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地下鉄

作者: 清顕

 私は、地下鉄の窓が嫌いだ。

 窓の外に広がる闇から、何かがこちらを見ているような気がするから。


 

 高校までは、地下鉄で1時間ほどかけないと着かない。だから朝は早起きだ。今日も6時過ぎには起きて、お母さんの作ってくれたご飯をもそもそ食べた。いってきますを言い、家を出る。いつも通りの時間。いつも通りの通学路。いつも通りの駅。

 この時間の地下鉄は、まだラッシュタイムに突入する少し前なので座れる程度には空いている。私はいつもと同じ車両の同じ席に座った。ひとつ息をつくと、地下鉄が動き出す。すぐに窓の外は真っ暗になった。

 私は、この地下鉄の窓というものが、どうも好きになれない。窓の外を見たくなくて、いつものように目を伏せるとイヤホンをした。陽気なJポップが耳に流れ込んでくる。この歌手は好きだ。私はゆっくりと瞳を閉じた。



 意識が脳の沼底から浮き上がる。どうやら眠ってしまったらしい。次はどこの駅だろうか。

 顔を上げると、あたりに乗客は誰もいなかった。

 おかしい。何かがおかしい。いくらラッシュの時間から外れているとはいえ、乗客が一人もいないことなど有り得ないし、今まで一度もそんなことはなかった。慌てて隣の車両を見てみても、ここも乗客は誰もいない。その隣も、その隣も、そのさらに隣も……。先頭まで来たが、乗客は一人もいない。

 そうだ、運転室へ行こう。そうすれば運転士か車掌か何かがいて、今どこを走っているのか教えてくれるはずだ。目の前の運転室のドアを叩いた。

 「すみませーん」

 返事はない。さらに強く叩く。

 「すみませーん!」

 返事はない。叫んだ。

 「すみませーん!!!!」

 返事は、ない。

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

 心臓が早鐘を打つ。目眩にも似た感覚を覚えながら、思い出した。

 そうだ。非常通報ボタンとかいうものがあったはずだ。それを押せば、係員か誰かが来てくれるかもしれない!

 ボタンはすぐ近くの壁面にあった。思いきり押した。───何も起こらない。何度押しても、地下鉄は止まらない。誰も来ない。

 暴れる呼吸が抑えられない。涙が滲む。ここは一体どこだ。どこへ行くんだ。外へ出なければと私は、ドアへ近付き無理矢理にでも開けようとした。開かない。開かない。開かない!

 私はドアから手を離した。ドアについている窓の外は、真っ暗なままだ。窓の外を見るのが嫌で、目を反らそうとしたその時、私の目は逆に窓の外へ釘付けになった。

 窓の外の、真っ暗なコンクリートの壁だと思っていたものは、一面にびっしりと蠢く人の目玉だった。


 目を覚ますと、私はどこかの部屋にいるようだった。横から地下鉄の駅員らしき人が覗いている。

 「目を覚まされましたか!」

 そう声をかけられた。私は、まだ狐につままれたような、わけのわからぬ心持ちであったので、「はあ」と生返事をしたが、その時駅員がぽつりと言った。

 「あなたも、ご覧になったのですね……。」

 列車到着のアナウンスがぼんやりと耳に響いていた。

自分の知っているものとは異なった世界の扉は、どこに潜んでいるのかわかりません。ふとした瞬間に、その扉が開くことがあるのかもしれないですよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 一面にびっしりと目玉が蠢いているのは怖いですね。
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