Page18.宿場町ヴェッキオ
現在僕達が歩いている街ヴェッキオは王都に比べて宿屋や商人達が目立つ。恐らくヴェストリアとの交易の要の一つだからだろう。建物に統一感があって綺麗な街並みだ。王都はもっと雑多な人達が居た。
兵士、学生、商人、魔導師、職人、貴族、公務員……etc。色んな物が集まるところが王都なんだろうね。
それから、先程から気になる服装の人達もチラチラ目に入る。それは露出が多く、派手な化粧をした女性であった。胸元をはだけさせ、生足を大きく晒してアピールしている。この街はヴェストリアに行く商人と帰ってくる商人が泊まる宿が多い。詰まる所、色を売る女性も多いのかもしれない。
「ご主人様はああいうのが好みですか?」
僕の視線に気づいたのか、ピリカがこちらを見ている。特に怒っていたり、嫌がっている様子はない。単純に興味があるみたいだ。
「いや、僕が居たところではああいう女性はあまり見たことがなかったから、つい見てしまっただけだよ。嫌だった?」
「いえ、男は大なり小なり女性が好きなものですし、特に気になりません。強いて言うなら、お金が掛かるのと、あの女性に手を出す前に早く私とハクの相手をしてほしいな~と思うくらいです。」
ピリカはお金が掛かるのが嫌らしい。どこかズレてる気がする。でも早く手を出して欲しいのね。またせてごめんなさい。
「私は嫌……私たちがいるから……そういうところに……行かなくていい……。病気になるかも……。」
逆にハクは嫌みたいだ。後ろを歩いていたのに、僕の隣にやって来て、腕を取って自分の体をグイグイと僕に押し当ててくる。猫人だけに猫っぽいから自分のナワバリを犯されるのが嫌なのかもしれない。ピリカもいるから独占欲が強い訳でもないと思うし。
ふにゅッと程よい柔らかさに腕が包まれる。
お、おう。最高かよ。
それに病気って性病か~。こっちの世界その辺適当そうだもんな~。
「そうですね!私たちがいればいいです!!」
ハクの行動を見ていたピリカも流れに乗って勢いに任せてハクとは逆の方の腕を取って体を押し当てる。それはそれはいい笑顔で。
こっちはもうなんていうか、ズムゥッて沈み込む。ブラとかないから余計に柔らかさがダイレクトに伝わってくる。とんでもない対男性用特化型兵器をお持ちのようで困りますね、はい。
左右から感じる大小の柔らかさのハーモニー。思わず顔がだらしなく歪む。
だってしょうがないじゃん。
年齢イコール彼女いない歴だし?
免疫があるわけでもないし?
二人は地球でも見たことがないくらい可愛いし?
嫁みたいなもんだし?
我慢出来る要素が一つもない。
しかも一度二人の体を直視しているだけに、頭の中で服の下が想像されてしまうんだよね。周りから妬み嫉みの視線を感じるけど、気にしないでおこう。
「おいおい、見せつけてくれんじゃねぇか!?」
気にしないでおこうと思ったら、またテンプレがぞろぞろと部下らしき男たちを連れてやってきた。
なんだか最近どんどんこういう輩が絡んでくるようになったと思う。これは全世界を巡って掃除するしかないかもしれない。むしろ掃除しろというおつげ?どちらにせよ、やることは変わらない。いつもと同じように真面目で勤勉な性格に書き換えて掃除してやった。そこからギルドに行くまでに四回テンプレに出会った。
とほほ……。
派遣員ギルドは王都に比べると小さかった。大きさは半分くらいだろうか。まぁこんなもんか。
僕は扉を押しあけ、受付に向かった。
「こんばんは。どのようなご用件ですか。」
「こんばんは。仕事の完了報告をお願いします。」
「畏まりました。派遣員証と討伐証明部位や依頼品の提出をお願いします。」
「分かりました。」
受付してくれたのは青髪のクールな印象の美人さん。ギルドの制服がよく似合っている。僕は受けていた仕事の討伐証明部位と派遣員証を三人分提出した。
「はい、問題ございません。お仕事をそれぞれ五つずつ受けられてましたね。お仕事一つにつき、銀貨5枚になるので、計銀貨75枚となります。ご確認下さい。」
