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Page17.掃除屋(スイーパー)再び

 それから僕達は何度かお花摘み休憩を挟みつつ森の中を進んだ。途中モンスターが何匹かいたけど、僕が麻痺を付与してピリカかハクが遠距離攻撃でとどめを刺してサクッと終了した。悲しい最後だった。


 他にもテンプレ盗賊に遭遇したので僕は眠らせることなく接触してみた。


「ぐへへ、すんげぇ上玉だぜ!!」

「二人もいるなぁ!!」

「今日は当たりだぜぇ!!」


 などと騒いでいたので眠らせてやった。そいつらはウインドボードを追加して乗せて運んだ。それからも続々と盗賊が集まってきて結局眠らせた数は数百人規模となった。


 どんだけ盗賊横行してるの?貴族さんちゃんと警備してほしい。


 世界の色がオレンジで上書きされる頃、マップに街が見えるくらいに近づいて来たので、ウインドボードから降りて全員の性格を書き換えてから起こした。


 一人五十ポイントくらいかかるので、近場で魔物を狩らせてから能力値を下げて自分自身で賄わせてやったよ。半分は手数料としてらもらっとくね。ありがとう。


「お前ら何したか分かってるな?」

『うっす!!』

「お前達がやることは?」

『自首です兄貴!!』

「宜しい。付いてこい!!」

『サー、イエッサー!!』


 僕の言葉に全員一丸となって反応する。


 問題ないようだ。


 僕達はバックパックを背負って街へと歩き、もうすぐ日も沈むという頃に街の門の近くに辿り着いた。王都とは比べるまでもないけど、そこそこ大きな街だった。交易の要所、といった雰囲気だ。しかし、そこには沢山の兵士が並んでいた。張り詰めた空気を感じる。


 僕はふと思い至った。


 ああ、数百人で街に近づくって、それは脅威とみなされても仕方ないか……。どう見えるか考えもせず、全部連れてきてしまった。


「おーい、止まれ!!貴様ら何者だ!!」


 騎士甲冑着た、他より偉そうなおじさんがこちらに話しかけてくる。


「僕はセプタプルランク派遣員のタクミと言います。この街に来る途中、盗賊に襲われたので捕まえて連れて来ました。」


 僕が数歩前に出て挨拶をする。


「なんだと!?一人でその数を連れてきたというのか!?」

「いえ、正確には三人ですね。」


 あり得ない……、そんな色を顔に浮かべている。質問された僕はチラッと二人に視線を送り、冷静に事実を答えた。


「そんなことがあり得るのか?何をした?」

「特に何も。襲われたから返り討ちにした以外は。」


 盗賊に対してすることなんてそんなものだ。


「うーむ。分かった。とにかく見聞する。この人数は収容できんから、拘束して場所を確保できるまで街の外に置いておくことになるだろう。大人しくしているように。」

「分かりました。お前たちもちゃんと大人しくして、兵士さんの言うことを聞くんだぞ!!」

『うっす!!兄貴!!分かってます!!』


 おじさんの言葉に従って盗賊達に言い含めると、全員揃えて返事をした。


「いったいなんなんだこりゃ。」


 盗賊達の様子に、意味が分からん、といった感情を浮かべて、困ったように眉を寄せるおじさん。


「隊長!!宜しいでしょうか?」


 そこに一人の兵士が名乗りを上げた。


「タイソンか。なんだ、言ってみろ。」


 知ってるならさっさと言え、と言わんばかりの態度で、隊長さんはタイソンさんの話を促した。


「は!!王都での噂なのですが、見目麗しい猫人族とエルフ族の奴隷を連れた、タクミという派遣員にちょっかいを出した者たちは皆、改心して勤勉に働くようになったと聞き及んでおります。街の下層街や街近辺もかなり治安が良くなったとか。悪人を駆除し、悪人の心を浄化させる様から掃除屋(スイーパー)という二つ名で呼ばれています。」


 小気味良い返事の後、タイソンさんはツラツラと自分が聞いた内容を語った。


 うっわ、あれこっちにももう届いてるんだ。恥ずかしすぎる!!


