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前回は投稿遅れてすみません。
一応、2日に一話。できれば1日一話投稿をしたいと思います
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天恵の旅団ギルドホーム。
旅団というだけあって、壁には数々の地図が貼られている。机の上には書類が山積みにされ、部屋のあちこちには木で出来た箱が積まれていた。
そのどれもがUSOの使用家具であり、リルク達団員が苦労して集めたものでもあった。
しかし現在、そんな愛着のある内装は全て取り払われている。どれも旅をするのには必要な物資だからなのだが、それでも抜け殻のようになった部屋を見ると、少し寂しさを感じる。
「いよいよですね!」
積み荷を運び終えたサーガが、ギルドホームの紋章を見ながらしみじみと言った。
その周りでは同じように何人かの団員がホームを見上げて、感慨にふけっていた。
*****
ダリウスの召集のあった日、ギルドホームに帰ってきたリルクは臨時定例会を開き、今回の探索についての作戦を話し合うことになった。
「それって、街の外に出るってことですよね…」
アヴァロンが不安そうな表情で、お茶をすする。
「モンスターと戦うことになるのでしょうか」
「…そう、なりますね」
「蘇生できるってことはわかりました。でも、死ぬってことはそれほどの痛みが…」
アヴァロンは自身の言葉に顔をしかめ、想像した痛みに体を縮ませた。
蘇生できると言っても、死ぬほどの痛みは一度たりとも感じたいとは思わない。
……それは誰だって同じだった。
暗くなりかけた空気の中、inoがスッと手を挙げた。
「僕らプレイヤーが受ける痛みは"一般人"のそれに比べ、比較的軽いものだそうです。実際に転んでも痛みはありませんでした」
「それでもーーーーー」
反射的に言葉を返そうとしたアヴァロンに、inoが声をかぶせる。
「みなさんは僕が死なせません。僕は最高の回復術師、ですから」
inoが言った「最高の回復術師」という言葉に、全員の表情が緩んだ。
確かにinoは最高の回復術師である。それは自他共に認める事実で、嘘偽りではない。
inoの回復スキルは蘇生こそできないものの、一度に最大6人までHPを全回復できるのだ。
「それに、僕が皆を守ります!」
inoに続いて声を上げたのは、タンク隊長のタコスだった。
背中の大剣の柄を傾けて自信満々に胸を張るタコスに、部屋は明るい空気に包まれた。
その後、作戦の詳細とパーティ分けが決定し、この日開かれた臨時定例会は閉会となった。
定例会のメンバーもすぐに部屋を出る様子はないので、皆で軽くお茶をしながら話をする。
「あっ、リダ」
そこに、ちょっといいですか?と声がかかった。
リダというのはリーダーの略で、リルクを指す名称の1つだ。もっとも、今リルクに声をかけた彼女しか使わない呼び名なのだが。
「一応、ここでもスキルは使えますけど、戦闘訓練とかしておいた方が良かったりしません?」
彼女ーーーーーRyuueiの言葉に、全員が頷く。
確かに、スキルが使えるのは確認済みだ。何しろUSOがVRゲームだったため、直感的にスキルが使えるのである。
しかし、今はゲームだった頃とは様々なことが異なる。
一応、練習くらいはしておいた方がいいかもしれない。
そう思い、リルクは探索までの日程に訓練を追加した。
「そうですね。出発までの数日で訓練をしておきましょう。…とりあえず、明日からにしましょうか」
「わかりました!」
その場の全員の了承を確認し、リルクは明日の訓練について段取りを組むことにした。
基本的に、戦うのに必要なのは防御手段と攻撃手段だ。
当然優先されるのは前者であり、訓練ではまずそれを鍛えなければならない。
しかし、一口に防御と言っても、様々な形がある。
物理防御に魔法防御。大まかに分けるとその2つだが、さらに分けていくと盾や物理魔法を使うものや、魔法障壁による自動防御など幅広い。
