ケース バイ ステップ
-------これさえあれば他に何もいらない-------
「お、時間より五分早く来たね。感心するよ。えーっと……どこから話したらいいかな……うん、ひとまず人紹介だ。こちらが相談者の鋸桐 柱ちゃんだ。問題解決に全力を尽くすように。」
到着するや否や奈乃々木先輩はそう言った。相談者、鋸桐さんの表情は、決して『嫌なことがあった』という風ではない。どちらかと言えば不気味な蟲でも見つけたような、無視したくなるような脅迫的な感情。単純で純粋な恐怖を感じさせる。嫌悪を通り越した畏怖。
今は恐怖で済んでいるが、それ以上の被害が出てはならない。実害が出てはいけない。そういう事象の解決が『私達』の仕事だ。
一体、この少女は何を見てしまったのかな?
「こうして直に会うのは初めてかな? 一旦肩の力を抜いて、一体何があったのか『私たち』に話してくれないかな?」
「『美銀』……そーゆーかしこまった言い方すると余計に緊張しちゃうだろ?」
「……一応かしこまった場なんだぞ……フラットな話し方でもすればいいのか……?」
そんなこと言われても僕はこれがデフォルトの口調なのだが……それでも、これが仕事であることを鑑みれば致し方ない事なのだろう。うん、やむを得ない、努力しよう。
「あー……隹です、初めまして? 僕に何があったのか教えてくれないかな……?」
僕の拙いフワフワランゲージが余程可笑しかったようで斑崎はクスクス笑っていた。こんなに他人の笑顔を見て嫌な気分になったことはない。
「その辺の背後事情は事前に聞いておいたよ」
と、奈乃々木先輩が言った。なぜ先に言わなかったのだと思ったのと同時に仕事が早い人だと思った。
「その時に一緒に落ち着かせておいたから今説明してもらってもいいんだけどね……折角だから現場に移動しながら説明しよう」と先輩は言った。
「……だったらなぜわざわざここに召集したんですか? 現場に直接集合すればよかったんじゃあないですか……?」
「訳アリでそういうわけにもいかなくてね……もしそうして集合していたらこうして無事揃ってはいなかっただろうね」
「?」
どういう意味だろうか。しかし、既に奈乃々木先輩が持っている情報から導かれた結論なのだろうと察し、僕は何も言わなかった。
「じゃあ、現場へ行こうか。手順が必要だからね少し遠回りな道を使おう」
と、先輩は言い、「こっちだよ」と鋸桐さんに手招きし、一番初めに部屋を出た。その後に僕と斑崎は続く。
「……まずどこへ向かっているのか教えてくれますか?」
「西棟の三階だよ」
あっさり教えてくれた。しかし今向かっているのは目的地とは逆の向きにある昇降口である。生徒指導室からは、同じ棟の階段を上がればよいだけなのだが、これも遠回りに必要なのだろう。
「三階……で、そこでいったい何があったんですか?」
「迷子。この子だけでなく何人かの生徒が数分の間失踪、再開している。なぜか皆文科系の生徒だ。彼女の場合、普通に校舎内を移動していただけなのに、それも一本道を通っていただけなのに運動部の友達とはぐれた。 だよね?」
先輩の質問に鋸桐さんは小さく頷いた。
「……あそこで迷えるはずがありません……廊下は分かれてませんし……それに……」
それに?
「それにそこは……階段の途中でした」