凱旋門のように堅牢な、数十メートルはある巨大な門だ。門の横に立っている兵士が左右合わせて4人。アークダイ側の兵士だろう。
数メートルまで近づいた時、兵士に話しかけられた。
「止まれ。この先はヴェストリアだ。何の用で向かうつもりだ?見たところ商人ではなさそうだが。」
男1人に女の子3人。確かに言われてみればよく分からない組み合わせかもしれない。
「目的は物見遊山ですね。彼女たちは見かけによらず非常に強いので、僕の護衛です。」
特に隠す理由もないので正直に答える。
「彼女たちが強いって?バカも休み休み言え!!盗賊に会ったらいいカモにされるぞ。」
「ここまで辿り着いてる時点でわかることでは?そんな押し問答はいいので早く通して貰いたいのですが……。」
「な、なんだと!?人が親切に……」
話しかけてきた兵士はどうやら彼女達の力を図ることのできない程度の武人らしい。ここまで4人で来てるんだから相応の実力があって然るべきだと思うんだけど。
「き、来ます!!下から物凄い勢いです。ここに来るまであと十数秒くらいです。」
トリアが突然、焦った様子で叫ぶ。
下ということはあいつか!!
「おまえら、逃げろ!!」
僕は兵士に向かって叫ぶ。兵士は意味が分からず、隣にいる同僚と顔を見合わせた。
くそっ。間に合わない。
トリアの声に、ハクは僕を、ピリカはトリア抱え、走って関所から急速に離れていく。
――ドドドドドゴーーーーン!!
「ギャーーーー!!」
「グアーーーー!!」
辺りを耳を塞ぎたくなる程の轟音と、兵士たちの悲鳴が響き渡った。関所があった場所には、樹木が急速に成長するかのように天に伸びる巨大な影。関所を守っていた兵士たちは巻き込まれて、落ちてきた瓦礫の下敷きになってしまった。生きてはいないだろう。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
その大木の何倍もの太さを誇る巨大な影は、頭痛を引き起こすような不快な音を何キロも先まで届くような大音量で奏でた。
その正体は天を衝くような巨大なワームだった。
「『大陸喰らい』!!」
僕は奴を見据えて呟いた。
ヌッと現れました。




