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また遅れてすみません!
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街の外は至って平和だった。
どこまでも続く平原と、雄大な自然。
その風景は、リルク達にUSOの世界を思い出させた。
ただ、その風景のあちこちには、この世界になかったものが乱雑に混ざり混んでいる。
空き缶に古びた軽自動車、さらには劣化した自動販売機らしきものまであった。
リルク達はそれらを調査しながら、ハバロスの街を目指していた。
目的としているハバロスまでは、馬で大体半日ほどの距離だ。
このまま何事もなければ昼過ぎ辺りに到着する予定である。
「inoさん、周りの様子はーー?」
「特に何もありませーーん!」
時速60キロほどで疾走している馬上ではお互いの声を拾いにくく、大きな声で話しても少し間延びしたように聞こえる。
そんなinoの返事を受け、リルクは了解です、と返事を返した。
リルクがinoに頼んでいるのは、周囲の索敵である。
inoのUS【探知】は、一定範囲内のすべての動きを把握する能力であり、常時発動型のパッシブスキルのため索敵には最適なスキルなのだ。
ゲームのようにマップは出てこないが、大体の方向と距離がわかるらしい。
弱点もあるらしいが、とりあえず今は大丈夫なようだった。
「それにしても、あれからユニスクの風景が続いてますね」
「そういえば…」
右翼で目視での索敵を担当している、もっちゃんの言葉にリルクは唸った。
先ほど、自動販売機を見てからかれこれ2時間ほど経過している。
おおよそ進んだ距離は120キロほどだ。
街から離れるほど、ゲーム世界の影響が強くなっているような気がした。
だがしかし、モンスターの類も目にしていない。
ダリウスも異界接続以降、街の近くにモンスターが現れたことは無いと言っていた。
もっちゃんは報告だけが目的だったようで、報告を終えると元の右翼へと戻っていった。
とりあえず、そのことを頭の片隅に置いておくとにして、リルクは進行方向に向き直り手綱を握り直した。
もっちゃんの報告から、1時間弱が経過した。
そろそろ馬を走らせてから3時間が経過しようとしている。
そろそろか、とリルクは考えた。
召喚獣である馬達には顕現時間が設けられている。移動に使う馬達は基本的に3時間の使用時間と、1時間のリキャストタイムが存在する。
一度、どこかしらで1時間ほど休息を取らなければならないのだ。
そんなことを考えていた矢先。
「あっ、セブンだ!」
突然、団員の一人が声を上げた。
目の前に見えてきたのは、皆に馴染みの深い大手コンビニエンスストア。
この世界にもコンビニがあると知ってか、団員達が歓声をあげる。
一目散に駆けようとする団員を押しとどめて、リルクは休息をとることを宣言した。
「皆さん、あそこで休息をとりましょう!」
「「はーい!」」
団員達の元気な返事を聞きながら、リルクはまた現実の風景が現れたことが気になっていた。
だが、そんなことより休息の準備に取り掛からねばいけない。
リルクは団を三部隊に分け、休息と警備のローテーションを組んだ。
その後、荷馬車組の12人を2パーティに分けコンビニの内部の探索に出す。
その間にダリウスへのメッセージを飛ばし、本隊は休息に入った。
しかしコンビニ探索の結果は予想よりも早く、そして予想を超えた内容を持って伝えられた。
要約すると、
・コンビニは既に荒らされた状態であること。
・何らかの生活の跡があること。
・ここからハバロスまでは2日はかかりそうな距離だということ。
だった。
驚愕の事実に、団員達が息を飲む。
プレイヤーが居たのにも驚きだが、それよりもハバロスまでの所要時間に驚く。
探索パーティの話を聞きながら、リルクは頭の中で仮説を立てていった。
まず1つ目だが、店内の様子から荒らしたのはモンスターだと思われる。
