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表題未定、マドギワ・センセイ  作者: Yaxon
平穏と平温と平音
6/44

若き小説家たち その2




----不幸はいつも突然に。----






「すいません! 本当にすみません!」


 ペコペコ、と頭を下げる。オジギソウのような速さで。

 と、たとえてみたが、果たして速いのやら遅いのやら。

 ともかく、私は私に着せられた濡れ衣のために謝罪行動を継続中である。

 私にはとても善良な真犯人を大家のババアの前に突き出す勇気はない。

 しかし、かなりうるさかったはずなのだが、近所さんには「そんなに謝らなくていいぞ、そこまでうるさくなかったぞ?」と片付けられてしまった。

 私はババァのミスを疑ったがそれはあり得ない。

 あの老婆の記憶力をなめてはいけない。

 

 さて、全てのご近所さんを回り終わったので、愛しき我が家に帰るとしよう。

 『愛しき』と言っても娯楽製品はほとんどないのだが。

 いや、こざっぱりしてるから逆に愛しいのだが……じゃなくて。

 

 ともかく、我が家に到着し扉を開けた。

 そーっと、こっそりと。

 これから隹さんにドッキリを仕掛けてやる。

 恨みはらしとまでは行かないが、うっぷん晴らしだ。

 私はけっして聖人ではない。

 いやー、自分って嫌な奴だな、と自分で思う。


 ちっとも自慢じゃないのだが幼いころから足音を軽減できるただのしのびあし。くだらねー特技だと21年間思い続けていたが、まさかこんな形で役に立つとは思ってもいなかった。

 多分皆もやったことあるんじゃないかな。

もうそこの角を曲がれば部屋だ。

 そーっと そーっと……

 今だ!


_____________________________________

≪隹視点≫

 

 先生が出かけてしまった。

 恐ろしく暇である。

 失礼ながら先生と大家と思われる老人との会話を盗み聞きしていた。

 本当申し訳ないと思う。家の中から悲鳴が聞こえてきたら誰だって大声で呼びかけるだろう。

 そんな僕の行動が裏目に出て先生に大迷惑をかけてしまった。

 

 先生にとって僕は超絶に邪魔であるはずなのだが、先生は僕のことを『師匠』と呼んだ。なぜそんな呼び方をするのかわからないし、もちろん身に余るのでお願いして止めさせたが。

 で、今は僕のせいで、つまり自業自得で、すごく暇である。

 

 そして僕があまりにも暇なので先生の敷きっぱなしの布団の下を独断で捜索し、謎の書物を発見したところ。

 

 ピンポーン と名前の分からないアレが鳴った。きっと先生はアレの名前を知ってるに違いない。

 ピンポンが鳴ったからには出るべきだろうか? しかし、私はお客様の立場だ。

 私を置いて外に行ってしまった先生も先生だが、きっと私が出迎えるべきではないだろう。

 ……

 ……仮に私が出迎えなかったら、今、玄関の前にいる誰かは先生が来るまで待ち続けるのだろうか?

 それとも一旦帰るのであろうか?

 

 僕にできることは何であろうか?

 

 僕にできることは、僕の大好きな大先生の大事な大事なお客様に手間をかけさせないことだ。

 きっとそうだ。

 

 だから。

 

 だから、僕は決意を決め、玄関へ向かい!お客さんを出迎える!

 ガチャリ、と。

 音がしてドアを開けたら小柄な男性が立っていた。

 

 ……言ってしまっては何だが、少し勇気を出して行動を起こしたので、なんだか拍子抜けだ。

 当たり前だ。僕はお客様に何を期待していたのだろうか。

 BIGな客が来るとでも思っていたのだろうか。


「……あれ?」


 困惑してる、困惑してるぞ。

 世間一般には『窓際の守護霊』は男性ということになっている。


「すいません、ここ『窓際さん』のお宅ですよね?」


「えぇ、そうですよ?」


「えっ? あっあれ……えっ……?」


 加速するパニック。

 黒目が何かを探すようにギョロギョロと動く。


窓際先生まどぎわせんせいなら今出かけられていますよ?」

 

 おそらく相手が聞きたがってるであろうことを伝えてみる。

 

「え、あ!そうですか! ……で、貴女は?」


 当然の疑問である。


「僕も相談に来たんですけど、先生が出かけちゃいましてね。今待たされてるんです。」


「戻ってくるまでに時間はかかりそうですかね?」


「あぁ……かかるかもですね。先生の家の中で待ちましょうか。」


 と言っても10分かかるかどうかという所だろう。

 この辺りはあまり人が住んでいない。

 ちょうどよかった。

 

 「もし人の思考をのぞき見する神のような存在がいたとしたらさっきまでの僕のような考え事を見ていたもきっとつまらないのだろうな。神様だって会話を見ている方が楽しいに決まっている」と至極くだらないことを考えていたところなのだ。

 神は信じていないが。

 

 先生を待っている間に、自己紹介を済ませた。

 彼は藻部と名乗った。

 

 そう、今日来る予定の二人目のお客さん。

 先生から話は聞いていた。しかし。

 しかし藻部さんは……

 ……特徴がない。

 なんかどこにでもいそうというか……

 強いて特徴を上げるとすれば、会話していて分かったことだが、若干、情緒不安定の気があるというか、それくらいである。

 

 と、考えていたところで。

 先生が帰ってきた。

 先生も先生だ、僕を置いて勝手に出かけるなんて。

少しお仕置きが必要だと思う。

 

 へっへっへ

 このまま帰ってきたことを気づかないふりをして近づいてきたところで。

 ぼかーん。

 我ながら素晴らしい作戦ではないか!

 素晴らしくない?

 

 聞こえるぞ、聞こえるぞ足音が。

 こっちに近づいているぞ…… 

 今、そこの角の所にいるな?

 よし、今です!

 

 

__________________________________



「「ワァァァァッ!ワァァァァァァゥッ!?」」


 それは、誰かを脅かすための声であった。

 

 しかし、同時にそれは驚いたために挙げた声でもあった。

 部屋から飛び出してきた自信満々な隹さんふるとりの顔は見る見るうちにまるで犯罪者でも見たかのような、 恐怖と困惑に包まれた表情へと変貌していく。

 

 その瞬間の莫大な情報量を私の脳は処理しきれずに結果として隹さんと似たようなことをしてしまう。

 つまりは尻もちをついてしまった。

 やせ型体形が災いして脂肪の少ない臀部で着地。

 結論から言えば尾てい骨を地面に強打。

 

 クッソ痛てぇェェ!

 

「いでででええェェェ‼‼‼‼ 隹さんん゛! なんてことするんだァァァァ!!」


「先生こそ何考えてるんですか!? 怪我でもしたらどうするんですかァ!?」


 ケガをしたのは私だ。まったく。

 

 もう間違いない。隹さんはエスパーだ。

 エスパー・フルトリ。

 偶然だって積み重なれば必然みたいなもんだよ!

 誰か偉い人が言ってた。


「窓際先生!? 隹さん!? 大丈夫ですか!」


 あ!その声は!

 蝋足ろうたりくん?


「いでで……すまない蝋足君……君が来るかもしれないのに外出なんてしまって……」


「いえいえェ、先生にも先生の事情があると思うのでェ……」


「そういえばそろそろ昼になるがどうする? 弁当みたいなのは持ってきていたりする?」


「いや、持ってきてないですねェ……」


「じゃあ僕が作ります!」


 は?




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