立花碧、霊について学ぶ。
やはり我が家というものは落ち着くところで、帰ってお風呂に入ってご飯を食べてごろごろしていると自然とリラックスできる。自室でベッドに寝転がるのは荒んだ生活の唯一の癒しである。
隣に守護霊が寝転がっていなければの話だが。
有明は躊躇うことなく私の部屋に入り、下手すれば風呂場までついてくるのではないかという勢いだった。奴はなにかと守護霊だからという理由を押し付けてくるが、それとこれとは話が別だ。おかげで私は風呂場の前で両親にエアーパンチしているところを見られてしまった。ちなみに有明に限らず霊は見える人間に触れられてもすり抜けず、普通に触れるらしい。痛みも感じるとのことで、私に右ストレートを食らわされて有明が「いてえ!」とけっこう真剣に痛がっていたことが思い返される。
当の本人はまったく懲りた様子もなく、私のベッドでごろごろしているのだった。そんなくつろぎまくっている守護霊を私は一瞥する。
「ねえ、聞きたいんだけど」
「んー?なにをだー?」
「夕方に襲いかかってきた人体模型のことだよ!あのときは状況があれだったから説明とかに突っ込まなかったけど、普通に考えたらツッコミどころ満載だから!守護霊なら教えてくれたっていいでしょ!?」
「わーったわーった、そう怒んなよ。さすがにあの右ストレートはキツいから」
私だって好きで殴ったわけではないのだ。あれは正当防衛である。しかもそのあと母に「碧、ストレスが溜まっているのはわかるけど、そういうのはサンドバッグにしてちょうだい」とわけのわからないなだめ方をされた。これでは私がおかしい人みたいに見えているではないか。
「じゃあざっくり説明するぜー。夕方に襲いかかってきたのは悪霊。前に言った通り悪い霊だ。悪霊にも種類があってな、完全に自我を失ってるやつと自我を保っているやつがいる。自我を失ってるやつよりも保っているやつの方が遥かに面倒くさい。策とか練れるからな。ここまでOK?」
「うん」
「その悪霊に、なんらかの理由でお前は狙われるようになった。悪霊はお前の魂を欲しがってる。それが一年間続くっていう、半分呪いみたいな仕様だ。そこで今まで見えてなかった俺が見えるようになった。もちろんお前に見えてもいいと思ってる守護霊なら見れるさ。守護霊はひとつ、なんらかの武器を持ってる。俺の場合はたしか……」
「ファルシオン?」
「そうそうそれだ、ファルシオン。守護霊が守護対象の人間に憑依することで、その武器は具現化できるようになる。その武器と俺を使って、一年間生き残ろーぜって話」
なるほど、何者かによって私は呪い的なものをかけられて、一年間悪霊に命を狙われることになったのか。この中学生最後の一年間が、呪いによって終わらせられそうなのか。それを助けるために現れたのが有明で、二人で協力して一年間生き残ろうというわけだ。
「誰が死ぬかばぁぁぁか!!」
「それは誰に対しての罵倒なんだよ!?」
「ふん、呪い?悪霊?知らんわんなもん!中学生最後の一年間を人生最後の一年間にしてたまるかよ!こうなったらなにがなんでも生き残って、呪いをかけた張本人がいかに愚かだったかを実感させてやるわ!」
「お前が悪役みたいだな!」
もうなんと言われようともかまわない。是が非でも生き残ってやる。そう決心した、中学三年生の春であった。