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Page13.水浴びと失敗と覚悟

 町に帰ろうと思ったけど、二人は血塗れで、僕もニ日風呂に入ってない。だから風呂の文化はどうなっているか確認しよう。


「ピリカ、体の汚れってどうしてた?」

「魔法は禁止されてましたので、基本的には桶に水入れて使わなくなった古着で拭いてましたね。他旅をしていた時は川が近い村とかなら川で水浴びしたりしますね。」

「なるほど。桶の何倍にも大きくしたようなものにお湯を溜めて入ったりは?」

「お風呂ですね。入るのは王侯貴族ですね~。湯槽を作ったり、水を運んできたり、お湯を沸かしたり、魔力の少ない一般人には難しいですからね。」


 ふむふむ。やはりここもテンプレ。


「そっか。それじゃあ、川が近くにあるみたいだから水浴びして帰るか。」

「ありがとうございます。血が気持ち悪いので嬉しいです。」

「私も……水浴びしたい……。」


 水浴びの提案に二人とも乗り気だ。


 体がベタベタして流したいだけで、別にのぞくつもりなんかないんだからね!ね!


 僕達はマップに従い川岸に出た。


 マップの倍率を縮小して周りを確認する。周囲1kmに人がいる様子はない。モンスターはいたけど、状態を眠りに書き換えて大人しくしてもらった。


「周囲に怪しい気配はないから大丈夫。ぼ……。」


 そこまで言った後で二人は、僕のたった数メートル手前で、躊躇なく貫頭衣を脱ぎ去った。


「な!?」


 僕は驚愕の声を上げた。


 見えてはいけないものが丸見えだった。覗き見というか唯の"見"だった。腕をクロスして下からまくって脱いでたんだけど、貫頭衣の下から表れた二人の体に驚いた。


 ハクより小さく、ピリカの均整の取れた華奢な体躯に、あまりに不釣り合いに大きな二つのマシュマロが、ブルンブルン揺れる様は圧巻だった。どことは言わないけどツルツルだった。


 それと、殆ど動けなかった体だった割に、ハクの体は凄く引き締まっていて、広背筋からくびれまでが見事な曲線を描き、全体のバランスを崩さない程よい大きさで、形のいい二つの母性がプルンと揺れていた。白い草原が多すぎず、少なすぎバランスよく生えている。


 見てはいけないなんて思考する前に、二人に視線が釘付けになって離れなかった。


「ちょちょちょ、ちょっと何してるの二人とも!?」


 数秒たって我に帰った僕は、顔を背けて慌てて声を掛けた。


 二人の肢体は目に焼き付いて離れないから今更だけど。本当に二人とも凄い体してた。


 二人に恥じらいという文字はないのかなぁ。


「えっと、水浴びするために服を脱いだんですが……。」

「水浴びは……服を着ない……。」

「それはそうなんだけど、そういうことじゃなくて……。」


 水浴びだから服を脱ぐのはわかってるよ。なんで僕の前で脱いでるのかって聞いてるの。


「もしかして、私の体は見苦しいでしょうか?」

「見たくない……?」


 二人の不安げな声色が耳に届いた。


「いやいやそんなことないよ?見たいか見たくないかでいえば間違いなく見たいし。でも普通、男の前で女の子が裸になるのは恥ずかしいでしょ?」


 僕は顔を背けたまま伝える。


「確かに恥ずかしいですが、ご主人様になら見られても恥ずかしくないです。」

「私も……ごしゅじんなら……いい……。」


 そこは恥ずかしがってほしいし、隠してほしい。


「僕は恥ずかしいから、そこの岩の後ろにいるね。」


 僕は二人に背を向け、その場から離れようとするも、


「水浴び……一緒……しない?」

「ご一緒に水浴びして貰えないのでしょうか?」


 二人とも耳が垂れさせ、悲しげな声が僕の心を貫く。


 ずるいよ!!そんなのずるいよ!!

 ワザとやってるでしょっいうくらいずるいよ!!


