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ジェットウェイブ

短めです。

 倭国は海に囲まれた国。海に潜む龍族の格好の餌食であった。海上での戦闘は日常茶飯事である。倭国の破龍学園では必ず履修しなければならない実技科目がある。それが『ジェットウェイブ』である。


 倭国主導でテオフィール国と共同開発した対龍族戦術魔導兵器である。その兵器を破龍学園倭国所属では必修とされており、学園生たちはこの兵器のプロフェッショナるとならなければならない。


 「本日はジェットウェイブの実習だ! 皆心してかかるように」


 担当教官が意気揚々と声を上げると、生徒たちは少し興奮気味に返事をした。

魔導兵器とはいえ、そのクールな外観とある種の『スポーツ性』が一般に普及している。安全が確保されているビーチではすでに一般の娯楽として浸透しており、世界大会も催されている。倭国発祥のスポーツとして各国に知れ渡っている。倭国の少年少女たちは一人に一台持っているほどの普及率だ。

 破龍学園その敷地の一角に巨大な専用アリーナがある。そこに設置された演習用プールは競泳用プールのそれとは比較にならない広大さを誇る。


『キタキタキタ~! 俺の実力が試され時だぜ~!!』

『私のトリック見て腰抜かすんじゃないわよ!』

『言っとくけど俺、大会で優勝したことあるからな!』

『お前それ、地域大会じゃねえか!』


 生徒は各々自分の持つジェットウェイブの話で盛り上がる。ある女子生徒が留学生のテラスに尋ねた。


『テラスさんってジェットウェイブやったことあるの?』

「もちろんです! 私もマイボード持っていますよ!」


 テラスはクラスメイトとマイボードの自慢話に盛り上がる中、ふときになる男子へと目を向けた。その視線の先は一ノ瀬誠である。その視線に気づいたクラスメイトも心配げに言った。


 『そういえば誠先輩、格闘の技術はすごいけど、魔法が使えないからジェットウェイブの起動もできないんじゃ……』


 彼女の言うことに否応無しに納得してしまう。しかし勇者の紋様を見たテラスはそんなことはないと、胸の内で否定する。


「実はかなりのジェットウェイブの実力者だったりすると思うんです」

『え~でもジェットウェイブは魔力が使えないと操作できないんだよ』

『そうそう。魔力はたくさんあったとしても使えないんじゃ……』

「一ノ瀬誠は無理です」



 テラスを中心にして談義で盛り上がる中、イーダがきっぱりと否定した。皆がイーダの言葉に苦笑する。どよめきの中、担当教官が手を叩いた。生徒たちは音のする方へと目を向ける。そして担当教官が言った。 


『実習で使うジェットウェイブは実際に戦闘で使用されているものと同じものだ。すぐに海上にお前たちは配備されるだろう。学園にいるときにすでに慣れておくことが重要だ。おい一ノ瀬、持ってこい』


 美しい流線型の先端ノーズには鋭く尖った刃が三又に組み付けられ、デッキには両足を固定するための専用の固定具が取り付けられている。後方には大きな筒が口を開けており、推進力を伝えるための排出口がある。排出口はテール部分の真後ろを向いたもの、左右斜め後方に向いたものがある。

 裏側ボトムにはフィンが取り付いており、重心を移動するだけで方向転換を可能とする。先端ノーズのボトムには真下に向いた排出口があり、この排出口から出る推進力と後方の排出口で様々なトリックを可能とする。

 このサーフボードに似たドラグ・マキナは魔導機関の動力により海上戦闘をより有利にすることを可能とした。


 ジェットウェイブを持った誠がざっくりと説明をした。戦闘用のジェットウェイブを間近で見る驚きもあったが、誠が魔力を使えないのことを知っている生徒たちは、困惑した表情を浮かべる。魔力を流すことで起動するジェットウェイブを持ち、説明する誠に違和感を抱いたからだった。


 皆が困惑する中、担当教官が言った。

 

『今日はみんなには軍で配備されているジェットウェイブに乗ってもらう。一般のものとは違って、戦闘用に特化したものだ。おい、誠! 実際に操作して見てくれ』


 ジェットウェイブ実習用プールにジェットウェイブを浮かべる。プカプカと漂うその様子はあてもなく彷徨うただのボードにしか見えない。メガネ型デバイスを誠が装着すると、そのレンズにはジェットウェイブの状態を示すデータが表示される。

