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プログラマーズ  作者: 管澤捻
王都(仮題)
17/18

王都からの来訪者

――あらすじ――


万物を創造するプログラミング。

殺人鬼を捕まえるために、王都から

戦闘に特化したプログラマが派遣された。

プログラマと相対したエマは・・・


挿絵(By みてみん)

「ああああ!

 もう面倒くさい!」


 エマはそう叫ぶと、ホウキを背後に放り投げた。

 塀に沿って連なる深緑豊かな木々と、色鮮やかな花々が咲き誇る花壇。

 きらきらと水しぶきを上げる、個人宅には珍しい噴水。

 庭園にあるそれら美しき観賞物を睨め付けるようにして見回し、エマ憎々しげに唇を尖らす。


「何だって、こんな一銭の得にもならないような無駄な造形物が、こんなたくさんあるのよ!

 掃除するこっちの身にもなってもらいたいわ!

 根こそぎ燃やして更地にしてやったほうが、人の死体を埋められるだけなんぼかましってものじゃない!?」


「文句言っても仕方ないよ。

 エマ」


 地団太を踏むエマに、妹のルナが呆れるようにため息を吐く。

 ホウキを小刻みに動かし落ち葉を集めつつ、ルナがエマを窘めるように言う。


「ぼくたちは先生の居候なんだから、屋敷の掃除ぐらいはきちんとやらなきゃだよ」


「無駄に広いって言ってんのよ。

 第一、感性ゼロ人間のあいつが、こんな無駄に贅沢な庭園を欲する意味が分からないわ。

 花壇やら噴水やら見たって、何の感慨だって湧かないでしょうに。

 大方あたしたちに嫌がらせするために、こんな掃除しにくいモノをばかすか置いているに違いないんだから」


「それはさすがにないと思うけど……」


 ここでふとルナが小首を傾げる。


「ところで、なんで更地にすると死体が埋めやすいの?

 埋めるだけなら更地である必要はないんじゃない?」


「馬鹿ね。

 こんな草ぼうぼうの場所に埋めたら、掘り返した跡が目立っちゃうでしょ?

 死体を埋めるなら草木も生えてない場所にしないと、すぐに見つかっちゃうじゃない」


 ルナが「へえ」と気のない返事をする。

 エマの説明に納得しつつも、どうにも腑に落ちないといった体だ。


「なんか実体験みたいだよ」


 物騒なことを言うルナに、エマがカラカラと笑う。


「いやね。

 そんな経験はさすがにないわよ。

 埋めたい人間はいるけど」


「いるんだ」


「というより、埋められたがっている連中が多いのよね。

 困ったことに」


「そんな人、いないと思うよ」


 冷静に指摘するルナに、エマはやれやれと肩をすくめる。


「いるのよね。

 あたしにもその心理はよく分からないけど。

 例えばさあ――」


 そうエマが言いかけたところで、上空から高笑いが響き渡った。


「はっはっはっはっは!

 はあっはっはっはっはっはっは!

 久しぶりだ――」


 ごしゃ!


 屋敷の屋根に上がり高笑いをしていた男を、エマのプログラミングした人間大の鉄球が打ち抜いた。

 屋根もろともに高笑いの主を吹き飛ばした鉄球が、空中で自壊し消滅する。


 目をぱちくりと瞬くルナに対し、エマは何事もなかったように話を続ける。


「いつも馬鹿なことを言って、馬鹿なことをして、馬鹿な存在になっている奴がいるじゃない。

 馬鹿なあいつだから馬鹿なそいつになって馬鹿などいつな感じでさ、きっと馬鹿なことを言うことで馬鹿なままに馬鹿を満喫しているのよね」


「何言ってるの?

 エマ」


「つまり、馬鹿な自分を埋めてくださいって暗に示しているんじゃないかしら」


「その考えには肯定しよう。

 確かに是正のきかぬ馬鹿者は埋めるべき対象だな」


 エマの言葉に賛成の意を示したのは、突然エマの隣に、にょきっと――他に表現のしようがない――現れた男だった。

 金髪にひょろ長い体格をした緑スーツ。

 黒の匣に在籍するジャコ・ベルモンドだ。


 難しそうに顔をしかめているジャコを指さし、エマがきっぱりと言う。


「あ、馬鹿だ」


「何?

 どこに馬鹿者がいるのだ。

 スコップはあるか?

 埋めた場所には安全のため『ここには何も埋まっていません。

 死体なんかありません。

 本当です』の看板を立てておこう」


「何か用?