 そんな風に言われちゃったら、断れないじゃない!!


「はぁ……分かったよ。一緒に水浴びしよう。」

「嬉しいです。」

「良かった……。」


 僕が折れると、二人から安堵の呟きが漏れた。


 僕も観念して服を脱ぎ始める。しかし、突き刺さる四つの眼。


「えーっと、そんなに見つめられると脱ぎづらいんだけど。」

「あははは。……つい。」

「ごめんなさい……」


 僕がジト目で二人を見つめると、二人はお互い別の方向に顔を逸らした。


「ちょっとそっち向いてて。」


 僕は後ろを向いてるように指示して、服を脱いで脇に置いた。


 川岸で全裸の美少女二人と、全裸のフツメン一人。日本なら完全にヤバい図だった。いや、この世界でもヤバかった。もう今更なので気にしないことにした。


「もう大丈夫だよ。入ろうか。」

「分かりました。」

「分かった……。」


 僕の声を合図に二人はこちらを振りむき、僕は二人の方に歩いていく。二人の目は完全に一つの獲物に食らいついていた。


「これがご主人様の……凄く大きい……。」

「とても……逞しい……。」


 デリケートな部分の感想を述べるのは辞めましょう。男の尊厳みたいな部分があるからひどいことを言われると傷つくよ。


「あまり見ないでよ。恥ずかしいんだから。」


 僕は顔を顰め、慌てて手で隠すようにして進む。


「あ!隠すような所ではありませんのに……とても……ご立派です。」

「見えなくなった……。」


 名残惜しそうにつぶやく二人。

 こっちは二人の体を意識しないように頑張ってるというのにこの二人は!!


「ほら、いいから入るよ。」


 僕は二人を促して進んだ。僕が二人を待って左右を挟まれた状態で川へと歩いていく。僕は恥ずかしくなって俯くと、そこには自分の愚かさを呪いたくなる現実があった。


 僕は思わず立ち止まって歯をギリリと噛んだ。


 僕はなぜこんなにも当たり前の事を見落としていたんだろう。すぐにでも対応すべき事だった。少なくとも気付いて誰かに相談すべきだった。


 視線の先にあったのは、本来シミひとつないはずのその美しい陶磁の肌ではなく、赤いいくつものスジの入った痛々しいそれだった。


 浅い傷が足のあちこちに刻まれ、所によってはジュクジュクと血が出た後で固まった場所さえあった。


「ごめん。」


 僕は呟き、頭を下げた。


「「え?」」


 二人の声が重なり、地面音からこちらを振り向いたのが察せられた。


「本当にごめん。」

「どうしたんですか、ご主人様?」

「ごしゅじん……どしたの?」


 二人の声色には困惑の色が多分に含まれていた。


 おそらく本人達にとっては当たり前のことなのかもしれない。それでも僕にとって当たり前じゃなくて、気づけなかった自分が許せなかった。


「二人の足がこんなになるまで気づかなかった。」


 僕は二人の足元に跪いて、ピリカの足を取った。


「だ、大丈夫ですよ、ご主人様。こんなのすぐ治りますから。」

「そ……そう……こんなの……普通。」


 僕の狼狽えぶりに珍しく二人は慌てているようだ。


「確かにそうなのかもしれないね。でも治っても、傷ついた事実は変わらないよ。それに跡が残るかもしれない。」


 僕は首を振って言った。


「そうかもしれませんけど……。」


 ピリカは声色に悲しみに乗せる。


「別に……気にしない……。ごしゅじんには……いっぱい……いっぱい……恩がある……。だから……ごしゅじんも……気にしないで……ほしい……。むしろ……こんなに……奴隷を……気にかけてくれる……人はいない……。ごしゅじんは……凄く優しい……。」


 あまり長く話さないハクが、しゃがんで目線を合わせて気持ちを伝えてくれた。ぎこちない笑顔を浮かべ、その大きな瞳には涙をいっぱいに溜めている。彼女はそっと左側から僕を抱きしめた。


