Page11.ニ人の実力
僕たちは昨日と同じ薬草採集を受け、スキルの試行錯誤をした広場へとやってきた。
「ニ人はどの程度戦えるの?」
僕はふと思った。二人の説明欄ばかり見ていて、能力値は見てないなと。だから今日は二人の戦闘力を見てみたい。
「どうでしょう。一人で旅してましたのでよく分かりません。パーティのお誘いは全てお断りしてましたし、派遣員ランクもあげてませんでしたし。」
「私は……育ててくれた……じいから……教わった武術と……じいしかしらない……。じいよりは弱い。」
うーむ。二人とも関わる人が少なく比較対象がなくて分からないということか。モンスターはどうだろう。
「それじゃあ、倒したモンスターの中で一番強かったのは?」
「私は山から降りてきたレッドドラゴンロードですね。どの個体も強靭で、ウンディーネに力を借りましたが、殺すのに結構かかりました。」
「私は……霊峰クナランテの……頂に住む……魔狼王シュラクム……。三日三晩……戦って……やと勝った。」
言ってる意味が分からない。ドラゴンて少なく見積もっても強い部類じゃないかな?しかも上位個体っぽいやつをそれを一人で?ありえない?ありえぇーるでしょ?
それにハクは魔狼王?名前からしてすごく強そうだけど。三日三晩戦ってようやく勝てたモンスターとかヤバそう。それに三日三晩戦い続けられたこと自体もおかしいね。
話を聞く限り、なんだか二人は強そう。訳ありだったのにとんでもない掘り出し物だったってことかな。うーん。しょうがない。ちょっと怖いけど、ゴブリンとかオークとかコボルトとか倒してみてもらおうかな。
「うーん。名前聞いても分からないから実際にモンスターと戦って貰っても良い?僕がいるところまで連れてくから。」
「問題ないです。」
「大丈夫。」
二人ともなんの気負いもない、まさにベテランみたいな返事だった。僕はマップを縮小してモンスターがいる場所を探す。
お、近くにゴブリンの集団がいるらしい。
僕はゴブリン達がいる方へと歩を進めた。
「見えたよ。」
僕が声をかけると、二人とも分かっていたらしい。ピリカは精霊が教えてくれて、ハクは獣人特有の感覚の鋭さで探知できる。数は二十匹程度。特に個体差が大きいものはいない。
「どちらが行く?」
「私が行きます。」
「それでいい……」
僕は二人に視線を向けると、ピリカから挑むことになった。
「シルフ、お願い!!ウインドカッター!!」
ピリカの小鳥が囀るような可愛らしい声が森に木霊する。
――ビュンッ!!
風を切るような音が耳を通り過ぎた。
視界がズレたのかと錯覚する世界。目の前の木々とゴブリン全ての体の一筋の直線が引かれた。上下が斜めにツツーとズレ落ちる。ズシャッとゴブリンだったものが地面に落ちた時、僕の前にあった木々も同じようにズズンと地面を揺らした。ゴブリンの集団までの視界が完全にひらけた。
あ~、うん、一撃か~。参考にならないね。しかも僕からゴブリンのいた五十メートル先くらいまで、直線的に一緒くたに切断されてしまった。
「ご主人様どうですか?」
僕の前に褒めて欲しそうな顔をしてやってくるピリカ。
「とっても凄いよ。ただ凄すぎてよく分からない。」
「えへへ、ありがとうございます。」
つい頭を撫でてしまうと、嬉しそうに耳をピコピコと揺らした。僕に撫でられているのにも気づかない程嬉しいみたいだ。心をえぐられる可愛らしさだ。
「む……次は……私の番。」
対抗意識をもったのかハクもやる気だ。ハクの耳もピコピコしている。
うーむ。多分ゴブリン如きじゃ相手にならないと思う。でもここは平等にゴブリンに行こうか。
僕はマップでゴブリンがいる場所を探し、見つけた場所に三人で向かった。結果、消し飛んだ……。ゴブリンは殴られるたびに弾けて消えた。
なんていうのかな。僕はとんでもない二人を解き放ってしまったんじゃなかろうか。むしろあの体質は、この力を封印するためにあったのかもしれない。
こめかみから冷たい汗が流れた。
「ごしゅじん……どう?……」
無表情なのに、目だけは期待で目一杯に輝いている。凄くキューンとします。
「うん、最高だね!!ただ次からはゴブリンの死体が残ると嬉しいかな。」
「……手はここ。」
開き直って褒めると、僕の手を彼女の両手で包んで、頭の上に連れて行った。
ああうん。撫でられるのが羨ましかったのね。いくらでも撫でてあげるよ、モフモフだし。
「ニァアア……ニャ~……。」
撫でられるのが好きなのか、温泉に入った時に自然に出てしまうように蕩け鳴いた。耳をピコピコさせ、無表情の彼女が珍しく目だけ細めている。
うぉ~、普段、というほど一緒にいないけど、無表情の子が表情を少し動かすだけで、心がキューンってする。癒される~。
「うーん。雑魚では相手にならないことが分かった。」
ハクの柔らかな白髪とモフモフケモミミを堪能した後、僕が呟く。
「そうですね~、二十年くらい戦ってなかったので、錆落としが必要そうです。」
「ん……私も……体が上手く……動かない。十パーセントくらいしか……体使えてない……。」
どうやらさっきのあれは、全く本調子じゃない程度の実力だったみたい。僕自身は凡人未満の能力しかないから遠出も出来ないしな~。
「とりあえず、一時間くらい歩いたところにオークがいるから行ってみようか。」
「分かりました。」
「分かった……。」
僕らはオークに向かって歩きだした。
それにピリカの年齢って何歳なんだろう。二十年は戦ってないとか凄く気になる。でも女性に年齢を聞くと怒られるのはテンプレ。しかし、ここはあえて踏み込んでみようか。
「そういえば、ピリカって一体何歳なの?」
「二百十歳ですね~。人間に換算すると、十七~十八歳くらいでしょうか。」
あれ?なんかアッサリと答えてくれたけど?