 

『System All Green』


 ジェットウェイブは使用者を認識したのか、誠の立つプールサイドの際まで颯爽と横並びとなった。ボードからは勢いよく空気の抜ける音がなり、何かが打ち出された。誠はそれを掴むとジェットウェイブへと飛び乗った。


『まじかよ』

『誠先輩すごい……』

『本当は魔力使えるんじゃないの?』

『さっきジェットウェイブから打ち出されたのはなんだろう?』


 生徒たちの口からは、まるで予想していたものとは全く違う光景が繰り広げられていた。飛び乗った瞬間に、魔力が使えない誠はジェットウェイブから転げ落ちるだろうと思っていたが、水面を文字通り滑るようにして乗りこなしていたのだった。


『よし、スタート位置についたな。シュミレーションシステム起動! 模擬戦闘ケース1スタート』


 担当教官の掛け声とともにプールに水流が生まれる。誠を取り囲む突如景色が暗くなる。どよめきがわき起こるが、ギャラリーから見る景色には光が飛び込む、誠を囲む景色は大海原に佇むように見える。たとえそれがかりそめだったとしても、リアルな海をジェットウェイブで浮かんでいるように見えた。風も吹き、波も沸き立ち、誠の髪が勢いよくたなびき、誰しもがそこは本物の海の上にいるような感覚に襲われる。これからどのような光景が広がるのか、皆が固唾を飲んで誠を見守っていた。



『Ready Set …… Go!!』


 スピーカーからアナウンスが流れる。誠が手に持っているジェットウェイブコントローラーで操作を始めると、勢いよく海を正確にはプールの上だが、そこに展開された立体ビジョン映像には本当の海を颯爽と駆け抜けているようにしか見えない。


『うわ~カッケェえぇ!!』

『誠先輩どうして万年留年してるの?』

『万年は言い過ぎだろ? でもあのジェットウェイブの動き、プロウェイバーよりはるかにすごいぞ!!』

『誠先輩~! なんかトリックやってくださ~い!』


 皆の心配はいつの間にか消え、誠のボードさばきに魅了されている。男女とも誠の姿に惚れ惚れするような視線を送っている。誠はリクエストに応えるかのように、波を利用し、ジェッチウェイブの海水排出口から水を吐き出させ、海から空へと駆け上がる。その高さはプロウェイバーをはるかに凌駕していた。空を舞うように、誠はボードを持って一回転して見せた。


『きゃ~~~~~!!』

『おお~~~~~!!』


 ギャラリーをいつの間にか引き込ませ、魅了されていたが、テラスも誠に姿に目をそらせず、釘付けとなっていた。


「かっこいい……」


 思わず溢れた言葉に、隣のイーダが驚きあきれた様子でテラスを見た。


「テラス様」

「えっ……あ、今のは、そのなんていうか、誠先輩すごいなっていう意味であって、他意はないというか、なんというか」


 イーダはため息をこぼす。視線をプールの上の誠へと移す。


「確かに、あれはかなりの実力ですね。認めざるを得ません。ですが、自身の魔力を動力源とし、操作するジェットウェイブを簡単な魔力操作もできない一ノ瀬がなんでできるののでしょうか?」


 ギャラリーが盛り上がるなか、警告音が鳴り響く。誠は辺りを警戒する。ジェットウェイブからポシュッと音を立て打ち上げられた楕円筒形のものを右手で掴み取ると、下へと振り下ろす。筒から勢いよく飛び出してきたのは直刀。それを構え、誠を水面の波をかき分けていた。


『見ろ! あそこ!!』

 

 水面に浮かぶ黒い影。だんだんと誠へと忍び寄る。だんだんとその数を増し、大きなひとまとまりの影となる。ジェットウェイブと同じスピード、それ以上の速さで誠へ向かう。ついにその牙をむき出しにし、誠へと食ってかかる。誠はボードを巧みに操り、その牙を避けて手に持つ刃ですれ違いざまにその影に切りかかかる。