 ジャコさん」


 スコップで土を掘る仕草をするジャコに、ルナが淡々と質問する。

 ジャコは「ふむ」と顎に指を当て、重々しく頷く。


「無論だ。

 用がなくては、才能が充ち溢れすぎて老人の尿道のようにだだ漏れている私が、庶民宅まで足を運ぶことなどあるまい」


「だだ漏れてんのは、あんたの脳味噌じゃない?

 実際なんか鼻から垂れてるし」


「これは脳味噌じゃない。

 血だ。

 先程屋敷の屋根で、私に相応しい登場を図ろうとしたところ、突然黒い塊のようなものが襲ってきてな、多少の怪我を負ってしまったのだ」


 あれほど巨大な鉄球を受け、多少の怪我で済むとは何とも頑丈なことだ。

 エマは仕留めきれなかったことを残念に思いつつ、そのことをおくびにも出さずに首を捻った。


「それは災難だったわね。

 日頃の行いが悪いから神様が罰を与えたんじゃない?」


「私が罰を受けるいわれなどはないが、仮にそうだとしても、物理的すぎないか?」


「じゃあ鳥の糞でいいわよ」


「何やら妥協した感があるが、鳥の糞ならば仕方ない。

 ええい!

 鳥め!」


「それで、用って何なの?」


 拳を振り上げるジャコに、あくまでマイペースに質問を続けるルナ。

 ジャコは振り上げた拳を下すと、腕を組み、彼女に答える。


「例の殺人鬼の調査のために王都から派遣されたプログラマが、昨日到着した。

 そこでだ、事件について深く関わったサリム氏に、再び事情聴取を行いたいのだが」


「派遣されたプログラマって……あの戦闘に特化したとかいう?」


「うむ。

 黒の匣でも五指に入る戦いのプロフェッショナルだ」


 自治都市エルバンで起こった、プログラマを狙った誘拐殺人事件。

 エマは興味本位でその殺人鬼を誘い出してみるも、卓越したプログラマでもあった殺人鬼に、彼女は為すすべなく倒されてしまい、あまつさえ妹のルナを殺人鬼に連れ去られてしまった。


 ルナを助け出すために、エマは殺人鬼のアジトに乗り込みも、またも殺人鬼に敗北を期し、彼女は生まれて初めて、死を覚悟した。

 だがそこに師であるサリムが現れ、あっさりと殺人鬼を()()させてしまう。


 今回の事件の最大の問題はそこにある。

 殺人鬼が、文字通り跡形もなく消えてしまったため、殺人鬼がいなくなった今も、事件は公には収束していない。

 人間が一人消えてしまったなどという突飛な事実を説明する自信――そもそもエマ自身、幻覚ではないかと疑っている――がなく、また当のサリム自身もそのことについて話す気はないようで、黒の匣としては未だ、どこかに存在しているであろう殺人鬼の調査が、続けられているのだ。


 そして黒の匣は、殺人鬼を捕まえるため、戦闘に特化したプログラマを派遣する決定をした。

 そのことは以前、エマもジャコから話を聞いていたし、当然、サリムにも話は通っているはずであった。

 だが――


「先生はいないよ。

 ふらりと出掛けたまま、帰ってきてないから」


「何?

 それは困ったな」


 ルナの言葉に、ジャコがむっと口をヘの字に曲げる。


 サリムは放浪癖があり、目を離すとすぐにどこかへと旅に出てしまう。

 根本的に定住という概念が性に合わないようで、一年の大半は、ホームレスのような恰好をして、各都市を目的なくうろついている。


 ジャコは首を九十度に曲げ、困ったように眉尻を指先で掻いた。


「どうにか連絡はつかないか?