「ピリカって年齢気にしないんだね。」
「ええ。エルフは長命で、老化もかなり緩やかですから、あまり気にしない人の方が多いですよ。ごく稀に気にする人もいますけど。」
長命で衰えが来るのが遅いと、そこまで気にしないものなんだな。
「人間や小人族の女性には言っちゃダメですよ?気にする人が多いですから。」とピリカは口元で人差し指を立てて、ウインクして付け加えた。
「へぇ~。何年くらい生きるのかな。」
「千年~千三百年くらいですかね。ご主人様はエルフのことは知らないんですか?」
「ほぇ~、やっぱり長生きなんだな~。うん、人間しかいない所から来たから。」
「そうなんですね。ご主人様はジパンゴーから来られたんですか?黒髪黒目の人間も珍しいですが。」
出た東の遠くからきたアピールテンプレ。自分でやることになろうとは。それにやっぱあるんだ、日本もどきの国。もどきなんて言ったら失礼か。お米があるなら食べたいな。
「そうだよ。」
「そうなんですね!!私も行ったことないので行ってみたいです!!」
ピリカが食いついた。エルフってのは未知への探究心が強いのかな?それともピリカが特別なのか。
「そっか。僕もたまには帰るのもいいかな。この国は早めに出たいからね。」
「わぁ~!!ホントですか!?楽しみです。」
僕がジパンゴーに行くことを暗に示すと、飛び跳ねるようにして全身で喜びを示していた。上下する二つの球体は、理性を総動員して無視した。
「むぅ……。」
反対側を見ると、ハクが手ブラみたいなことをしながら唸っていた。
見られていた……。気にしなくていいんだよ、大きさに貴賤無し、ハクの大きさも素晴らしいんだから。
「ハクは、獣人がどのくらい生きるか知ってる?」
「分からない……じいは百五十歳で死んだ……ごめんなさい。」
「いやいや、気にしないで。僕の方こそごめんね。」
背景に花が見えるくらいにテンションが上がって、鼻歌歌うピリカを尻目にハクに話しかけた。
獣人も人間より長命なのかね。後で図鑑読んでみるのもいいかな。図鑑もいいけど二人と話すのも楽しいからね。
「ハクは行ってみたいところとかある?」
「海……見てみたい……山で育ったから……。」
ほほうハクさんは海を見てみたいと、たしかに山にずっといると海なんて見る機会なんてないからね。
移動手段もないだろうし。
「魚……食べたい。」
普段より強い口調でハクは呟く。
あっそっちね。魚本当に好きなんだな~。早く魚食べさせてあげたいな。
二人と話していると、オークのいる場所についた。ゴブリンと結果は変わらなかった。ハクはさっきと違って仙気ー魔力とは違う、世界に溢れる生命力ーに質量を持たせて固めた弾を指で弾いて、オークたちの眉間を正確に貫いていた。
ちなみに見た二人の能力判定は、
ピリカ 身体能力 SS 魔法能力 SSS
(身体能力 B 魔法能力 S)
ハク 身体能力 SSS 魔法能力 SS
(身体能力 S 魔法能力 B)
となっていた。
これなら安全に旅を出来そうだと、ふと目を細めて太陽を見上げた。
アークダイ王国では、基本一般人が一生に一回能力判定を受けます。奴隷は勿論受けません。図鑑の判定と水晶玉による鑑定は評価基準が違います。
アークダイ王国の判定はポテンシャル。図鑑は現在の数値です。過去と現在に大きな隔たりがあった場合は、全盛期と現在の値を表示します。
()内が現在の能力値ランクです。現在二人は今まで置かれていた状況から、能力値が激減してます。