『亜龍属魚龍種ペスカード!! 群れで行動する魚龍種の中でも一番弱い部類です! でも弱い分大量の群れで行動します! 雑魚でも大きな群れに遭遇すれば厄介な相手です! 鱗が少ない分、素早さに特化しているから、ちんたらしていたらやられてしまいます!』

『確かに、あの数はおっかねえ!』

『誠先輩頑張れー!!』


 誠へと襲い掛かるその数は相当な数だ、切っては左右前後からおびただしい数のペスカードが襲いかかっている。それでも誠はジェットウェイブを巧みに操りその攻撃をかわし刀を振るう。


***

**


 その勇姿に生徒たちは歓声を送る。だがそれを冷ややかに見る視線もあった。演習用プール上方にある管理室。そこには高嶺薫が誠の動きを見てはため息をついていた。ニヤニヤしなが見下ろす松葉葵はその隣でタバコを吸っていた。


「本当にもったいないわ。あれだけのボードさばきならすぐに前線にでても問題ないのだけれど……」

「まあ、仕方ねえよ。噂の勇者様は保有する防大な魔力を扱うことができないからな、魔装も纏えなければ、ペスカードの軟弱な牙にすらやられちまう」

「確かにそうね」

「それに今、魚龍の中でも最高に厄介なティブロンが頻繁に目撃されているしな、なおさらあいつは海に行っちゃいけねえよ」

「……」


 薫の沈黙に何を悟ったのか葵は薫へと驚きの視線を投げかける。


「おいおいおいおい! まさか今度やる演習ってまさか!!」

「ええ、そのまさかよ。一ノ瀬誠には龍属に直接触れ合ってもらう必要性があるわ」

「待てよ、龍属に接触することで、あいつの力の断片は確認できた。だけどまだ確証が得られていねんだよ! だからカトリーナに……」

「わかっているわ!」


 葵の言葉を遮るように薫が声を張り上げた。葵は普段クールな薫が見せない様子に戸惑った。


「……わかっているわ。だけれども、彼がその力を開花しなければ、私たちに『本当の自由』はないの」

「……ああ、間違いないな、確かに薫の言う通りだ」

「大丈夫よ、念のため軍のバックアップもとってあるから問題ないわ」

「さすが、『雷姫』。元軍人のコネは頼りなりますなあ」

「一ノ瀬は倭国にとっての国家プロジェクトよ。私のコネがなくとも陛下が一声かければすぐに動くわよ」

「何言ってんの。それを陛下がしないのは薫の過去の戦歴があるからだよ。軍からの信頼も厚い。それに陛下が命じられたとしても、極秘プロジェクトの内容を知らないものが進んでバックアップに回るとは思わないね」

「あら、褒めてくれてるの?」

「へへ、たまにはな。こうやって学園内でタバコを吸えるのは薫様様だからな」


 ニカっと愛嬌のある笑顔を向ける。その笑顔を見て薫は呆れ顔。再びその視線を演習用プールへと向けた。


***

**


 演習を終えた、誠の周りには人だかりができていた。ジェットウェイブを巧みに操り、魚龍の攻撃をかわしその姿に見とれるものは少なくない。そして担当教官の指示のもと生徒各々がジェットウェイブに乗り、演習を行っていった。しかし演習内容をクリアできたものはいなかった。テラスでさえもその演習をギリギリでクリアできた。


 皆あまりの難易度に息をあげて座り込むものもいた。担当教官が手を叩き、皆の注目を集めた。


『やって見てわかったと思うが、ジェットウェイブを操りながらの戦闘がいかに難しいものか、わかってもらえたと思う。操作のために常に魔力を別系統で消費する。魚龍の種類によっては魔法を使った戦闘も考慮される。自分の武器に魔力を流す必要性だってある。さらには自分の身を守るための魔装の操作。魔力操作を3系統操作できるできないかが海上戦闘に配備されるかどうかの分岐点だ』


 皆の表情がこわばる。今まではレジャーとしてのジェットウェイブを楽しんできたが、戦闘となると一気に飛躍するレベル。倭国の破龍士のレベルが他国よりも圧倒的に高い理由がうなづける。そして誰もが不思議に思う。これだけの難易度をそつなくこなす誠がなぜ留年を繰り返しているのか全く見当もつかなかった。

ありがとうございました!!!

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