USA耳の少年(2)
戦闘 of the デッド
ラビットスが大きく飛び上がる。兎人の跳躍力は全ての種族に勝ると言われるのが事実だと思わせる程の高さだった。
回復できた魔力は先程のに加え二~三回分。対人戦ではかなり心細い回数だ。
素早く詠唱する。罠系魔法「アイス・ビル」敵が範囲内に入ると自動で発動し、円柱状の氷が相手を閉じ込める魔法だ。
それを自分の近くに三つ配置する。さて、次の手は………。
そこでラビットスが急降下した。フロストは自作の斬打刀「ハーフ・ハンドル・エッジ」を召喚した後、悪魔の手を使用した。次の瞬間、消えるフロスト。
「なっ!?」
ラビットスは大きく空振りし、地面に直撃した双剣が衝撃波を起こした。ラビットスの真上に移動していたフロストは、その肩に斬撃を食らわせる。
「ぐっ………!」
ラビットスは跳び退ったが、その足元に魔法陣が現れた。
先程仕込んだ「アイス・ビル」である。
そして避ける余裕も無く立ち昇った氷柱に閉じ込められた。しかしラビットスは火属性の魔法が使える。それを使った脱出は不可能では無い。
魔法詠唱。氷を微細に砕き、数万の小さな刃にする超威力魔法「無限零刃」。その魔法陣とラビットスの魔法陣が現れるのは同時だった。
地面に発射された火炎弾が爆風を起こし次の瞬間、氷が刃となった。
辺りが水蒸気で発生した霧で包まれる。
その中から現れたラビットスは血を流し腕が焦げていたが、未だ立っていた。
「う~ん。強いねフロストは」
「そう言う割には君も余裕そうだが?」
ラビットスは双剣を構えると、全力で走り出す。魔法詠唱「タッチバーン」。
フロストも同時に魔法を詠唱する。対地罠系魔法「アイス・エイジ」を自分の前後に二つ。更に氷の壁を二つ作り出し、自分のやや前方左右に配置した。
距離が近づいてきた頃、魔法詠唱。複数の小さな矢を繰り出す低級魔法「アイス・アロー複式」。それを氷の壁に反射させる。これで軌道は読み切れない。
無数の小さな矢がラビットスに襲いかかる。双剣でいくつか弾いた後、ラビットスはジャンプした。
………これを狙っていた。
魔法詠唱。「ジャベリン」
巨大かつ高威力、更に速度も速いこれを空中で弾く事は至難の業だ。フロストは狙いを定め………魔法を解放する。
しかし魔法が出ない。
魔力が足りなかったのだ。それに気がついたが時既に遅く。
ラビットスの顔に笑みが走り、彗星の如く双剣が躍りかかる。
目前にまで剣が迫り、世界が暗転した。
研究者の類は目に見えない物は信じないという説が一般であるらしい。私も例に漏れないが、たった一つ信ずる物が有る。
それは……絆だ。
激しい風が迸り、二人を引き離した。地に降り立つ黒いロングコートが私に安堵を齎してくれる。
そう、我が友の御出座しだ。
フロストは何かを誤魔化す様にため息をつくと、彼に語りかけた。
「……待ちくたびれたよ。ラスネ」
母体「ヴェニラ」の討伐を終えた後、ラスネイドは『ネオ・カイル』の南部をバイクで走り回っていた。紅霞は未だ続き。それと同様、この町も崩壊の一途を辿っていた。
討伐に続き、この町の避難用シェルターを探していたのだが、どうしたかフロストの事が念頭から放れない。
恐らく暴力団の活動があったからであろう。大親友を危険な状況に置くのが心配で仕方が無かった。
既にフロストと二手に別れてから数時間が経っている。時と共に不安が増長したのだ。
その時だった。遥か遠くから親しみのある魔力の気を感じたのは。
この時にはすでに町の住民や状況、その他の事がラスネイドの頭から離れ、代わりに会ったのは大親友の事のみだった。
かすかな魔拍から分かるのは、その魔法の階級、そして方向と距離だった。
遠い……。そう感じ取ったラスネイドはバイクをリターンし、高圧の魔力を脚力に注ぎ込む。そして大きく跳んだ。
一躍で高層ビルの頂上に飛び上がると、魔拍を頼りにビルからビルへと疾走する。
間に合うだろうか?いや違う、間に合わなければならないのだ。
残留魔力の気が強くなり、開けた地上にラスネイドが視たものは、一人の兎人と魔法を詠唱したフロストの姿だった。しかし枯渇しかけたフロストの魔力は最悪の事態を起こす可能性がある。
ここからでも強力な風を……。
ラスネイドは送風魔法を唱えた。ここからフロストの距離は近く見積もってもおよそ500メートル。
フロストが魔法を放ったが出て来ない。やはり先程の罠で枯渇したようだ。次の瞬間、ラスネイドの放った暴風とも言える送風が二人を吹き飛ばす。
………どうやら間に合ったようだ。
風を使い静かに降り立ったラスネイドにフロストが声をかける。
「……待ちくたびれたよ。ラスネ」
「ああ……悪かった」
そしてラスネイドは兎人に向き直ると尋ねた。
「お前……『繚乱』か?」
「!?」
明らかに動揺する兎人。やはり間違いは無いだろう。ラスネイドは再度アムレドに感謝した。
そして続ける。
「友が世話になったな。許してやるからさっさと帰れ」
「……!そうは……いかないッ!!」
魔法詠唱「火炎脚弾」。着弾点に大規模な爆発を起こす威力重視の魔法だ。
「食らえーッ!!」
そして前方に出現した火炎弾を蹴り飛ばした。………やはり物事はすんなり行かないようだ。
ラスネイドは右手に魔力を集中する。魔法の定義に含まれない「魔法応用術」その一。相手の魔力と自分の魔力を中和させる技術である。魔法陣といったものが現れず、自由度が効くが、消費量はバカにならない程だ。
普通は魔法を弾くのだが、ラスネイドは迫り来る火炎弾を真っ向から防いだ。
激しい消火音とと共に火炎弾は急速に萎んでいき、跡形もなく消え去る。ラスネイドは数々の連戦で魔力を消費してきたが、未だ並々と魔力が残っていた。
一方、兎人の方はあまりの離れ技に呆然としていた。が、我に帰り自分に勝機が無い事を悟ったらしい。
「君……何って名前?」
「ラスネイド・メルフ」
「……覚えとけ。いつか絶対に殺す」
「ああ。いつでも来い」
兎人は怒りを剥き出しにした顔でラスネイドを睨んだが、踵を返し駆け出す。
その背を見送った後、フロストが口を開いた。
「あんなのでも私の友人なのだがね」
「……? 珍しいな…お前がそんなこと言うなんて……」
「彼と少々意見が一致しただけだよ」
「…そうか」
フロストはラスネイドの微妙な変化に気がついたらしい。意地悪そうな笑みを浮かべる。
「……妬いているのかい?」
「別に」
「くっくっく……即答か」
「……意地の悪い狐だな」
「狼には勝りませんとも!」
「…………」
そんな風にやりとりをしながら二人はシェルターに入って行った。