まるやけの町
ラスネイドは決して本気を出さないタイプの人です。
嫌いとかじゃなくてなんとなくなのですけどね。
フロストは本気というよりもいつも楽しんでます。
彼の言動には私も振り回されてばかりなんですけどねw
隠れ家から数時間。魔物が多く出現する『肉塊の森』に彼らは居た。近隣にある『ポック村』からは毎年、死傷者が出るという有名な森だった。
「こいつ……名前なんだっけ」
「ドスもきゅだよ~。危険度4の森霊種モンスターだねぇ」
「ああ……雑魚か」
ドスもきゅは、話を終える頃には新たなマシンガンの餌食になっていた。全てのツタを打ち抜かれ、白い丘の様な体は正しくハチの巣だった。
「素晴らしい威力じゃないかお前さん!これが古代の技術と私の魔法技術の結晶なのだよ!」
「本当に凄い威力だなこいつ……」
「これがゲームだったらチート性能ですよ!」
「……お、おう。モンハ○で言う阿武祖龍弩だな」
「お前さんもなかなかゲームのやりすぎじゃないかい……?」
ラスネイドはシング&ソングをホルスターにしまう。古代の技術はどれ程の物だったんだ?この銃と言い未知の技術と言い、あまりに強力過ぎる……。
「でもお前さんは知ってるかい?古代人は魔法が使えなかったんだよ」
「ああ、予想はしていたが……やはりそうだったのか」
フロストはいつもの芝居がかった素振りをすると語り始める。
「今の人類には魔素が結晶化した『クリスタル』が体内に存在している。これが魔素を安定させる変圧器の様な役割を果たしているんだ。古代人にはこの結晶が無かった、って訳だよ~」
「なるほど」
「ただしほんの少数人は特別な魔法を使えたみたいだけどね~」
「特別な…魔法?」
「そう、『無属性』の魔法だよ~」
「失われた魔法…か」
「そういう訳でも無いんだ。今この世界に充満している魔素は無属性魔法に適応していない、ただそれだけの事だよ」
「……で、魔法の使えない古代の人間の世界は機械が発達していったと言うことか?」
「その通りだね~。今の技術では想像もできない事を彼らは難なくやっていたんだと思うよ~」
そういった会話をしていると、突然木漏れ日差す木々の間から危険度6に指定されてい怪種『イル・アイ』が現れた。
「そう言えばこの時期って魔物が大量発生する季節だったね~」
「早く思い出せよ……」
フロストは意味深に笑うとラスネイドを覗き見る。
「まぁ……お前さんにとっては準備体操にもならないだろうけどね」
「……まぁ、な」
そう言うとラスネイドは『空全絶護』を武装召喚した。
ラスネイド、そしてフロストは共にウェポンサモナーであり、異空間から部位と定義された物を召喚する事が出来る。
ラスネイドが異空間に収納しているのは全部で3つ。『空前絶後』『バイク(?)』、そして『四剣』である。
「気を付けて~。奴の本体近くに漂うガスは有毒だよぅ」
「了解だ」
そういうとラスネイドの手に電撃状の魔力が迸り始める。そして盾、続いてランスを投げた。それは巨大な弾丸の様に高速で『イル・アイ』に迫り、ガスをかき分けて本体の目の様な衝突した。あまりの衝撃に『イル・アイ』の本体は千切れ飛ぶ。その破片が周囲に悪臭を放った。
「流石はラスネイド!大型を一撃で沈めるのはもはや人間ではないよ~」
「さりげに酷いな…」
「ささ。イルアイの悪臭に誘われてたくさんのドスもきゅが現れたじゃぁないか!まさに食べ放題!私はここで寝てるから後はよろしく~」
「…………。」
そしてしばらくの間、数十体のドスもきゅを相手にラスネイドは戦ったのだった。
おしまい。
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その日の予定では『青藍』の最端にある街『ネオ・カイル』に夕方に到着、道具や食料の級と休息を取り、次の日に再出発と言う段取りであった。
『ネオ・カイル』は礎人が支配する『青藍』の中でも特に大規模な都市で、物価が高いが安全で、キレイに整備された場所だと言う。ラスネイドはフロストの隠れ家に行く時、急いでいた為に立ち寄ってはいなかったが、結果的に来る事になり内心喜んでいた。
そして空が紅く染まる頃に『ネオ・カイル』が遠目に見える所まで着く事が出来たのだった。
「おお~。外壁が高くて大きいじゃぁないか~」
「ああ。高くて登るのが大変そうだな」
