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Page23.出発

 トリアが目を覚ましたので、僕達は買い物に行くことにした。案の定ここの宿でも出かける時に「若いねぇ!!昼間っから楽しんで!!」と声をかけられ、背中をバンバンと叩かれた。


 凄く痛い。


 今回は全くの無実かと言われると微妙なので仕方がないと思うことにした。


「あ、あれが空なんですね。大きい……。吸い込まれそう……。あの色が青……。そして、あのもこもこしてるのが雲……。」

「そうだね。」


 トリアは宿を出て空を見上げると、開口一番、空を見た感動を呟いた。今日の空はまさに快晴。雲はあまりない。生まれて初めて見る空に驚きを隠せないようだ。


 しばらく空を見上げて動かなかった。


 数分後のテンプレ野郎との遭遇で現実に戻ってきたトリアは、僕達3人影に隠れ、キョロキョロと落ち着かないように見回して、おっかなびっくりに歩いている。


「どう?目が見えるようになって初めて街に出てみた感想は。」

「は、はぃ。い、いろんな色があって楽しいです!!」


 後ろにいるトリアに問いかけると、怯えながらもその赤い瞳には喜色がみえていた。

 不安と期待がせめぎ合っているんだろうな。


「私もご主人様と一緒に出かけた時は、とても怯えてましたね。」

「ん……。初めては……誰でも怖い。」


 二人は振り返り、トリアを母が子を見るような眼差しで見つめる。


 ピリカとハクも呪いが消えてすぐは、ビクビクと怯えていた。まだ8日程度なのに、随分と前の出来事のように感じる。


 この時間は日暮れ前ということもあって、人の行き交いは落ち着いていた。


 出来ればあまり混む前に買い物を終わせたい。


 僕達はそそくさとトリアに必要な物を買い揃え、消費した食材や食事、消耗品は買い足した後、派遣員登録を済ませて足早に宿へと戻った。買い物の間はずっと、トリアは見るもの見るものに目を輝かせていた。見るもの全てが新鮮と顔に書いてあった。


 買い物中にテンプレ野郎を5回掃除(スイープ)している。もうそれなりに掃除(スイープ)したと思うのに奴らは次から次に湧いてくるから困る。


 僕達が宿に戻り、夕食の時間になると、トリアは酒場の雰囲気や食事に興味を示した。主と同じ食事を摂ると聞いてひどく恐縮したけど。でも、ピリカもハクも普通に食べているので、ビクビクしながらも料理を口に運ぶようになった。料理を初めて口に入れた時、よほど美味しかったのか、花が咲くような笑顔を浮かべた。


 料理で笑顔になる彼女はとても愛らしい。料理をよく観察しながら食べていた。僕達は夕食を終えて部屋に戻ると、体を綺麗にすることにした。


「ウンディーネ、シルフお願い。」


 ピリカが呟く。


 全身を淡く水色に光る膜で覆い、汚れを洗い流し、シルフの緑の風の体の周りをグルグルと優しく吹きあげて体を乾かす。


「え、え、え?」

「あ、トリちゃん、初めてだったわね。突然やってごめんね。私の精霊魔法で体の汚れを落として、湿気を風で乾かすんですよ。」

「え、えぇ~!!す、凄いです!!とってもスッキリしました!!」


 目が煌めきの記号にならんばかりに輝かせてピリカを見つめるトリア。その瞳には尊敬の文字が浮いていた。


 あ、あれ僕は??


 体の洗濯が終わった僕達は、二人ずつの交代制で寝ることに。一人ずつだとつまらなくて眠くなるし、二人いれば一人よりも死角や危険度が減るからだ。僕だけだと不安だしね。


 僕はハクと組み、ピリカはトリアと組んだ。トリアは先ほどまで寝ていた為、後の番になった。


「ごめん、安全になるまで我慢してね。」

「分かってます。」


 ベッドに横になり、隣にはハクが抱きついている。羨ましそうに見つめるピリカに僕は謝るしかできなかった。


 早くモフモフの国に行きたい。







 結局何事もなく迎えた翌朝。この二日間呆気ないほど何もない。


 うーん、ホントに僕の考え過ぎだったのかな。


 僕達は朝食後に手早く荷物をまとめ、宿と奴隷商館に挨拶をして街を出発した。


 街道を南に向かって歩いていく。


「ほぇ~。こ、これが外の世界なんですね。あれが山で、あれが森ですか。里で感じていたものとは別物ですね。」


 街と違い、誰もいないからか、後ろに隠れることなくあちらこちらとせわしなく見渡している。


 トリアは昨日買ったばかりの白のワンピースに、スチームパンク風のカーキ色の少し丈の長いジャケットを羽織り、その上にフード付きのポンチョを身に付けている。


 ひょこひょことした小動物めいた動きが僕の心を鷲掴み。心がピョンピョンするんじゃー。


 それから街道を十数分進み、街道から外れて森へと入り、さらに奥へと進んでいく。


「一応図鑑に記載された地図上には、周りに人はいないかな。」

「わ、私の目でも周囲に人はいないです。あ、悪意ある物もないです。」


 トリアの加入により、僕のマップとトリアの目による探知で、より精度の高く、地下まで対応した敵感知つきマップが完成した。


 三眼族の目は、数キロ先までハッキリ見ることが出来るらしい。しかも360度、平面でなく、立体的に透視能力つきで。つまりトリアを中心として半径キロメートルの球体が視認範囲となる。基本は人間と同じ視認角度みたいだけど、頭の中で切り替えるだけで認識できる範囲を広げられるらしい。なんて便利な視覚なんだ。


 ただ、まだ体が慣れていないせいか、今はそれほど遠くまで見えないらしい。数百メートルくらいが関の山だという。


 ちなみに、目を使った術に関しては誰かに教えてもらわないといけないようだ。でも、トリアを捨てた里の人は受け入れてはくれないだろうし、こちらから願い下げだ。別の里の人や里から街に出てきている人を探すしかないだろうな。


 僕達は周りに人の目がない事を確認し、ピリカが精霊魔法ウインドボードを使用した。


「な、ななな、なんですか、これ!?」

「私の精霊魔法ですよ。トリちゃん。」

「へ、へぇ!!精霊魔法って色んなことが出来るんですね!!」


 突然目の前に現れた宙に浮かぶ四つの乳白色の座椅子に驚いたトリア。初めて見る魔法に大興奮している。


「そっか、トリアは昨日まで魔法見た事なかったんだもんね。」

「そ、そうですね。力は感じられましたけど。」

「そっか。これからは色んなものを見れると思うから楽しみにしていてよ。」

「は、はぃ。」


 僕達は座椅子に乗り込んで南の国境に向かった。

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