立花碧、憑依される。
周りと比べてみれば、私はそう変わったこともない普通の生活が送れている、普通の人間なのだと思ってきた。特に秀でたところも劣ったところもないごく普通の家庭に育ち、それなりに楽しく生きていけているんだとずっと信じて14年間過ごしてきた。
――――のに、なぜか目の前に人が浮いている。
クエスチョンマークが私の頭の中をぐるぐる回り始めた。教室のクラスメートは相変わらず騒々しくおしゃべりしている。近くに知らない人が浮いているというのにだ。その人は茶髪をかき上げながら大きな体だというのにふわふわ無重力空間にいるかのごとく浮遊している。よく知らないけど今流行りのアイドルグループにいそうなルックスだな、とか現実逃避していると、その人と目が合った。
「よっ!」
「あ、どうも……」
小声で返事をしてみると、その人はふわふわこちらに近づいてきた。昼休みの騒がしい教室に不釣り合いなその人は、妙に嬉しそうである。にこにこしながら私の隣にやってきた。
もしかしてこの人は、友達の少ない私が作り出した幻覚ではなかろうか、と嫌なことを考えてしまった。たしかに新学期になってクラスも変わって、私は今も独りで読書している。集団に入りたいがあのあか抜けていて騒がしい奴らと?とか話したこともないクラスメートを侮蔑してたりもする。しかしそれくらいで折れるメンタルは持っていないはずだ。妄想の友達を作り出す想像力もしかり。だとしたらこの人はなんだというのか。恐ろしく体重が軽くて風船みたいに浮いてしまう体質の人か?
「さっきから怖い顔してどーしたんだよ。悩みでもあるのか?」
「……目の前に見知らぬ人が浮いていて、しかも馴れ馴れしく話しかけてくるんですがどうすればいいんでしょう」
「あー、俺のことか……。とりあえず、その堅苦しい口調やめね?俺が一方的に話しかけてるみたいだからさ」
いや、間違ってはいないと思うけど。というかなぜこんなにフレンドリーなのか。気持ちもふわふわしているということなのか。
敬語をやめろと言われたので、慣れない口調で再びその人に話しかけてみる。
「あなたは誰?なぜ浮いているの?」
「簡潔だな!まあいいか、自己紹介がまだだったな。俺は有明。お前……立花碧の守護霊ってやつ。いきなり言われてピンと来ないかもしれないけど、よろしくな!」
なるほど、この有明という人は私の守護霊だから浮いていて、他のクラスメートには見えないのか。そうかそうか、納得納得…………。
「できるわけねーだろっっ!!」
ガタン!と音を立てて私は勢いよく立ち上がった。――――が、周りのクラスメートが「!?」という表情でこっちを見ていたので咳払いして着席した。
私の守護霊だという有明は苦笑しながら同情するような視線を向けてきた。少し怯えているようにも見えないことはなかった。
「ふ、普通はそうなるよな。あはは、あははは……」
「万人はそうなるわ!なに、なんなの守護霊って!?意味わかんないけど!第一なんでいきなり出てきたんだよ!?見える人はずっと見えてるはずだろ!?」
「そういう人間もいるらしいけどさ……お前の場合は別なんだよ。遅咲き?的な感じでさ。今までは見える必要なかったけど、これからは見えるようになりましたってな。生まれたときから見える奴の方が少ないんだぜ」
「知らんわんなもん!大体守護霊って……!」
怒りに任せて有明を罵ろうとした……けれども、やはり私は生きた人間。声はみんなに聞こえてしまうもので、今度はクラスメート全員がドン引きして私を見ていた。
新学期そうそう終わってしまったと後悔したが、後の祭りであった。




