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初代勇者

ちょっと頑張ってます。

短いですけど。

 薄暗い部屋。

 フル回転で稼働する空気清浄機があげる稼働音は、いつまでも吐き出されるタバコの煙を浄化するために悲鳴をあげている。仮想モニターの光にタバコの煙がユラユラと揺れており、煙がまるで霧のようにして漂い続けていた。ゆったりとした背もたれ、黒の革張り椅子に深く腰掛けるのは松葉葵。いつまで待たせるのかとイライラを募らせながら、彼女は仮想モニターが映し出す映像を見つめていた。


***


 破龍学園倭国所属。その長である高嶺薫と行き着いた答え。その答え合わせを行おうとしたが学園からのアクセス権では表面的なものしか得られなかった。どんなに人類に貢献しようと、どんな権威を持っていたとしても、外部アクセスからの閲覧は禁止されているようだった。葵ならばいとも簡単にセキュリティーをくぐり抜け、極秘資料の閲覧は可能である。だが、どうしてもその痕跡が残ってしまう。後々厄介な取り調べが待ち受けていることを考えると、それは避けるべきだと断念する。

 葵は学園で受け持った授業のカリュキュラムはすべてキャンセル。いてもたってもいられず、学園長室から飛び出していた。


 人類が龍族から取り戻した大地のその中央にある、《王国連合レイノ・ウニド本部施設》。その周辺には人類の存亡をかけ、必要な責任を全うする施設が多数存在している。

 龍族と対抗すべく、否その存在自体を根底から否定すべく、人類の知性、技術、魔法を集め、それらを統合し、管理している。その中の一つにはもちろん勇者に関わる施設も存在はしていた。


 そう、存在はしていた。


 『17年前の勇者一族襲撃事件』の際、同時多発的にその施設は襲撃され、勇者に関わるその全てを失ってしまったのだった。人類の英雄たるその記録をすべて失ってしまったことは、人類史上の大きな痛手となったのはいうまでもない。彼ら勇者が残した歴戦の記録は、破龍士の扱う魔法の発展に大き寄与している。破龍の道、龍を打ち滅ぼすその魔法の源流、すべての元であるものを失ったことは、その道の秘伝の書を失ったことと同意である。


 しかし偶然にも、勇者に関する情報が載った資料が発見された。見つけたのは葵に仕事を押し付けられたカトリーナだった。その資料は戦闘魔法資料室に片隅に置かれていた。見つけられた資料は分類分けされ、その一部は《レイノ・ウニド》周辺施設が一つ、《魔法研究省》(通称:魔研)の特別機密資料室に厳重に保管されている。


 そこに保管された資料の記載情報は歴代の勇者が龍族との戦闘で使用した魔法、そして異能。それらすべてが記録されていたのだ。事細かく記載されている内容は、すべての破龍士が到達するのは不可能と言われるようなものばかりだ。すぐさま魔法研究省の研究員と高ランク破龍士によってその魔法の研究がすぐさま行われるが、どうしても劣化版のような魔法しかできなかった。その研究に葵とカトリーナが参加したのはいうまでもない。


 特に異能に関する記述は眼を見張るものばかりだった。


 到底勇者以外の破龍士には得ることができない異能の数々。もちろん破龍士の中にも特異な能力を発現させるものもいる。だがそれらは魔法に傾倒するものが多い。

 勇者一族が持つ異能は、魔法を使わずとも龍族を屠る力を体現していた。圧倒的身体能力、魔力の操作。魔力の保有量。物理を操り、空間を転移するものさえいた。

 だが、誠のように驚異的な再生能力を持ち合わせているものは歴代勇者の中にはおらず、一つだけでなく複数の異能をもつ者は例を見ない。やはり、一ノ瀬誠は勇者を超えた勇者なのではないか? そう思考を巡らせるのは長年彼の研究に携わってきた松葉葵。


 葵はこの地へきていた。だが、その資料を閲覧するには葵と言えども許可の申請が必要である。どの国に行っても顔パスが効く葵だが、ここは人類の存亡をかけた中枢。厳重なセキュリティーに足取りを止められ、イライラを募らせていた。そのイライラの原因からの連絡はいつまでたってもやってこない。お役所仕事というのは人を待てせるのがどうやら得意なようだ。


 そもそもなぜ、国家中枢の運営に『ディオサ教』が関わっているのか不思議でならない。特に勇者に関する事柄に関してはなぜだか、ディオサ教が関わるのだ。

 初代勇者に神のごとき力を、加護を与えたとされる『女神ディオサ』。その実態は見たものは初代勇者と、そのディオサ教は初代勇者の登場とともに勃興した宗教である。人々が絶望を彷徨う中、初代勇者と女神ディオサに祈りと讃歌で讃え、人々の心を絶望から救い出していく。人々の心に根強い恩恵をもたらしたディオサ教の影響力は認めるとしても、なぜそこまで国家の中枢に絡んでいるのかが不可思議であり、結果として葵の苛立ちを助長するのであった。


