死にいたる病
教授はふう、と息を吐いて、教卓の前に置かれた椅子に座った。
「あっ、先生ごめんなさい。先に、お座りくださいって言わなきゃいけないのよね」
「君はよく気が回るね。何学部なの?」
「人間学部です。幅広い知識を学ぶ」
「ふむ……。で、楽しいかい?」
「そうですね。学問が楽しいとかそういうんじゃなくて、毎日楽しいです」
「なんで楽しいか、考えたことあるかい?」
今日はわたしが教授に色々質問してみようと思ってたのに、逆にたたみかけるように次々と質問されてしまう。
「さあ? そういう根源的? なことは考えたことないです。考えるのがなんとなく怖いっていうか」
「怖い。なるほどね。昔も今も、若者には『生きる』ということに漠然とした不安や恐怖の感情があるのかもしれないね」
教授は真剣に言う。
「今、我々が生きている世界。社会と言い換えてもいいが、君はどう思う?」
「平和で秩序が保たれてて、いいと思います」
「人間の、特にこの国の平均寿命が30歳でも?」
「それは仕方ないのではないですか? 世界史で学びました。100年くらい前まで、アフリカ大陸にはそういう地域も多かったと。わたしたちの国も1000年前はそうだったというし。先祖返りですかね」
「君はまだ若いし、子どものころから一方的に与えられたものだけ信じているわけだ。まずは疑うことから始めてみたらどうかな? 今日は君に課題を与えよう。この本を読み、感想文を書いておいで」
教授はそう言って、紙袋から書籍を出すと渡してくれた。わたしはおそるおそる手に取って叫ぶ。
「紙の本!」
「私が作ったものだよ。君にあげよう」
わたしは手に取ってまじまじと本の表紙を見て、そして裏返して匂いまで嗅いでみた。特に変わった匂いはしない。
本のタイトルは『死に至る病』とあった。