立花碧、除霊する。
まず攻撃を仕掛けてきたのは人体模型の方だった。見事なフォームで走ってきたかと思うと、真っ直ぐ私の首に手を伸ばしてくる。有明は攻撃よりも避けることを優先したらしく、そのままくるりと宙返りをして人体模型の攻撃を避けた。今さらだがかけていた眼鏡がずれて見えにくいのと、お下げが顔に当たって地味に痛い。首を絞められていたからか息切れもひどかった。
これではいくら有明が動く気まんまんでも、私の体力が危ない。人体模型の攻撃を避けながら端々で私は有明に話しかけることにした。
「ちょっと、疲れるんだけど!どうしたらあの人体模型おとなしくさせられるの!?」
(おー、悪い悪い。んー、手っ取り早く除霊しちまうか。なあ碧、ここって人とかこれから通るか?あんまり見られたくないんだけどよ)
「今は部活だから通るとしても顧問じゃない先生くらいかな?とにかくなんでもいいから早くしろ!」
(はいはい、霊使いが荒いなぁまったく)
次々と仕掛けられる人体模型の攻撃を軽やかに避けながら、私はいったん体勢を整えた。人体模型が攻撃してきても届かない位置まで下がる。
(んじゃま、早く終わらせときますか)
そう面倒くさそうに呟くと、有明は片方の手を握り、もう片方の手を開いて合わせた。もちろんそれを行うのは私なのだが、そこに突っ込んでいる暇はなかった。握っている方の手に、なにやら固いものの感触が現れたのである。なにも私は握っていなかったというのにだ。
突然現れた謎の感触に戸惑っている間に、私は握っている方の手を素早くもう片方の手から離していた。ぶん、となにかが空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、驚愕の光景が広がっていた。
私は握っていた方の手に剣を持っていたのだ。どこから出てきたんだ、という疑問が残ったが、そこら辺から取り出したとは思えない。すなわち、私の手から出てきたのだ。
その剣は片刃のナイフを長くしたような、剣と鉈の中間のような形状をしていた。大きさとしてはけっこう大きめの部類に入るだろう。しかし不思議と金属特有の重さはなく、とても持ちやすかった。しかも剣など握ったことのない私の手にすんなり馴染んだ。
そういえば、こういう剣をどこかで見たことがある。なんのゲームだったかは忘れたけれど、重めの割りに使いやすかった思い出があった。たしかその剣は……。
「ファルシオン……」
(なんでそんなマニアックなこと知ってるんだよ!しかも大体当たってるし!)
「あ、そうなの?前にやってたゲームに出てきてたからね。安くて使いやすい武器だったから覚えてたのかな?不思議な縁だね」
(普通の中学生はファルシオンなんて知らねーから!)
小うるさい有明はさておき、まず倒さなくてはならないのはあの人体模型(の中に入り込んだ悪霊)だ。このファルシオンで斬れば除霊できるのだろうか。とは言えこれを操るのは有明だし、私は指示を出すしかないのだけれど。軍師的なポジションと言ったらいいかもしれない。
「有明、あの人体模型は斬れば除霊できるの?」
(おう、あれくらいなら一撃で終わるだろ。こう見えて俺、腕は確かだからな!)
「だったらしゃべってないで早くしろ!早くしないと人体模型が来んでしょうが!」
(うわ、怖いな!へいへい、やりゃーいいんでしょやりゃー)
こんなやる気なさそうな守護霊で大丈夫なのだろうか。私のこれからが少し、というかかなり危ぶまれる。面倒くさいから守るのやめたとか言いかねない。
有明はファルシオンを上段に構え、そのまま人体模型に突撃していく。対する人体模型もこちらに向かって陸上部顔負けのフォームで爆走してくる。このままではぶつかってしまう、と目をつぶりかけようとした瞬間、私はファルシオンを振り上げて人体模型を一刀両断していた。見事に真っ二つになった人体模型は、今までのように動かなくなって地面に倒れ伏した。
(よっしゃ、除霊成功だな!お前、けっこう様になってたぜ!)
「うん、褒めてくれたのは嬉しいし成功したのはいいんだけどさ……。――――この人体模型、どうしろっていうの!?見事に真っ二つじゃん!テープでくっつけるなんて問題じゃないよ!ぶっ壊れてんじゃねーかよ!」
(……これはもう、隠しとくしかねえな……)
かくして、哀れな人体模型は私と有明の手によって滅多に使われない体育館の用具室の段ボールの中へとお引っ越しすることになった。