とりあえず、物理攻撃職には物理防御を、魔法職には魔法防御を練習させて、お互い足りないところは補い合う事にしてカバーする。
訓練の具体的な内容は、ペアを組んでの模擬戦だ。
本物の武器、スキルを用いた実践方式の訓練に、団員達は少し及び腰な様子だった。
しかし、時が経つにつれ団員達も慣れてきたようで、その姿勢は改善されていた。
そしてその日の訓練が終わる頃には、全員がある程度の攻撃を防ぎ、もしくは回避できるようになっていた。
次は連携かな、などと考えつつ、リルクは今日の訓練についてまとめていた。
今回の訓練で分かった事は2つ。
1つは「スキル名の宣誓」が要らないこと。
USOはスキル名の宣誓による、音声入力でのスキル発動をしていたが、その手順が無くてもスキルは発動することが発覚した。
魔法で言うところの無詠唱魔法のようなものだ。
使おうとしているスキルを脳内で強くイメージし、そのイメージに沿って身体を動かせばスキルが発動する。
魔法スキルに至っても、これと同じ手順でスキル名の宣誓を短縮することができた。
ただ、イメージが弱いとスキルが発動しないこともあり、今はまだスキル名を宣誓した方が確実性がある。
もう1つは、身体能力についてだ。
プレイヤーということで、身体能力は軒並み底上げされているらしい。
100mも10秒程で走れたり、筋力も体力も大幅に補正がかかっているようだった。
補正といえば、職業によってステータスに補正がかかる「職業補正」というものがある。
暗殺者などは速度全般に、タンクは防御に関する補正など、職業によって補正内容は様々なのだが……
今回、その職業補正も個人差があることが発覚した。
例えば、タンクにはガードスキルがある。
タンクにはHP、SPの他に、スタミナという独自のゲージを持っている。ガードスキルは自身のスタミナを消費しながら、一定のダメージを軽減するというものだ。
そのスタミナゲージに、個人差があったのである。
色々と調べてみると、どうやら現実世界での身体能力が少なからず反映されているようだった。
陸上部に入っていたリルクも、ゲームの時よりも疾走時間が増えていたのだ。
この発見は、今回の探索に重要な結果をもたらすかもしれない。
現在のパーティ編成から、変更する必要があるようだった。
与えられた出発までの猶予は3日。
その間リルク達は訓練を重ね、CBからの支援物資を受け取り、準備を進めた。
約束通り、CBからは100個程の蘇生薬と回復薬が寄贈された。
それらに加えて二週間分の食料を積み込み、荷馬車二台、馬18頭の大行軍となった。
旅団所有の荷馬車では足らず、CBから半ば強制的に譲り受けたのだが、
「馬車が増えるなら、これも持って行け」
と、天幕などの野営道具も支援してくれた。
そして迎えた出発当日。
街を護衛するCB構成員を含め、総勢80名以上の見送りの中、リルク率いる天恵の旅団、総勢30名がこの物語の始まりの街を発つ。
街唯一の大門が大きく開け放たれ、周囲の警備も強化されていた。
何事かと集まってきた、NPCや一般人もちらほら見かけられる。
どうやら、大ごとになっていたようだ。
「リルクさん、何か言わないんですか?」
リルクが周囲を眺めていると、隣に控えていたラーシーが声をかけてきた。
「あー……言った方がいいですかね」
「言いましょう、掛け声とか!」
「ちゃんとノリますよ!」
いつの間にか、他の団員まで囃し始める。
そんな空気に流されるように、リルクは声を張り上げた。
「ーーーーー総員、注目!
我らの目的は、ハバロスと世界の調査!
この世界を知るため、人類生存のため、危険を鑑みず共に歩む同胞達よ!
ここにその勇気を讃え、賞賛しよう!
我が街の者達よ!
我らこそが、皆の英雄となる者達だ!
その目に焼き付け、その帰還を切望せよ!」
リルクの言葉に答えるように、観衆がどっと沸いた。
久々に出した大声に喉が焼けるように熱く、リルクは涙目になりながら言葉を継いだ。
「天恵の旅団、総員出立せよ!」
「「おぉーーー!!」」
団員達が腕を突き上げ、応える声を聞きながら、リルクは馬を駆った。
その日の空は稀に見る快晴で、旅の快調さをうかがわせた。