『ゴースト』
そう、大事なことはいま言った三つだ。
・・・途中で寝てしまったのか?じゃあ、もう一回言おう。何度でも言うとも。
これは絶対に、私の文を読むうえで知っておかなければならないことだからね。
ひとつは飲み物を用意してほしいということ。
キミの頭は喉が渇いたとき、あるシグナルを発する。
それが、あの世の入り口に近づきすぎたキミを
現実に引き戻す。取るに足らない、ささいなものだが、これは命綱だ。
飲み物ならなんでもいい。
次に私という存在についてだ。私は実在する。
なにをいってるのかぴんと来ないかもしれないが、
私が実在しなければ、誰がこの文章を書いているというのだろう。私はいまこうして、
文章を編集している。・・・頭のなかで。
実在はしているが…私は肉体としてこの世界にいない。
全てをいま、キミに理解してもらうことはできないだろう。
私もすべてをいまここで語ろうとは思わない。
だが、私という『何者か』が存在し、情報を発信していることを知っていてほしい。
最後は、『フィルター』だ。
人間は現実を脳で知覚するとき、それぞれの持つフィルターを通してそれを解釈する。
本当のリアルというものがまず存在し、我々が認識しているものは脳が設けたフィルターを
通した光景、あるいは情報だ、ということだ。
しかし、リアル、というものの存在を、証明することはできない。
いくら大勢のひとが、ある常識的な物事について「実在する」と言っていたとしても、
それすら自分の頭がフィルターを解して作り上げた「でっちあげ」であるかもしれないからだ。
私の存在は、そういう意味でキミにとっての『ゴースト』なんだ。
ゴースト・・・そういえばこれも大事な単語だ。
なぜなら『ゴースト』は人の命を奪いかねないからだ。彼らは制御不能で、
独立していて、それでいて依存している。
そして実在せず、かつ「存在」している。
さっき私は自分のことを、「実在している」と言った。
しかしそれは私自身がそう思っているだけで、実は私の書く文章は誰にも伝わっていない
のかもしれない。
『ゴースト』がいるんだ。
私の頭にも、
たぶん、キミの頭にも。
彼らはとても自分は純粋で、正直者だと信じている。
これが本当に厄介なところで、彼らは意に沿わないものをこの世から「消し去る」ことができる。
その対象は万物全てだ。たとえ『宿主』でさえもだ。
彼らといると、殺されかねないんだよ。
そうと分からないうちに死ぬかもしれなかった。
私がこれから行おうとしていることは、彼らを冥界、つまりあの世に還す、
ということだ。
彼らは生者の魂を引っ張る。
一人三途の川の向こうまで引っ張れば、自分が代わりに生き返られるとでも
思っているのかもしれない。
しかしそんなことはない。実際は、おそらく
哀れな死亡事故がニュースで流れるだけだ。
赤ん坊になって転生でもするだろうか。それもない。
キミが僕の書く分にたどり着きここまで読んだということは、
とりあえず、『ゴースト』の目をかいくぐったということだ。
彼らはなんというか、馬鹿だ。いや、思考パターンが単純ということではなく、
「ある分野」に対しとても盲目的だ。
「ある分野」とは人それぞれで、『ゴースト』それぞれだ。
これが、医者さえ『ゴースト』を葬れない理由だ。これはやつらの長所であって、
我々が最も注意を払わなければならない点だ。
おれは最初、『ゴースト』がいると分かったとき、
まず頭の病気を疑ったね。おれは無意識のうちにストレスが溜まって
ちょっとおかしくなってしまったんだと。
近所の医者に診てもらって、
軽いノイローゼと診断されて薬を処方してもらったが、けっきょく一錠たりとも飲んでない。
なぜなら病院から帰ってすぐ、『ゴースト』は気配を消して、
それ以降一度も姿を現してないからだ。
『ゴースト』はいる。
注意するべき点は「まとまりが無くなった」ところだ。
人はひとに物事を伝えるとき、聞き手あるいは読み手のことを考え、ある程度の整いをもった
文章を書く。
しかし、ある時点から脈絡なく話題が変わったり、突然一人称が変化したりするのは、
『ゴースト』が介在している可能性が高い。
それはどす黒い「ひび割れ」なんだ。
人を「死」にさえ誘う『ゴースト』どもの住処だ。
安易にそこに近かないようにしなければならない。
私がいま、この場でできるのは、限られた「見える」人間に「警告」することだけだ。
どのくらい効くのか不明だが、バリケードを張ることができる。
・『ゴースト』は「居る」。
・『フィルター』のうえに住んでいて、世界中のどこにでも移動できる。
・できるだけ彼らを退け、我々は最終的に彼らから「解放」されなくてはならない。
・自分でも気づかないうちに足が「歩いて」いたら危険。