Page1.一般人未満の勇者
主人公の能力値判定をFに変更しました。
「ようこそ召還に応じてくださいました。勇者様方」
桃色のウェーブのかかったロングヘア―を持ち、おっとりとした紫水晶のような瞳の少女が告げる。白の神官服に似たものを身につけ、若い男が見たら一瞬で恋に落ちそうな美少女だった。
「は?」
「なになに?」
「ここどこよ?」
「おかあさんどこ?」
「見たことない場所だ。」
僕の他にも十五人~二十人程同じ場所にいて、見たことのない景色に戸惑いを隠せない様子でざわついている。中には小学生や中学生のような子供までいた。
一体どうなってるんだろう?
さっきまで駅前で信号待ちをしていたはずだよね。
でも周りを見ると、信号待ちしていた人間達だけがここにいるような気がする。
それに祭壇のような場所にいるあの女の子が言った言葉。
それを信じるならあの子がここに僕たちを召還したということなのかな。
「皆さま、混乱しておいでかと思いますが、お話を聞いていただけますでしょうか。私があなたたちをこの世界に召還いたしました。アークダイ国の第二王女リリアーナ=アークダイと申します。突然見知らぬ土地にお呼びしてしまい、大変申し訳ございません。しかし、もはや私どもは勇者召還に頼る以外に道はなく、ご迷惑を承知で儀式を行いました。只今この国は魔族どもの脅威に脅かされております。どうか私共をお救いくださいませんでしょうか。」
リリアーナは沈痛な面持ちで僕たちに問いかける。
「ふざけんな!元の世界へ返しやがれ!」
「自分勝手なこと言わないでよ!」
「うわーん。おかあさんに会いたいよー」
「いやーーー!!帰して!帰してよ!」
召還されたほとんどの人間が泣きわめきだした。
そりゃ当たり前だよね。
誘拐同然で攫ってきたようなきたようなものだし。
協力なんて言われてもすぐは難しいと思う。
「本当に心苦しいのですが、現状あなたたちを元の世界に返す方法はございません。私共にご協力いただけるのでしたら、生涯衣食住を保障いたしますし、帰還方法も国を挙げて研究させていただきます。何卒お力をお貸しください。」
大粒の涙を流しながら、リリアーナは僕たちに懇願する。
その様子に召還されたものたちが少しずつ同情の気持ちを芽生えさせているようだった。男が女の涙に弱いのはどこの世界でも一緒か。
「俺は力を貸してやるぜ!!」
そう言ったのは短髪で髪を茶色に染めた高校生くらいの男。
いかにも不良というわけではなく、少しヤンチャしてみたって感じだ。
顔は整っており、比較的モテそうな雰囲気を持っている。
「私もやろう!!」
次に声をあげたのは、黒髪をポニーテルにまとめ、吊り目でキリッとした美人の女の子。
姿勢がピンッと伸びており、何か武道の心得がありそうだ。
こちらも女子高生くらいの年齢だと思う。
二人を皮切りに何人かの大人たちも賛同する。
高校生にばかりまかせておけないと思ったのだろう。
「ああ……。ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
リリアーナはその言葉に何度も頭を下げていた。
一国の王女とは思えない腰の低さである。
それから、名乗りをあげた人間を中心にして僕たちを説得して回った。
彼らの説得により、皆が落ち着きを取り戻していく。
思う所があったけど、まだ時期じゃないと思って、そのまま静観することにした。
「どうやらお話が付いたようですね。皆様のご協力誠に感謝いたします。それでは皆様お一人ずつこちらの水晶に手をかざしていただけますでしょうか。」
リリアーナはそう言って祭壇にある水晶を手を向ける。
僕たちは一列に並び、水晶に手をかざす。
「まぁ!!これは凄い!!ケンジ様は、聖騎士のスキルに、身体能力 SS 魔法能力 Aと出ています。伝説の勇者様クラスの評価ですよ。能力のランクは下から順にF、E、D、C、B、A、S、SSとなっています。ケンジ様は身体能力は最高、魔法能力も高水準となっております。一般人はEかD程度ですね。」
リリアーナは感嘆の声をあげる。
手をかざしていたのは最初の短髪の男の子。里中健二君。
水晶はどうやらその人物の能力をおおまかに評価してくれる装置みたいだ。
彼は、さも当然とでも言いたげにドヤ顔を晒していた。
ああ~、これは所謂テンプレ展開ですね、分かります。
この物語は彼が主人公ってわけかな。
巻き込まれたこっちの身にもなってほしいな~。
「まぁ!!ナギサ様も素晴らしいですわね!神弓士のスキルに 身体能力 S 魔法能力 S。こちらも伝説級です。これなら我が国も助かるかもしれません。」
キリッとした美人の黒髪ポニーテールの女の子、霧崎渚ちゃんも驚異の評価らしい。彼女は自分の力があればこの国を救える、とでも思っていそうな表情をしていた。
この子も主人公、いやヒロインってとこなのかな。
はぁ、やってらんないなぁ。
それからも軒並みB~Aの高評価が続いた。子どもや老人でさえも。
そしてついに僕の番がやってきた。
「ああ、これは…。図鑑、身体能力 F 魔法能力 F」
「え?」
「あ、いえなんでもございません。ありがとうございました。」
リリアーナは、まるでゴミでも見るかのような目で一瞬僕を見た。
その視線は僕に警戒を抱かせるには十分だった。
最後だった僕の鑑定を終えると、また祭壇に女王、階段を挟んで僕たちという並びになった。
「皆さま、ありがとうございました。あなたたちにご協力いただければ、私共の国も救われます。それでは皆様、こちらの腕輪をつけていただけますでしょうか。これは、あなた方の身分を証明するものであり、様々な国の保護を受ける際に必要となります。」
リリアーナは皆を見渡して、腕輪を持ち上げてぐるりと体をまわり全員が見えるようにする。
あ、この腕輪はやばい。テンプレのやつだ。
僕は直感的に思った。
だから
「あの~、すみません。保護を受けず、自分で生活するのも可能なんでしょうか?」
と恐る恐るリリアーナに確認した。
「あ、あなたは……はい、可能です。その場合、支度金以外の援助は一切ございませんが。」
「なるほど。それなら僕は自分で生活したいと思います。」
役立たずの末路は大体決まっている。ここにいると僕の未来はないと思う。
「お前何言ってんだよ。協力しないつもりか?」
「私は一緒に居た方がいいと思うが。」
伝説級の評価を受けた二人が驚いたように僕を見る。
いやいや、僕が居ても足手まといでしょ。
「いやいや、僕って役に立たなそうだしさ。保護してもらうばかりなのも悪いから自分で生活しようかなって。」
頭をかきながら、苦笑を浮かべて答える。
「確かに。お前の評価じゃ何もできなさそうだよな。」
「私に君の決断を止める権利などないが……。」
ケンジは、僕の評価のことを考えてどうでもいいと思ったようで、好きにしたらいい、という表情だ。それに対し、ナギサは少々思い悩む表情を浮かべながら僕の選択を尊重する態度を取っている。
「分かりました。あなたには支度金を渡して、城から出ていただきます。以後城に入ることは難しいと思いますのでご容赦ください。」
「わかりました。それでいいです。」
リリアーナも僕が出ていく方が都合がいいような表情で淡々と話し、僕はニコリと笑って頷いた。
パンパンッとリリアーナが手を叩くと、兵士が二人やってきて、僕だけ広間から連れて行かれた。牢獄に連れて行かれる可能性も考えていたけど、何事もなく城門まで案内され、支度金として金貨一枚を渡され、放逐された。