若き小説家たち その4
---あの時こうしておけばよかったって? もう遅いよ---
----……後悔役立たず----
「一人暮らし?」
私は一瞬、その言葉の意味が分からなかった。勿論、『一人暮らし』の意味ぐらい知っている。つまりは、意味ではなく意図が、分からなかった
まさか。
まさかとは思うが。
「いやいや先生、そんな深い込み入った事情は一切なくて、普通の一人暮らしです、独立したんです」
と、隹さんは言ったが、隹さんは国家ではないので自立と言うべきだろう。
っておい! 今、呼び捨てにしたな!?
まあどうでもいいか、ともかく隹さん本人が何でもないといったのだから本当に何でもないのだろう。
きっと、なんでもないのだろう。
と、考えていると藻部くんが搭乗するように促してきたので、私が助手席、隹さんが後部座席に座った。 隹さんは「子ども扱いしないでください!」と、抗議したが、無視した。
別に子ども扱いしているつもりはないのでね。
むしろ一体どこに子ども扱いと勘違いされそうな要素があったのかこっちが聞きたいくらいであった。
脳内スイッチを切り替えて。
気分を切り替えて、私は藻部くんに忠告する。
「えぇ……コッホン……藻部くん、一つ買わないで欲しいものがあります」
「はぁ……なんでしょうかねぇ……」
と、シートベルトを締めながら藻部くんは私の発言に耳を傾けた。
「テレビです、家電量販店にも行かないでください」
私がそういうと藻部くんは心底落胆したような玩具を取られた子供のような表情をみせた。
「えぇ……なぜですかねぇ……テレビのない生活はまっぴらごめんです……」
テレビ中毒者だった。
「仮にそうだとしてもわざわざ買いに行く必要がどこにあるのかね。 君の家から持ってくればよいではないか。 自動車持ってるのだから活用すればよいではないか、このマシンを。 財布にも優しいだろう?」
「はぁ……なるほど……」
藻部くんは「めんどくさいなぁ」といった感情を隠そうともせずに微妙な絶妙な曖昧模糊の限りを尽くした反応を私に向かって示した。
「しかし……アニキィ……」
アニキ? 誰だそれは。
「アニキィ……自動車は一つしかないんですよォ……わたしが使っている間、お二人はどうされるおつもりでェェ?」
あ、あぁ……どうしようかな……
私は少し考えて答えた。
「いや、問題ないよ。 まだやることが残っているし。」
と、答えると隹さんは「ん?」と反応し、同時に不安そうな表情を露わにした。さらに、「えっ、まさか」と、呟いた。さすがに可哀そうかもしれない。
「それでは、そういうわけで藻部くん、頼んだ。 あとこれ、温めておいた家具リストだから使って」
「あ、ありがとうございます うん、たしかになんかぬるい……」
「チガウ、そういう意味じゃない」
そして私と隹さんはインプレッツォから降り、藻部くんは『合点承知』と高らかに叫び、コトリへと走り去っていった。 なんか不安。