恰好の階段 その5
-------裏を表だと定義すれば、表は裏である-------
後日談と呼ぶには粗末な話。というよりは答え合わせ。
今は、あの『階段の件』の後帰宅し、先生から質問を受けているところである。
「約束だ。 昨日の階段の答え合わせをしてもらうぞ。 私の仮説は正しかったか?」
「えぇ……一つ当たっていましたよ」
と伝えてみたが先生は、だろうな、と言いたげな、意外ではないような素振りをしただけだった。 あまりうれしくなさそうですね、と訊くと「まぁ、あんだけ候補を上げれば一つは当たるだろ……」と答えたのだった。
種を明かせば意外とあっさり、単純明快な話で、あの時先生から授かったアイデアと言うのは『一段飛ばしで登る』ことだった。
事故の内容をフィクションだということにして出題し、被害者が、文科系の生徒に偏りがちであることを伝えたときにひらめいたらしいアイデアである。
「作中でもいくつかの仮説を考えては試すという総当たりみたいな作戦を取ってたみたいだからな。私が当てても何ら凄くはないさ」
「先生、自分の手柄ではないことを主張したいのは分かりますが、そこまで繰り返されると嫌味みたいですよ」
「? 嫌味のつもりなんだけど?」
「擁護した僕が愚かだったッ!」
「冗談だよ」
「……」
ホント、この人は何考えてるのか良く分からないな。
閑話休題
「……で、正直な話、先生はどこでこの結論にたどり着いたんですか?」
「一つ目の大きなヒントは『被害の内容』だった。登っている『最中』に階段が動きだすのであれば、多分『一歩』の動きに連動してるんじゃないかとか思った」
「二つ目のヒントは『被害者の傾向』だった。被害者に体育会系が少ない傾向にあると聞いて思ったんだよ。比較的力に余裕がある生徒は階段で何をするんだろうとね」
「でもそれは結論から見れば体育会系特有の行動とは限らなかったじゃないですか」
「そこなんだよ、体育会系に見られやすい傾向、でもそうとは限らない。全体に分布してこそいるけれど偏りはある。誰もがすることだけど体力がないとあんまりしたくないよなーって行動。それこそが『一段飛ばしで登ること』だった。」
「……」
「実はあの時私は半分冗談で言ったんだけどね、答え合わせをしてみれば、まさかまさか、冗談みたいなこんな答えが正しかった」
「……僕も驚きましたよ」
ここからは先生にも先輩にも伝えていない話。
パニック斑崎を救い出し、階段に対する今後の対応に目途がついたときの微妙に鋸桐さんの表情に変化があったのだ。自分の失態が幸運によって偶然にも解決したときのような小さなにやけ笑いに。
その後、解散した後一人で僕は彼女を糾問したのだった。
今何を考えていたのか、一体何を仕出かして『私たち』に相談してきたのか問い詰めたのだった。その結果、あの階段の現象は『自分の感情』が原因らしい。自分が次の教室に『向かいたくない』と考えたことが要因だろうとことを語った。
一方的に語られた。
どれだけ自分で責任を感じようが手に負えなくなったので相談しに来たとのことだった。
しかし、それは彼女の心の持ちようの問題であって、僕や『私たち』にどうにかできる問題ではない。というか、ほぼほぼ思い込みに近いそんな愚痴をこぼされても困る。
というわけで、そんな余計な話は勿論、先生には伝えない。
「とりあえず――」背伸びをしながら先生は言った。一件落着だとでも言わんばかりに。
「――怪奇現象を論理で解決するのもどうかと思うけど、隹さんが読んでいるこの小説にはあと一個だけ不満があるんだよね」
「不満? なんですか?」
「この生徒たちさ、たかが階段で騒ぎすぎでしょう」




