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表題未定、マドギワ・センセイ  作者: Yaxon
平穏と平温と平音
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相談その2




----こんなの読んでて面白いか? 暇つぶしにもならんぞ----






「初めまして、先生に相談しに来ました。『隹 幹性(ふるとり みきさが)』といいます。今日はよろしくお願いします!」

 

 元気溌剌、元気いっぱいにショートヘアの女性は自己紹介をする。

 きっと学生時代モテた、と予想できる顔立ちをしている。まぁ、私がそういうのに興味がないので何とも言えないが。

 

 それに、『今日は』と言われても、もう六時半過ぎで、一日の三分の二は終わっているのだが。

 日が暮れてそれなりに暗い時間帯である。

 是非安全のためにも一度帰ってほしい。ここはビシッと伝えなければ。


「……すいません、また明日来てもらえますか?」

 

「えぇっ……そんな……」

 

 彼女の口から不満が漏れる。

 どうしても嫌らしい。 そんなに嫌かね。

 

 私が少し困惑し、直立している間も彼女は笑顔で私の反応を待っている。

 口元はやさしそうに微笑んでいるのに目や眉だけなんだか悲しそうである。「どうしたんですか?」といった感じである。

 ……。やめてくれ、そういう顔をしないでくれ。本当にやめてほしい。

 ……何かに負けた私は二重ドアを開け、彼女を家に入れる。

 

 

 まてよ……さっきお茶をこぼしたとき、二重ドア越しに隹さんの声や叩いた音がはっきり聞こえたということはまさか。(この辺は冬が厳しく、外気を家に入れないために二重ドアを採用している家が多い。)

 あの娘、玄関の前ですごく響くバカでかい音を出したの言うのか。道路からの騒音も少ないこの辺りでは、さぞかし響いたことだろう。それはもう爆音の如く。

 ……。

 明日、近所に謝りに回らねば。

 そんな心配を頭の片隅に置きながらに私は彼女を案内する。 


「……じゃぁこっちの部屋に」

 

 ドアの方向にチラッと目線を向けながらふるとりさんをさっきの部屋に招く。

 やべっまだ畳湿ってるわ。 今更どうしようも出来ぬわ。

 私と隹さんは向かい合って正座で座る。

 私は気になることがあったので話を切り出す。

 

「さて……隹さん……ドアはあんまり強く叩かないようにしてくださいね。」


 さっきのうるさいドアノックのことである。

 すごかったのだから気になるのも当然だと思うが。


「? ドアの心配をしてるんですか?ドアには傷ひ」


「あなたの手のことを言ってるんです」

 

 私は彼女が言い終わる前に答えた。しかし、私は小さな羞恥心を覚える。

 彼女の手には傷一つついていなかったのだ。

 心配した自分が馬鹿みたいじゃないか。 せっかく勇気を出して他人を心配したというのに。

 

 いや、みたいではないく実際に馬鹿なのだが。

 しかしなんで無傷?ドアスコシヘコンデイタノニ。 気のせいだろうか。


「?」

 

 彼女は頭上に?を浮かべているが、笑顔のままである。


「へへへ」

 

 ごまかされてしまった。

  


「じゃ、じゃぁ本題に移ろうかなぁ……あはは……」

 

 露骨に話題をそらす。


「はい、で、これを先生せんせいに読んでほしいんですけど…」 


 彼女から3枚の原稿用紙を渡される。

 ふむ、タイトルは未定、ベタな学園モノ、ん?、ふむ


「どうでしょうか?」


 待て! 急かすな! ゆっくり読ませろ。

 ん、あれ?これ学園モノ?、? ん、あれ。ただの学園モノじゃないぞ! なんだこれは! 待てよ…これは…もしかすると!もしかするかもしれないな! まさに可能性とも比喩すべき作品。


「」 なんでこんな才能が埋もれているんだ?


「ぇ」 いや、きっと何か理由があるに違いない! ええい! 構わん! 私を弟子にしてくれ!


「せ……ぇ!?」 あう!なんだなんだ!


「せんせい!?」   

 

 あぁ、熱くなり過ぎた。申し訳ない。


(ふるとり)さん」


「はい……」


「私を弟子にしてください」


 隹さんは「えっ?」と困惑した表情を浮かべる。

 困惑してても笑顔。きっとモテただけじゃなく友人もいっぱいいたのだろう。私と違って。

 

 なぜいきなり弟子宣言をしたかというと、単純である。彼女の作品が素晴らしかったからだ。

 さっき読ませていただいた作品は斬新で新しい果実の切り口の様であった。で、きっと世に出せば多くの人を虜にするに違いない。完全に負けてしまった。 いや、負けても屈辱的じゃないというか……

 きっとアニメ化もされて、パチンコに使われたりするのだ。実写化は……ゆるさん。

 これから、私の目の前にいる天才、ふるとりさんを勝手に‘師匠,と呼称する。

 私の方から勝手に話を切り出す。


「師匠、師匠は小説家始めてどのくらいになるんですか?」


「やめてくださいよ師匠だなんて……まだ始めて一週間なんですよ。すいませんね、僕みたいな初心者が先生せんせいにお世話になってしまって。」

 

 は? 一週間? 一週間!? オイオイオイ。 小説初経験?

