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バトル回ですが、読みづらいところがあったらすみません。
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タコスの振り上げた大剣がモンティールの拳とぶつかり火花を散らす。
軌道をそらされた攻撃が後ろの木々に当たり、それらは木っ端微塵に吹き飛んだ。
「inoさん、走って!」
タコスの合図でinoが飛び出す。
決して速いとは言えない速度で、しかし全力でinoは駆けた。
モンティールを間に挟んでタコスが建物側に、それ以外のパーティメンバーは森の入り口側に位置する。
タコス一人で敵対心を稼ぎ、やっと今inoが入り口側へ突破したのだ。
「撤退を最優先!タコスさんが突破し次第、撤退を開始!」
そう叫んで、inoはタコスに回復術を施す。
その声を受けて、全員が行動を開始した。
きっと街道のばつ印はこっちが本命だろう。
撤退するにしても、ヘイトを稼いだままでは追われる可能性が高い。
できれば倒したいのだが、慣れない戦闘にそれは無理だと感じさせられる。
「アヴァロンさん!この事をちひさんに伝えて、即時撤退するように伝言をお願いします!」
「り、了解です!」
すぐさま手綱を引いて、駆け出すアヴァロン。
その時、モンティールの動きが変わった。
アヴァロンの撤退を察知したモンティールが、目の前の敵を無視してアヴァロンに向かって跳んだのだ。
凄まじい衝撃波を巻き起こし、その巨体ではありえないほどの速さで、アヴァロンにせまる。
モンティールが振り上げた両腕を、その勢いのままアヴァロン目がけて叩きつけた。
後ろから巨大なものが迫ってくるのを感じ、アヴァロンが振り返る。
アヴァロンの視界を埋め尽くす、巨大な顔。
モンティールの姿がすぐ後ろまで迫っていた。
来るであろう衝撃にアヴァロンが目を閉じて、身体を固くする。
「アヴァロンさん、そのまま行ってください!」
団員の声が聞こえたその直後、鈍い金属音が響いた。
その音とともに、モンティールの動きが止まる。
タンクの団員が身の丈ほどある大盾で、モンティールの攻撃を受け止めたのだ。
「ナイスタンク!!」
パーティからの歓声を受けて、その団員がその巨体を盾で弾き返した。
さらに歓声があがるが、今の攻防でパーティの位置関係が完全に入れ替わってしまったのも事実。
現在の状況は圧倒的に不利になった。
アヴァロンが撤退してから十分。
モンティールの連打攻撃を受け続け、タンクの疲労が溜まってきた。
幾度かガードのタイミングを見計らって撤退を試みているのだが、未だ成功した試しはない。
inoが定期的に回復を施してはいるが、全員の精神的な疲労は溜まる一方だった。
「タンク一旦下がって!魔法職攻撃開始!」
「了解!ーーーーーハイストーム!」
inoの合図で放たれた巨大な竜巻がモンティールを包み込んだ。
モンティールはその攻撃から逃れようと腕を振り回すが、竜巻は消えることなくその巨体に纏わり付いていく。
モンティールも先の連打攻撃で疲労しているようで、簡単には振りほどけない。
今が最初で最後の好機だ。
inoは出せる限りの最大の大きさで叫んだ。
「全員、突破!!」
その言葉を待っていたかのように、団員達が飛び出した。
モンティールの脇を全力で駆け抜け、1nが放った魔法の効果が切れると同時に全員が突破を果たす。
しかし、モンティールは簡単に撤退を許してはくれなかった。
モンティールが少し腰を落として両手を地面につけた。先ほどのジャンプ時の挙動である。
いち早く気づいたタコスが叫んだ。
「馬に乗って!絶対に抜かれるな!」
その声を合図に一斉に馬に飛び乗る一同。手綱を掴むや否や、全力で駆け出す。
数十メートル離れたというところで、モンティールが跳んだ。
前回より速く低く、遠くに跳ぶことだけを目的としたジャンプ。
1nが魔法による迎撃を試みるが、それすら間に合わないほどの超速度でモンティールが迫る。