 できるなら頼みたいのだが」


「日程は伝えてあるの?」


「うむ。

 事前に約束は取り付けてある」


「だったら、そのうち戻ってくると思うよ。

 そういうところは結構律儀だから。

 会う時間とかまで決めてた?」


「いや、こちらの都合もあってな、時間までは確定できなかった。

 そうか。

 まあ戻ってくるなら問題ないが……実はもうここに連れてきているんだ」


「連れてって……その王都から来たとかいうプログラマに?」


「そうだ。

 私が話をつけるまで、今は塀の外で待機してもらっているがな」


 そう言って、ジャコが大仰に――なぜか偉そうに――頷いてみせる。


「感謝しろ。

 君たちのような一般人が、黒の匣でも優秀と分類される人種に会えるなど、私の残り香を嗅げるぐらい光栄なことだぞ」


「なんで目の前で話しているあんたの残り香に恐縮しなきゃいけないのよ。

 大体、その光栄なプログラマさんを、こんな長いこと放置していていいの?」


「無論だめだ。

 だが私の登場シーンに妥協はできまい」


「あんたそのものが、妥協の産物みたいなものでしょ」


「一見悪口に聞こえるが、曲解して誉め言葉と受け取ろう。

 それほどでもある」


「一周回って、悪口を受け入れたわね」


 ふんぞり返るジャコは無視して、エマは庭園から門扉を抜けて、塀の外を見やった。

 そこには、塀に寄りかかり立っている、一人の女性がいた。


 腰まで伸びた波打つ黒髪。

 やわらかい瞳に、ぷっくりと膨れた厚みのある唇。

 緑のセーターにロングスカートという地味な服装だが、突き出した豊満な胸と、煽情的な曲線を描く腰元が、女性の存在を強く主張している。


 ポケットサイズの単行本を読んでいた女性がエマの存在に気付き、その物憂げな瞳を単行本からこちらに向けてくる。

 そして、目を細めてにこりと微笑んだ。


「こんにちは。

 お嬢ちゃん。

 えっと……」


「……エマよ」


「あなたがエマちゃんね。

 ジャコさんから話には聞いているわ。

 あのウィザード、サリム・レステンクールの弟子なんですってね」


「あんたが、戦闘に特化したプログラマっていう?」


 エマの言葉に、女性がくすくすと笑う。


「戦闘に特化しただなんて、なんだかすごく野蛮な響きね。

 でも……そうね。

 ええ、そう言われているわ」


 確かに女性の言う通り、戦闘に特化したなど物騒な言葉だろう。

 それだけに、エマはその王都から来たというプログラマを、今の今まで男性だと勝手に思い込んでいた。


(こいつが……あの殺人鬼を倒せるほどに強いとでも言うの?)


 とてもじゃないが、そうは思えない。

 エマは、殺人鬼の強さを身に染みて分かっている。

 一般人はもとより、並みのプログラマでも太刀打ちすることができまい。

 事実、黒の匣のプログラマが何人も殺されたことからも、それは証明されている。


 だというのに、その殺人鬼を捕らえるために黒の匣が派遣した女性は、あまりにも()()()()()()()()()

 性別に関しては人のことは言えないため考慮外とするにしても、女性のその身なりや立ち振る舞いは、戦闘という荒事の対極に位置しているように思えた。


(殺人鬼よりも……あたしよりも強い女)


 女性が単行本を閉じ、それを小さなハンドバッグの中に入れる。

 そして体ごとエマに向き直ると、首を僅かに傾けて、自己紹介を始める。


「私はバービー・ノーマン。

 もう知っていると思うけど、王都から殺人鬼の事件調査に派遣された、黒の匣の所属員よ。

 エマちゃんにも話を聞くことになると思うから、よろしくお願いね」


 穏やかな口調で話し、女性――バービーが右手を差し出してくる。

 当然、その彼女の意図はエマにも容易に知れた。

 だが――


 エマは、バービーが差し出した手を握らず、じっと彼女を睨みつけるように見つめた。

 そのエマの態度に、バービーが怪訝に目を丸くする。

 すると――


「やあバービー。

 待たせたな。

 取り合えずサリム氏は留守のようだが、今日中には戻ってくるらしい。

 それまで屋敷で待たせてもらえることになったから、ついてきてくれ」


 門から姿を現したジャコが、バービーを手招きしてそう言った。

 バービーが「そう。

 分かったわ」とエマに差し出していた右手を引っ込めて、再びにこやかに笑う。


「それじゃあお言葉に甘えて、お邪魔させてもらおうかしら」


「はっはっは。

 何も気兼ねする必要はない。

 自分の家のようにくつろぐと良い」


「ありがとう。

 でもジャコさんの家ではないのでしょう?」


「そうだが遠慮は不要だ。

 この屋敷の連中は私も何かと目をかけてやっているからな。

 彼らは私に感謝と敬意を示している。

 私がこの屋敷を訪れると必ずと言っていいほど、殺人級の手厚い歓迎が待っているぐらいだ」


「それって感謝と敬意かしら?」


「む?

 それ以外に解釈があろうか?

 まあ何にせよ、ルナ君の許可は得ているゆえ問題はないだろう」


 ジャコはうんうんと何度も頷く。

 そしてふと、バービーを睨みつけているエマに気付き、訝しげな口調で尋ねる。


「はて?

 エマ。

 君は何をしているんだ。

 いくら王都から来た都会人が珍しいとはいえ、そんなあたかも睨みつけるように見つめていては、『私は田舎者です。

 藁がおいしいムシャムシャ』と言っているようなものだぞ」


 ジャコの妄言は無視して、エマはバービーを見つめ続ける。

 不思議そうに指を頬にあて、バービーが首を傾げる。

 エマの睨みに対し、世間知らずのお嬢様のような、緊張感のない反応を示すバービー。

 そんな彼女に、エマがはっきりとした口調で、こう言った。


「あたしと、戦ってちょうだい」

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