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-7-

投稿遅くなりすみません!

体調を崩したため、次回も少し遅れるかもしれません。

気を長くしてお待ちいただけると幸いです。

-7-


探索パーティが帰還したのは、リルクがちひまんからのチャットを受け取ってから三十分ほど過ぎた頃だった。

二パーティ12名、誰一人欠けることなく帰還したことに、団員達は安堵の表情を浮かべている。

現在の時刻は少し昼を過ぎたところ。

時計などが無いので正確な時間は分からないが、大体12時半といったところだろう。

リルクはino達に今後の予定を手短に話して、報告は出発後村へ向かう道中で聞くということになった。



今回の探索について、探索の目的は街道の調査である。

その目的はinoからのチャットによって達成されているのは周知の事実だろう。

よって、inoから受けた報告はそれとは別のことだった。

今回遭遇した対モンスター戦についての報告。

この世界におけるモンスターについての情報は非常に少ない。

異界接続のあの日以降、モンスターは街の周辺では確認されていないのだ。

モンスターが消滅したのではないかと言われていたが、やはり違うようだった。

ino達が遭遇したのはボス級モンスター【モンティール】である。

USOでは中盤以降のクエストにて出現するモンスターだ。

比較的一般的なモンスターである為、その姿や攻撃パターンなどはプレイヤー間で広く知られている。

しかし、inoからの報告では攻撃パターンはUSOのものとは異なり、さらにヘイト値を無視した攻撃をする、ということだった。

基本的にヘイト値が実装されているゲームでは、モンスターの攻撃優先度は各プレイヤーのヘイト値による。

タンクがタンク足り得るのはそれが理由だ。ヘイト値を上昇させるスキルを上手く用いて、味方への攻撃を引き付け防御するのである。

ところがヘイト値が通用しないとなると話は大きく変わってくる。

防御力、HPの低い魔術師などの後衛に攻撃が集中してしまうこともあり得るのだ。

モンスターがヘイト値に応じて攻撃を仕掛ける。それはプレイヤーの安全を守るものとして、とても重要なものだったのだ。


「ですが、それは撤退しようとした時のみの異常行動だったと思います」

頭を抱えるリルクに、inoがそう言った。

撤退を許さない、モンスターの行動。

それは今後生きていく中で戦闘が必要不可欠になることを示していた。

「ということは、撤退しようとしなければヘイト値は通用する可能性があるってことですか?」

「そうですね…タンク二人にしか攻撃がいってなかったことを考えると、そうだと思います」

リルクの疑問に対し的確に答えるino。

その答えに少し安心したリルクは、そうですか、と頷いた。


「それと…今回の戦闘でハリムさんが一度死亡しました」

「ーーーーーえ?」

突然の言葉に、リルクの表情が凍りつく。

「リルクさんの案のおかげで即座に蘇生できたのですが……。

僕がついていながら…本当にすみません」

「…その後ハリムさんは?」

「即死ダメージだったようで、痛みは無かったらしいです。

ただ、装備の耐久値が著しく低下しているので、街に着くまではあまり前線には出れないだろうと」

inoは相当の責任を感じているのだろう。その背中からは悔しさが滲み出ていた。

ギルド最高の回復術師とはいえ、即死ダメージだけはどうしようもないのだ。

リルクやinoは蘇生薬の効果を実際に見て知っている。

しかし、団員達はどうだろう?