 とても暖かい。


「私もです……。もう処分される所だった私達の命を救うどころか、ずっと悩んできた事をあっという間に解決してくれました……。今気づいたらご主人様と自然に触れあっていました。私はご主人様に買われて救われました……。だからこんな傷、なんてことないんです……。実際ご主人様に言われるまで気付きませんでしたから……。」


 ピリカも地面にしゃがんで言葉を紡ぐ。泣き笑いのような表情して両頬を雫が流れ落ちる。彼女もそっと右側から僕を抱きしめる。


 二人の想いが暖かい。


「でも僕は二人を痛い目に合わせた自分が許せないよ……。」


 傷物してしまった。僕は自責の念でいっぱいだった。小さなことかもしれないけど、悔しい気持ちがとめどなく溢れてくる。


「だったら……こう考えて……欲しい。命も……呪縛からも……救ってくれて……奴隷に……こんなに……気にかけて……くれる……優しい……ごしゅじんが……私は……大好き……。大好きな人には……大切な人には……笑っていて……欲しい……。ごしゅじんにとって……私達は……大切じゃない?」


 一際強く抱きしめて答えてくれたハクの言葉に、僕はハッとした。


 そうだ、僕はこんな悲しい思いをさせるために謝った訳じゃない。二人の体に傷をつけてしまったことが申し訳なくて謝っただけだ。二人は許してくれているのに、自分が納得できないからって固執して。それで二人を悲しませてたら本末転倒じゃないか。


 僕はなにしてるんだ、とんだ大バカ野郎だ!!


 二人はもう僕にとって大切だ。まだ出会って三日だけど、元の世界に戻れない僕にとっては掛け替えのない絆だ。大切な人には笑っていて欲しい。ハクの言う通りだ。それなら今僕がすべきことは、過去を悔やむ事じゃない。


 一緒に水浴びを楽しんで、街に帰ったら二人の装備や必要な物を買って、宿を取って美味しい夕食を食べて、みんなで楽しく雑談して、疲れたら仲よくベッドで横になって、同じ失敗を繰り返さないように考えながら眠ってまた次の日を迎える。そしてもっと稼げるようになって、みんなで面白おかしい旅に出る。


 僕がすべきことはそういうことだ。


「私もご主人様をお慕いしてます。三人で仲よく楽しく末永く暮らしたいです。一緒にジパンゴーまで旅もしたいです。一緒に色んなもの見たり、聞いたり、体験したりして、もっともっとご主人様との楽しい思い出を作りたいです。だからそんな悲しいこと言わないでください。そんな悲しい顔しないでください。私達が支えになります。どうか笑っていてください。」


 ピリカの言葉がダメ押しとなって、僕の心を洗い流す。そして僕は覚悟を決めた。


「二人ともごめん。本当にごめん。僕は二人にこんな顔させるつもりじゃなかった。これから同じ失敗繰り返さないように気をつける。二人の言葉は本当に心に響いたよ。本当になにやってんだろうね。二人に悲しい思いまでさせて。だから僕はこれから二人を幸せにすると決めた。悲しい過去なんて忘れてしまうくらい幸せに。だから僕にずっと付いてきて欲しい。その責任は僕が取ろう。」