そしてそれらを倒したのは、2つ目の生活しているプレイヤーだろう。
最後に3つ目。
これについては、店内にあった地図らしきものやメモなどの内容から察するに、2日かかるという結論に至ったようだ。
その地図を見る限り、この先の街道は完全に閉鎖されているらしい。
リルクも見たが、街道に大きくばつ印がつけられていた。
原因はもちろん、このコンビニのように建物出現によるものだろう。
何にせよ、直接調査するしかないと思われた。
しかし、召喚までのリキャストタイムはまだ30分以上ある。
回復するまで待っても良かったのだが、全員で向かっても引き返さなければならない事態になるかもしれない。
そうなると何もかもが後手に回ってしまう。
今は時間が惜しいように感じられた。
「すみませんが、この先の探索をお願いします」
リルクはダリウスから渡されたモニターを各パーティに1つずつ渡し、再度の探索を命じた。
彼らは荷馬車に乗っていたため、召喚獣を今すぐ使える状態にあった。
探索パーティは防御と火力重視の構成だ。よっぽどのことがない限り、危険はないだろう。
安全重視、と念を押して、探索パーティを送り出す。
そして探索パーティからの報告があるまで、本隊はできるだけの対策を講じておくことになった。
*****
天恵の旅団が街を発った、その時と時を同じくして。
瞬影は自身の職業【盗賊】がもつ、持ち前のスピードを全力で使い、駆けていた。
USOでは所持しているのが当たり前だった召喚獣は、先の攻撃で再起不能のダメージを負ってしまったのだ。
瞬影は駆ける。仲間にこの事態を知らせるべく。
全力で、生き抜くために駆けるのだ。
もう少しで拠点にしていたコンビニが見える、というところで。
視界が一瞬、地を映した。
片足が宙をかき、つんのめるようにして前に倒れる。
咄嗟に起き上がろうと力を込めるが、何故か立ち上がれない。
何が起きたかわからなかったが、急いでこの場から離れなければならないことはわかっていた。
瞬影は追われているのだから。
何としてでも起き上がるべく、瞬影は目の前に落ちていたモノをつかんだ。杖代わりにして、起き上がるつもりなのだろう。
しかし、つかんだものは杖にするにはあまりにも短く、そして重く……温かかった。
「あっ……あぁ………!」
焦りと恐怖によって言葉がうまく発せない。
しかし、何が起きたのか把握することはできた。
瞬影がそれを理解したと同時に、断末魔の悲鳴が響き渡った。
悲鳴の主は瞬影、その人である。
そう。つかんだのは自身の脚。膝上からざっくりと抉られたように、もぎ取られていたのだ。
断末魔の悲鳴は続く。その痛みを掻き消すかのごとく。
しかし、その痛みは無くならない。
瞬影はその痛みにのたうちまわった。
痛みが痛みを通り越して、熱とかしてきた頃。
瞬影は回復薬を手に取ることに成功する。
震える手で瓶を開け、ゆっくりと口に運ぶ。
そしてその効果は瞬時に現れたようだった。痛みが完全に引いたのだ。
これで動ける…!
瞬影が這ってでも進もうとしたその時、瞬影はあることを悟った。
ーーーーー自身に手足がないことを。
瞬影の記憶はそこで途切れる。
仲間達の無事を確認することもできず、瞬影の身体は光と散った。
結果から言うと、瞬影の仲間たちは無事だった。
瞬影を倒した者は、仲間たちの存在を知らなかったのである。
そして仲間たちは、いつまで経っても戻ってこない瞬影の最後を察した。
そして仲間のリーダー的存在の一人が地図を広げ、瞬影が通ったと思われる街道に大きくばつ印をつけた。
残された道は、大きく迂回して森を避けるルートのみ。
彼らは、ハバロスを目指して歩き始める。
不幸なことに、彼らは始まりの街を知らなかったのだ。
こうして、彼らの旅が始まった。
仲間を一人失い、悲しみに暮れながら。
この先更に仲間を失うことになるのだが、彼らは知る由もなかった。
彼らと天恵の旅団が遭遇するのは、もう少し先の話。
次回から物語は急展開…!?