 そんなイライラを紛らわすかのようにして、仮想モニターに映し出される、誠とテラスの模擬戦の映像記録を見続ける。机の上にある灰皿はもうすでに火の消えた吸い殻で溢れかえり、机の上に溢れてしまっている。葵はまるで何かに取り憑かれたように同じ場所をリピート再生させる。

 

 もう何度見たかわからない。だが、それを見るたびに仮説は、確信へと変化していった。


「ここだ」


 ちょうど、誠がテラスの召喚魔法を打ち破ったところだ。映像記録をスロー再生で誠の動きを追う。スロー再生であったとしても、彼の肉体が生み出すスピードに、映像を記録する機器もやっと追いついている。多少の映像のブレに不満を抱く。だがそれでも葵のように戦闘が素人の者が見てもわかる見事な立ち回り。見事にテラスの召喚魔法であるイフリートの背後を取った瞬間だ。イフリートは目の前から消えた誠を探すように左右に首を振っていたが、すでに誠の持つ模擬刀はイフリートの急所を眼中に捉え、刃をその急所を穿たんとしていた。

 

 誠が見せた誠自身が持つポテンシャルが最大限に引き出された瞬間をしっかりと捉えていた。


 誠が召喚されたイフリートを一撃で屠るシーンをなんども繰り返し見ていた。様々な角度から撮影されたものの中で、ちょうど真横から取られた映像を細かく再生、一時停止を繰り返す。そして誠の表情が見えるシーンで誠の顔を拡大した。


「ははっ、笑ってやがる。……しかし」


 カトリーナの報告によれば、驚異的な身体能力の向上を確認している。戦闘中の誠に何らかの変化があるのかもしれないと確認をしたかったのだが、写しだされた映像を拡大し鮮明に映し出された画像からは何の変化も見当たらない。カトリーナからの報告書からも身体の変化に特異的なものは見つからない。変化があるとすれば、再生により、筋肉量が全体的数パーセント改善、増量されたぐらいだった。カトリーナは誠の身体管理の責任を任されている。一番信頼の置けるものからの報告だ、疑う余地はない。

 葵は映像からはやはり何もわからないと、軽く舌打ちをする。 


 再び巻き戻し、再生ボタンを押す。大きなため息をこぼし、もうこれで最後にしようとぼんやりと映像を眺めていた。ただ単純に誠の動きを見つめていた。


一撃必殺。そこに弱点があるとわかっているかのように持つ刀を突き立てる姿とある勇者の記録の記述が重なる。


がたりーーと勢いよく椅子から立ち上がり、咥えていたタバコが滑り落ちる。


「…………やっぱり!」


 扉を勢いよく開き、白衣にポケットから携帯端末を取り出すが、画面が反応しない。


「ちっ、魔力切れかよ!」

 

 乱暴にポケットに携帯端末を突っ込む。


 足取りは慌てるようで、ヒールの踵で廊下を叩く音がやけにうるさく響く。颯爽と歩く彼女の姿には憧憬の眼差しが向けられる。人類史でもっとも龍族撃退に貢献している研究者だからだ。魔法の研究はもちろんのこと、彼女の生み出す奇抜なアイディアによって様々な逆境を乗り越えてきたのだ。少しでも彼女と接点を持とうと歩み寄るものはいるが、近づくものはその表情に驚き、否恐怖を感じていた。彼女の今の目はカミソリそのもの。それにいつ消えるともわからない目の下のクマが彼女が抱く感情にさらなる恐怖の色を濃くしている。


 対龍族研究の第一人者の登場に、電話を片手に研究員は驚きの表情を浮かべる。だが彼女の粗暴な振る舞いにあっけらかんとした表情へと変化し電話を取り上げ、電話をかけ直す。


「よお、葵だ。誰の電話かだって? そんなの気にスンナ。大事な話がある」


向かうは古典資料室


そこの一番奥にある、資料を取り出す。


少しだけ手が震えているのがわかるが、かまわず手に取った資料を参照する。


歴代の勇者の戦闘記録だ。

どのような戦い方をしたか、どういった魔法を使うかを書かれているもの


「ちょっと待てよ、興奮してかけてしまったからな、まだ確証が得られてないんだが……


そして、記憶を頼りに該当するページを開き目を凝らして

情報を一つも逃すまいと目を配る。


そして葵は一つの結論へと至る


「ははっ、まさかそんなことって、ありえるのかよ? ええ? ああ、一ノ瀬は『初代勇者』だよ」

ありがとうございます!

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