 僕は二人の背に手を回し、ギュッと抱きしめた。


「えへへ、喜んで。」

「ニャアア……ニャア!!……勿論……。」


 僕達は暫くの間ただただ抱きしめあった。

――クゥゥウ



 どこからか可愛らしい音がする。


 お互い離れると、ハクが顔を赤らめて俯いた。


「お腹すいた……。」


 その瞬間、僕とピリカはお互いの顔を見るなりプッと吹き出した。


「あはははははは!!僕達は真っ裸でなにやってんだろうね。」

「あはははははは!!本当にそうですね。」


 涙が出るくらい大笑いして、二人の笑いが空間を支配する。ひとしきり笑った後、僕らは動き出した。


「ハクごめんね。もう少し待ってね。水浴びしたら、帰って報酬もらってご飯にしよう。」

「分かった……。水浴びも……久しぶりで……楽しみだから……我慢する……。」


 僕達は立ち上がって川へと足を踏み入れた。


 季節がどのようになっているか分からないけど、今は日本で言うところの初夏くらいの気温だ。水は川だけあって凄く冷たいけど、ベタベタだった体には気持ちが良い。


「冷た!?」


 気持ち良さに浸っていると、横から水飛沫が飛んできて僕の体に命中した。水飛沫の元にいたのはピリカだった。


 前屈みの態勢はやめなされ。それは僕に効く。ユッサユッサ、ユッサユッサしてるんだもの。


 僕が、ユッサユッサしている、男を虜にする二台の兵器に気を取られてる間にも、水飛沫は飛んでくる。


 どうやらピリカだけじゃないらしい。


「ふふふふ、いいだろう。その勝負、のってやらぁ!!」


 僕は二人に目一杯水をかけてやる。


「冷たい!!負けませんよぉ!!」

「ニャア……ニャア……楽しい……。」


 ピリカは眩しい笑顔で、ハクも少し広角を上げてみんなで水を掛け合う。水飛沫が夕日に照らされてキラキラと輝いて、それと同じくらいピリカとハクが輝いて見えた。生まれたままの姿で笑う二人はまるで地上に降り立った天女のようだった。


 ブルンプルンとプルンプルンには終始目が釘付けだったのは内緒にしておこうと思う。




 水浴びを楽しんだ後、僕らはある問題に直面した。


「タオルがない。」

「ありませんね。」

「ない……。」


 僕たちは髪をしっとりと濡らし、体からも水がポタリポタリと滴り落ちる。鎖骨や所々に溜まる水滴が艶かしい。僕は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「どうしました?」


 僕の視線に気づいたピリカが尋ねる。


「いや、なんでもないよ。それにしてもどうしよっか。このままじゃ風邪引いちゃうね。」


 僕は首を振ってから、直面している問題について相談する。


「どうしましょう。」

「どうする……。」


 お互いに顔を見合わせる。


 うーん、何かいい方法はないだろうか。


 そういえばピリカは戦いでシルフを呼んでいた。ウンディーネも力を貸してくれるらしい。それならイフリートやノームがいてもおかしくない。もしくは炎や風の魔法でそういう魔法があってもいいよね。


「ピリカ。」

「なんですか?」

「精霊や魔法で乾かすのは難しいの?」

「あっ……。」


 僕がふと疑問に思って聞くと、ピリカは完全に忘れてた、という顔をした。


「わ、忘れてた訳じゃないですよ。ホントですよ?ただ20年使ってなかったので、ちゃんと使えるか分からなかっただけです。」


 両手をパタパタと振りながら、視線を逸らす彼女。

「あはははははは!!」

「あはははははは!!」

「ふふふふ……。」


 暫しの静寂の後、僕らはまた三人で笑いあった。


 精霊魔法で体表面と髪の毛の水分を蒸発させ、僕のスキルでキレイに書き換えたそれぞれの服に袖を通す。これでようやく二人の刺激的な姿を見なくて済む。


 二人の体は反則だからね。


 僕はホッと胸をを撫で下ろした。


「この靴は僕以外合わないし、合わない靴を履くと逆に怪我しちゃうから。このまま僕が履いてくね。二人には痛い思いをさせるけど、帰って靴を買うまで我慢してほしい。」

「分かりました。」

「ん……分かった。」


 靴は僕がそのまま履くことを伝えると、そんなこと気にするまでもないというように二人は了承の返事をした。


 僕は二人に我慢を強いてしまった現実を噛み締めながら、少しでも我慢をしなくても済むように街への帰路を急いだ。

ラッキースケベ的なものを書こうとしてたのにどうしてこうなった。

皆勝手に動きましてねぇ。しかも皆裸なんだぜ。裸でシリアスとかもうね……。


1日目 奴隷と客として会う。

2日目 処分されそうになった二人を購入。訳あり解消。

3日目 プロポーズ←??????????????

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