ギルマスから聞いただけの不確かな情報を、自身で見たわけでもない効果を信じて戦っていた彼らは。

もちろん、死ぬなんて思っていなかっただろう。誰も自分が死ぬなんてこと、滅多に思いもしない。

それでも、目の前に見える自身のHPゲージが、一瞬で削れていくのは恐怖だったに違いない。

例えそれが一瞬のことだったとしても。

リルクはとてもやるせない気持ちでいっぱいになった。



3時間馬を走らせて、1時間の休憩。

それを2回繰り返して少し経った頃。

辺りはすっかり暗くなっていて、全員鞍くらにランタンを携行しながら進んでいく。

もちろん街灯なんかあるはずもなく、inoのUSや前線の団員の索敵だけが頼りだ。

リルクは隊の先頭で馬を駆る。

辺りが暗くなり始めてからすぐに、リルク単独でのさくてきを行なっているのだ。

本隊よりも少し先にて索敵を行い、少しでも危険を減らせるようにという対応である。

しかも、これまでに2体ほどモンスターを仕留めた。

どちらもリルクにとっては格下のモンスターであり、いくら暗闇に紛れても遅れをとるような相手では無かったのだ。

リルクは一度本隊に合流し、状況の報告を行うことにした。

本隊に合流すると、全員から心配の声をかけられる。

そこまで心配しなくても、と言うリルクだったが、どうやら本隊の方でもモンスターと遭遇したとのことだった。

「大丈夫でしたか?」

「ええ!遠距離から安全に仕留めました!」

自慢げに話すサーガを、彼を慕う団員達が褒め囃す。

サーガは実力派の遠距離要員である。

遠距離職には珍しい弓使いで、前衛と変わらない近距離戦闘も得意なのだ。

さらに、決闘(PVP)をさせたらギルド1の実力を誇る。

そんな姿に憧れて入団した団員もいるほどだ。

「さすがはサーガさんですね!」

「いえいえ、そんなことはないですよ!」

リルク達がそんなやりとりをしていると、最前線索敵、ラーシーの声が聞こえた。

疲労の溜まっている様子だった団員達も、歓喜の声を上げている。

「村、見えてきましたよー」

その声に前を向くと、暗闇の中で淡く光る橙色の明かりが見えた。

ようやく村に着いたようだ。

リルク達は安息を求めて、村の柵を越えた。



村には宿があった。小さいながらも暖かい雰囲気の宿である。

しかし30人が泊まるには部屋の数が圧倒的に少なかった。

どうしようもなく宿屋の主人に無理を言って、一部屋3人、10部屋借りることになったのだった。

とはいえ、元々は一人部屋なのでベッドは一つしかない。

仕方がないのでリルクが各部屋を回り、リルクのUS【創造】を使って寝袋を作成していく。

リルクのUS【創造】はあらゆるものを創造する、というスキルである。

ゲーム時代では、一度見たことのある武器や防具、一部消耗品などが作成することができた。

そして、異界接続以降にリルク独りで色々試したところ、強くイメージしたものを創造することができると発覚したのだ。

それが発覚してから、必要な物資などについてはリルクが創造することになっているのだった。


「リルクさんありがとうございます!」

「あ、赤色がいいです!」

「じゃあ黄色で!」

「…みたいな柄とかできます?」

そんな団員の無茶振りにも対応し、リルクはどんどん寝袋を量産していく。

リルクが自室に戻ってきたのは21時を少し過ぎた頃だった。

「リルクお帰り!」

タコスの声に片手を上げて、リルクはベッドの上に倒れこんだ。

とうちゃんが水差しから水を注いだグラスを手渡してくる。

お礼を言って受け取り、リルクはそれを一気に飲み干した。

「創造の連発はちょっときついかも…」

「リルク、俺たちの分まだだけどな」

「あ…!」

TKMの言葉にハッとして起き上がる。

自室を最後にしていたのを忘れていたようだ。

慌てて【創造】を使って寝袋を作り出す。

その様子を他の3人は笑いながら眺めていた。


リルク、タコス、TKM、とうちゃんはリアルでの友人である。

彼らは同じ学校のクラスメートで、よくゲームをする仲だった。

天恵の旅団設立当初からのメンバーであったが、他の団員達にはそのことは話していなかった。

「タコスもとうちゃんも探索大丈夫だったのか?」

TKMが心配そうに声をかけた。他の団員の目があるところでは気軽に話はできないのだ。

むしろ、それを隠すために話さないようにしているほどである。

「俺は待機組だったから全然。タコスは?戦闘したんでしょ?」

「うん、まぁね。ハリムさんがちょっと…」

彼らの問いかけに、タコスが言葉を濁した。

ハリムが死亡したことは、彼自身の他にinoとタコス、ちひまんにリルクの4人しか知らないことになっている。

そのうち公表しなければいけないのだが、今は混乱を広げないための処置である。

「タコスは大丈夫だった?」

話をそらすように、リルクが尋ねた。

実際話をそらしたわけではなく、あの後タコスと話す機会がなかったという理由からだが。

「結構、厳しかった。必死だったっていうのもあるんだけど、ボスの攻撃は重いし響く。

ゲーム感覚でやってたら、そのうち取り返しのつかないことになるかもしれない」

いつも元気なタコスが深刻な表情で答える。

その話にはとても説得力があり、とうちゃんもTKMも息を飲んだ。


タコスの言っていることは核心をついている。リルクの考えも同じだ。

まだゲーム感覚が抜けていない者も多い中、これが現実だということに気づいて行動できるか。

それがこの世界で生き抜くために大切なことになるはずだ。

リルクは3人を見て言う。

「絶対に、生き延びよう。これは団員全員に言えることだけど、絶対に死ぬな。

何よりも生きることを優先するんだ。

いつか平和な時が来るはずだから、それまで何としてでも生きていよう」

「「「おう!」」」

リルクの話に3人は力一杯頷いた。


明日は早朝からの出発である。

リルク達は明日に備えて早く寝ることにした。

部屋の明かりを消すと窓から月明かりが溢れて来る。

今日も満天の星空の中、大きな満月が輝いていた。

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