 さらに『師匠』と呼ばれたことに関して反応が薄い。自分が無能だと思っているタイプか。

 そんな悲観的にならないでくださいまし。

 

「大学はどこを? 文系?」


「大学?僕はまだ高校生ですよ?」

 

 なんだと? 

 ありえん……そんなことが? この若さで? この齢で既に何もかもを、全てを、神羅万象を超越しているとでもいうのか? さすがに大げさではあるが。


「師匠、まさかとは思いますが……この作品、審査通らなかったんですか?」


「先生、そのまさかなんですよ」

 

 師匠はそう言ってニッコリ笑う。

 いや、笑う所じゃぁないだろう。

 

「しかしなぜ通らなかったんです?」


「それはですね、タイトルがなかったからです」


 テヘ、と彼女は言う。 ベッラ。

 

 なるほど、本文は見事な出来栄えだが、タイトルがなかったために返却されてしまったのか。

 しかし、タイトルは極端な話、『花』『げっぷ』とかでも十分なはずだ。シンプル イズ ベスト。

 それとも師匠は最近流行りの長いタイトルの方が好きなのだろうか?


「タイトルを考えるのを忘れちゃいまして」

          

 師匠はエヘヘとはにかむ。

 ドジっ娘か。

 

「んで、せっかくだからタイトルを凝りたいなーって、でもどうしても思いつかないんですよ。」

 

「んー。シンプルに‘妖怪学園,とかどうですか?師匠」

  

「漢字四文字はベタですねぇ、でも僕は覚えやすくて良いと思いますよ?」

 そうか!わかってくれるか!さすが師匠だ!

 ニコニコしながら答える師匠。師匠の暗い顔が一切想像できない。さっき見たはずなのに。



「でも師匠は納得いかないんですね?」


「そうなんです。‘妖怪学園,だと内容を誤解させてしまうかもしれませんし……」


「ですね、そもそもこういうタイトルは既出ですし…」


「え?先生、知ってるんですか?」


「いや、作者には申し訳ないが全然」


 そう言って私は手元の端末機器を示す。

 師匠は目をキラキラさせて端末機器を見つめる。

 どうやら、師匠はまだ持ってないらしかった。

 そういえば、蝋足君もケータイだったな……

 とにかく、手元の新発見によって議論は白紙に戻ってしまった。

 

 「困りましたね……」

 

 「……ですね」

  

 こういう時はキーワードから連想してみようか。

 怪奇現象、怪談、怪異、妖怪、化け物、都市伝説、街談巷説、道聴塗説…… 

 伝記、戦記、記録、物語、譚……

 学園、学級、教室、部活……

 怪奇……学園…… 

 

「うーん……」

 

 と、悩んでいると時計が七時を告げる。


「あっ」


「あっ」


 声がそろう。

 あ、もうこんな時間か。


「あ、気づけばもうこんな時間ですね」


 この娘、マジでエスパーではないだろうか。だとしたら恐怖に値する。

 

「じゃあ今日はお世話になろうかな~」


 はい?いいわけないだろ。布団も一つしかないし。


「ダメです」


「えーーーッ!! せっかく『窓際の守護霊』先生に会えたのにぃ!!」


 読者だった。いや、読者だったら色々話したい。

 改善点とか、感想とか意見とかご指導とかetc……が、我慢だ。


「しかし、『窓際の守護霊』ってラジオのペンネームみたいですね」


 話を逸らすな。そもそもこのことは親に連絡したのか?

 もししていなかったら結構大問題なのだが。


「えーっ……」

 

 心底落胆したような声を出す師匠。

 ちょっと可哀そうだ。


「……分かりました、今日は帰りますよ」

 

 そう言って師匠は立ち上がり、まるで自分の家かのような振る舞いで玄関に向かい、ドアノブに手をかける。なんだ、意外と素直じゃないか。

 てっきりもっと粘って地団太を踏むに至るかと思ったが。


「先生」


 ん、なんだ。

 

「次合う時からはちゃんと名前で『幹性みきさが』って呼んでくださいね?」


 ……。


「はい幹性さん……」                      クツジョク


 隹さんはまたニコッと笑ってドアを開けた。


「じゃねー先生ー、明日も来るからねー」


 は?



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