「何!?出まかせではないのか?」

「いえ!!一人なら自分もそう思ったのですが、商人たちはこぞって噂しておりますし、知人も同じような事を話しておりましたので、おそらく間違い無いかと。」

「セプタプルランク程度でそんなことが出来るのか?」

「彼らはたった三人で毎日オークを狩って納品してるそうです。それにセクスタプルになるには試験もあるので、ランクのみで判断するのは難しいかと。」


 胡乱げ視線をなげかけながら隊長さんは質問を繰り返し、タイソンさんは淡々と答えていた。


 ランクだけで判断するような頭の悪い奴が多い中、タイソンさんはしっかりと情報を聞き、実際に見た上で判断するタイプらしい。


「そうか。分かった。ひとまず盗賊は拘束して連れて行け。」


 隊長さんは顎に手を当て暫し考えた後、兵士に指示を出した。


「お前達は私と一緒に詰所に来てもらうぞ。おっと忘れてたな、私はヘイムと言う。この守備隊の隊長をしている。宜しくな。」

「分かりました。僕はタクミです。宜しくお願いします。この子達はピリカとハクと言います。」


 ヘイムさんは僕達の方に向き直って手を差し出したので、僕も手を差し出してその手を握った。


 僕達はヘイムさんの案内に従って詰所の一室に案内された。殺風景な部屋で椅子と机くらいしかない。いきなり牢屋に連れて行かれたりはしなかった。僕も大概被害妄想が激しい。テンプレ妄想というかもしれないけど。


 僕は椅子を勧められたので座ると、ハクとピリカは僕の後ろについた。


「この度は大手柄だったな。それにしても肝を冷やしたぞ。数百人の軍勢が攻めてきたと聞かされた時は。」


 ヘイムさんが口を開く。


 いやぁ、あれは本当に申し訳なかった。


「いえいえ、こちらこそごめんなさい。なんだか面白いように次から次へと寄ってきて……。逃げようとした人も含めて全員無傷で制圧したらあんな感じになったんですよ。」

「それにしてもお前達は強いのだな。あの人数だとクインティプルの複数パーティかクアドラプルの戦力がいるだろう。……いや、無傷となるとクアドラプルのパーティくらいいるかもしれんな。」


 僕が焦ったように言い訳すると、ヘイムさんは腕を組んで感心するように僕達を見つめた。


 確かにあの人数を無傷で捕らえて、かつ逃走者を出さず、自分達の足であそこまでたどり着かせるのは、普通の人だとかなり手間だろうな。


「いえ、僕は全然強くないですよ。強いのはこの子達です。」

「ほぅ~。それだけ見目も良くて強いとは……。そんな奴隷はさぞかし高かっただろう。」


 僕の言葉にヘイムさんは二人を品定めするように視線を動かす。


 ちょっとやめてよ、二人は僕の家族なんだぞ!!プンプン!!


「そうですね。少し前にギャンブルで一山当てましてね、それで買ったんですよ。」


 気持ちを表に出さないようにして、僕は真実と嘘が入り混じった回答をした。


「それは羨ましい限りだ。」

「僕には勿体ない良い子たちですよ。」


 ヘイムさんが肩をすくめると、僕はニッコリと笑って答えた。


 本当に勿体ないよ。


「さて、話はそんな所だ。ひとまず身分確認として、派遣員証を見せてくれ。」

「分かりました。」


 一通り話を終えると、ヘイムさんがフゥーと息を吐いて一呼吸置いて僕の身分証を求めた。僕は特に後ろ暗いところはないので派遣員証をすぐに手渡す。


「ふむ、問題ないだろう。それで盗賊達だが、収容場所もないし、見張っておくのも、生かしておくのもタダじゃないからな。現行犯だし、凶悪なやつ以外は全員鉱山奴隷行きだな。」

「それはまぁ……しょうがないですね。今までやってきた事が事ですから。」

「そうだな。それからあいつらを連れてきた君たちには報奨金が出る。名のない奴は二束三文だが、中には懸賞首もいるようだった。今日集計しておくから明日の朝ここに取りにくるといい。」


 派遣員証を返してくれた後、ヘイムさんは盗賊の処遇や報奨金の説明をしてくれた。


 盗賊を捕まえるとお金が貰える。やはりテンプレだなあ。金額によってはたまに盗賊狩りをするのも悪くないかもしれないね。あ、もう一つのテンプレ忘れてた。盗賊の寝ぐらには財宝が溜め込まれている。盗賊は俺の財布。だったかな。今更戻るのも追手や監視が気になるし、次やることになったらアジトまで行こう。


「分かりました。それとお聞きしたいのですが、派遣員ギルドと奴隷商館、そしてこの子達と安心して眠れる宿があれば教えて欲しいのですが、いいですか?」

「おう、分かった。地図を書いてやろう。」


 ヘイムさんは一度部屋を出て羊皮紙らしき紙を持って戻ってくる。サラサラと地図を書くと、俺に手渡した。


「ではな。」

「はい、また明日きます。」


 僕達は挨拶して詰め所から退出し、街の中へ足を踏み入れた。

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