「はい、大丈夫です。それから一応この街と王都の中間くらいで、『大陸喰らい』を見かけました。見かけただけなので詳しいことは分かりませんが、警戒された方が良いかと。」
僕は提示された報酬を確認した後、『大陸喰らい』のことを思い出し、念の為報告しておいた。
これで少しでも対策を取ってくれるといいけど。
「た、『大陸喰らい』ですか!?分かりました。上に報告しておきます。情報誠にありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして。それでは失礼しますね。」
ついでに買い取りカウンターに向かってオーク肉も換金した。オーク肉は銀貨百十三枚。つまり金貨一枚と銀貨十三枚になった。今日の収入は金貨二枚弱だ。金貨一枚二十万円と考えれば、約四十万円だ。高校生をやってたら考えられない金額だね。
僕達はギルドを出ようと入り口に向かう。
「あ、あの!!タクミ様、ギルドマスターがお話されたいと仰ってるんですが、執務室までお越し願えませんか?」
僕達が買い取りカウンターから十メートル程離れたころ、先程対応してくれた受付嬢さんが、パタパタと走って僕達の前にやってきた。
ギルドマスター?僕に何の用だろう?
「はぁ……。この子たちも一緒で大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
ハクとピリカがいればなんとかなるだろう。
僕は二人が一緒なら行ってもいいです、と暗に伝えると、問題ない、と返事された。
僕は受付嬢さんの後ろに歩いて執務室の前に着いた。受付嬢さんがコンコンとノックをすると、「入れ。」と短い返事が聞こえた。中に入ると執務室にはガタイの良いお時間が執務机に座ってカリカリと書類にペンを走らせている。僕達は立ったままなのに、席を進める様子も、仕事を切り上げる様子もない。
受付嬢ちゃんを見ると、済まなそうな表情をしていた。十五分はたったと思う。
僕は念の為、魔石を取り出して書き換えておく。
「すいません、ギルドマスター、いつ頃お話が始まるのでしょうか?」
僕は待ちきれなくなってギルドマスターに声をかける。
話がある言われてきたのに自分の執務を優先するとか、一体どういう了見なんだろうか?
「もう少しだ。」
謝罪の気持ちなどなく、待っているのがさも当たり前かのように話すギルドマスター。
そこからさらに十分ほど待った。
これから宿取らないといけないから早く帰りたいんだよね。態度も悪いし、これ以上待たされるのは嫌なので時間を明示してもらうおう。
「ギルドマスター、もう少しとは具体的に後どれくらいですか?」
僕は苛立ちを表に出さないようにして尋ねた。
「つべこべ言わずに待っていろ。」
ギルドマスターはまた顔を上げもせずに答える。
出た!!これは横暴系ギルマス。テンプレじゃないか!!楽しくなってきた!!
「嫌です。時間は有限なので話が始まらないのであれば帰ります。」
まずはジャブで煽っていく。
「なんだと?」
自分に刃向かう人間がいるはずが無いという色を浮かべて、ギルドマスターは僕を睨む。
そんな風に睨まれても『大陸喰らい』の方が怖いですよ?
「僕にも予定があるんですよ。僕に話があると言うからわざわざ出向いたのに、自分の都合を進めて話が一向に始まらない。それどころか席も進めず、数十分立たせっぱなし。話をする気があるですか?」
「儂に刃向かうと?」
出た。俺に歯向かっていいのか宣言。組織の長として脅しはいけないよね。目には目を歯には歯を。
「そんなこと言ってませんよね?僕は当たり前のことを言ってるだけです。ギルドマスターともあろう人が、そんなことも分からないんですか?」
「お前は死にたいのか?」
どんどん眉間にしわを寄せ、青筋を立てて僕を睨みつけるギルドマスター。
おっと随分直接的な感じになってきたじゃない?