間に合わない、そう判断したタコスが跳んだ。
空中で大剣を引き抜き、その大剣の腹を盾にモンティールを受け止める。
衝撃も衝突音すらも起こらない、一時の静寂。
タコスとモンティールが、共に空中で静止した。
タンク最大の防御スキル【ディセイブ】。一撃のみ攻撃を完全に無効化するタンクの切り札だ。
リキャストタイムは600秒と、そうそう連発できるものではない。
しかもデメリットとして使用後一瞬の硬直を受けることとなる。使い所を見誤れば死に至る可能性もあるのだ。
だが、今はそれで十分。
タコスがモンティールを剣で弾き、双方共に地面へと落ちる。
だがその時、硬直によって体勢を崩したタコスの横を誰かが駆け抜けた。
「ばっ、撤退に徹しろ!突っ込むな!」
その声も虚しく、一人の団員がモンティールに向かって突っ込む。
体勢を崩したモンティールに、今が好機と踏んだのだろう。
あわよくば、追撃によってさらなる時間稼ぎを、と。
しかしそれはあまりにも愚かな、淡い期待にすぎなかった。
「ソニックラッシュ!」
スキル発動のライトエフェクトを伴って、瞬間的に加速する団員。
その加速をした瞬間、無造作に振られたモンティールの腕によって団員の身体が吹き飛んだ。
近くの瓦礫の山に突っ込み、その団員のHPバーが見る間もなく減少する。
間違いなく、即死だった。
やっと動けるようになった身体をどうにか動かし、タコスがその団員の元へ駆け寄る。
リルクの指示によって、全団員は腰に蘇生薬を一つ提げている。
直ぐに使用できるように、というのもあるが、即死ダメージを負った時に衝撃によって自動的に蘇生できるようにとのことだ。
実際、首を落とされたり胸を貫かれたとしても、身体はその場に残る。
しかし、魔法や吹き飛ばされた場合には身体が消し飛んだり、他の者の手が届かない場所に行ってしまう為、直ぐに蘇生できないのだ。
そうした事態を想定し、こうした対策がとられたのだった。
今回はそれが功を奏した感じである。
タコスが駆け寄った時、団員の蘇生はすでに完了していたのだ。
背後に団員を庇うようにして油断なく剣を構え、後ろの団員に声をかける。
「大丈夫ですか!?」
「すみません…。なんとか大丈夫です」
その言葉にタコスは安堵の息をもらした。
今の所、モンティールに動きは無い様子だった。
さっき団員を薙ぎ払った体勢から一寸も動いていないように見える。
「タコスさん、ハリムさん早く!」
inoの声に、二人の愛馬が二人を乗せに迎えに来る。
その背に跨り、タコス達はino達と合流した。
やはりモンティールは動きを見せない。
そのことが少し気掛かりだが、今は撤退することが目的だ。
敵が動き出さないのなら、そのチャンスを逃さないわけがない。
こうして、ino達第一パーティは遂に撤退を果たしたのだった。
ino達が去った後、モンティールは独り立ち上がる。
その身体は先ほどまでとは段違いに逞しく変化しており、自慢の両腕はさらに長く、太くなっていた。
先ほどの人間を倒したことをきっかけに、レベルアップが果たされたようだ。
そして運の悪いことに、規定レベルによる進化を遂げたのである。
USOにはモンスターにもレベリングシステムが導入されている。
人を倒すないし、モンスターを倒せばそれに応じた経験値を獲得し、進化できるというシステム。
故に、USOではモンスターの種別ごとの差が生じない。
ゴブリンだからスライムだからといって、弱い訳ではないのだ。
昔、プレイヤーの手によってボスモンスター級にまで進化を遂げたゴブリンもいた程だ。
モンティールは手に入れた新しい力を噛み締めた。
今までのように力任せに暴れずとも、効果的に人間を倒す方法が思い浮かぶ。
力だけでなく知恵も進化したようだった。
以前とは違い、世界が鮮明に見えるようになったその思考の中で、モンティールは決意する。
自分の縄張りを荒らした者を殺すために。
進化した快感と、さらなる力を求めてモンティールは歩き出した。
次回も1日空きでの更新予定です。