「そんな訳ないじゃないですか?道理を知らないギルドマスターに道理を説いたら脅しですか?いやですね~、それでも組織の長なんですか?自覚あります?」
「きっさま~!!」
今度は堪えきれなくなったのか、勢いよく机を立ち上がり、拳を握ってワナワナと震えている。
「今度は体も使った威嚇ですか?ギルドマスターってあなたみたいな人でもなれるんですね。人を立たせっぱなしにした挙句、待たせたなら、待たせて済まなかった、とくらい言えないんですか?」
「もう許さん!!ぶっ殺してやる!!」
「言質、頂きました。」
煽り続けたらあえなく、飛びかかってきた、らしい。らしいというというのは、僕には見えなかったからだ。気づいたらハクとピリカがギルドマスターをおさえつけていた。だからその隙に僕はギルドマスターの性格を"真面目で優しくて腰が低い"と書き換えて掃除。
行き掛けの駄賃に能力値ランク最低にして、ポイントも貰っておいた。
ギルドマスターこんなに短気で腹芸が出来なくていいのかな。まぁ僕が気にするようなことでもないか。
「大変申し訳ございませんでした!!」
ギルドマスターは、態度が急変したかのようにその場で土下座した。受付嬢ちゃんは事態について行けず「え?え?」と連呼し、キョロキョロしながら困惑の表情。
「それで、僕は帰ってもいいんですか?それと受付嬢さんは受付に戻っても?」
「はい、勿論です。この度、私は大変横暴なことをタクミ殿に頼もうとしておりました。浅はかな自分を恥じるばかりです。今後このようなことがないよう気をつけさせて頂きますので、どうかご容赦の程宜しくお願い致します。」
ギルドマスターは殿様にこうべを垂れるように仰々しく、頭を下げた。
いや~、ホント性格書き換えると効果は劇的だよね。
「まぁ、今回は、私が殺されそうになったことと時間を損したくらいなので、水に流しましょう。」
僕的には楽しんでいたし、ポイントも多少増えたのでむしろ感謝しかないんだけどね。
「慈悲深いご配慮、誠にありがとうございます。」
「じゃあ帰りますね。行きましょう、受付嬢さん。」
「は、はい。」
頭を下げたままのギルドマスターを尻目に、受付嬢さんを促して部屋を後にした。
受付に戻る途中ようやく落ち着いたのか、受付嬢さんは、「私あのギルドマスター横暴で嫌いだったんです。おかげスッキリしました。ありがとうございました。」と僕の耳元に口を近づけて囁いたあとニコリとほほ笑んだ。その仕草はとても艶やかだった。
可愛い。ピリカとハクが居なかったら惚れてた。
「いえいえ、どういたしまして。今後あのように横暴な態度はとらないんじゃないてすか。勘ですけどね。」
僕はニヤリと口を歪ませた。
「そうだと嬉しいですね。タクミさん、ギルドマスターに対する毅然な態度も、私を気遣って連れてきてくれたことも、よってもカッコ良かったですよ。私はナージャって言います。今後ともよろしくお願いしますね。」
ちょうど受付の職員入り口の前についた頃、彼女は表情に花を咲かせた後で深々と頭を下げると裏の職員スペースへと入っていった。
「ピリカ、ハク、ありがとう。正直僕には見えてなかったから助かったよ。」
「ごしゅじん……守るの当然……。」
「いえいえ、奴隷として当たり前の事をしたまでですよ。どうしてもというならギュッとして頭撫でてくださいね。」
「私も。」
二人の言葉にギルド内ということを忘れて、僕は二人を左右の腕ギュッと抱きしめてから、グリグリと撫でながら答えた。
「ニャアア……ニャア……。」
「えへへ~……。」
二人は恋人や夫にしか見せてはいけないような蕩けた顔を見せた。
おっと、こんな所で見せていい顔ではないね。
僕は二人の腕を掴んでさっさとギルドを出ようとするも、「おい、その女を売り給え。私にこそ相応しい。」とギルド最後の傲慢貴族系テンプレが舞い込んできたので、すかさず性格を真面目で優しく身分差別しない、というものに書き換えて掃除。
僕らはギルドを後にした。
なんだかテンプレスイーパーってタイトルでもいいかなとか思ってきました。