「そういう事考えるのはお前さんだけだよ……」
そんなやり取りをしている中、突如町の外壁が大爆発した。
「……?」
「なんだ!?祭りか!?」
「…………」
しかしそれは、遠目から見ても深刻な状況であった。巨大な外壁は崩れ、その隙間から見える内部からは炎が立ち上り、紅の空と区別がつかない程に紅かった。
「急ぐぞ」
「りょ~かいだぁ」
そしてラスネイド達はアクセルを全開にし、町に迫って行った。
「早速問題発生か~……ワクワクするぜ~」
その言葉には無言を返しておいた。
町の中の状況はラスネイド達が想像していた異常に深刻だった。建物や木々は燃え、爆散した破片がいたるところに散らかっていた。
そして人間の死体もその中にはあった。
死体の大半は手足が千切れ、焼かれていた。火災で単に焼かれただけでは起こり得ない状態である。
「これは……魔物の仕業だねぇ」
「ああ……だが大都市の大半は魔物対策が万全なはずだが…」
「そう言ってる内にやっこさんの登場だよ~」
まさしくそれはモンスターだった。危険度5以上に指定される龍種『ガブドロン』の幼体。一体一体が強力な固体でありながら、数十体から成る群れで行動する厄介なモンスターである。
龍種の大半は縄張りを持ち、その場所からは離れない。しかし時に何らかの理由で龍種はそこを離れ、新たに降り立った場所を縄張りとしてしまう事があるのだ。
そしてこの場所も運悪くそうだったのだろう。
「なるほど……龍種の縄張り移動に運悪く当たってしまったようだね?……しかし母体が見えないようだが……」
「ああ。フロストは奴らの相手をしてくれ。俺は母体の駆除に向かう」
「りょ~かいだよ。やっと私が活躍する機会が来たね~」
一世帯で縄張りの移動を行う龍種の母体が、通常その群れのリーダーである。それを一刻も早く見つけなければ被害は収まらない。
「ああ……頼んだ」
フロストは悪魔に取りつかれた腕を振り回し、得意なトラップ系と広範囲爆撃型の魔法を詠唱し始める。
その魔力を背に受けながら、ラスネイドはその場を後にした。
その後ラスネイドは『バイク』を武装召喚し、最も大規模な中心道路を走っていた。
龍種は縄張りの移動の際、まず初めにその土地の環境・面積的に最も良い場所を陣取る。それからその一帯を支配し始めるのだ。
ラスネイドは「ネオ・カイル」にある有名な巨大自然公園がその地だと検討をつけた。
巨大自然公園は「ネオ・カイル」が創り上げた観光地であり、精密な設計と植物、そして大きな湖が素晴らしい相乗効果を生みだした「青藍」最高の芸術と謳われていた。
自然環境は町の外部と大差ない為、その美しさから龍種が引き寄せられたのかもしれない。
「……呆気無いな。何もかも…」
自然や人間が創った創造物、その他のあらゆる物が壊れるのは、人間の目からしてみれば本当に短時間の出来事。震災や災害で消え去る、その一端を目の当たりにしているせいか、ラスネイドは自然と独り言をつぶやいっていた。
ふと気付くと前方の高層ビルに人の気配を感じた。どうやら何者かが待ち伏せていたらしい。
その建物に近づくと案の上、人影がガラスを破って降りてきた。着地と同時に強烈な振動が走り、地面に割れ目が入る。
ゆうに2メートルを超える身長……巨人族だ。
フロストより青い長髪の男は、いかにも頭が悪そうな野太い声で話し始めた。
「お前か~ぁ?したっぱの言っていた侵入者は…?」
正門を通り過ぎた時に感じた魔力のヤツだろう。したっぱが存在するという事は何かの組織だろうか…?
「…誰だ?」
「俺は繚乱の幹部、アムレドだ。…そう言えばダンチョーに「名前は明かしても組の名は言うな」と教えられたなぁ……」
アムレドと名乗る男は頭を抱えていた。どうやら、『バカ』らしい。
繚乱は全世界で活発に活動している大規模な暴力団だ。強い悪意のある活動が目立つばかりでなく……種族に拘らない数々の強豪を引き入れている事が、更なる人々の不安を煽っていた。
「……で、何が目的だ?」
「厄介な商売人を抹殺するってダンチョーはおっしゃったんだが……あ、これも秘密だった……」
「そうか。協力に感謝する」
「ンモォォォ……!ここでお前を潰せば問題ない……!」
「潰せるならな」
アムレドは背にしょっていた巨槌と破魔斧を掴むと、地面に叩き付ける。そして砕け宙に舞った巨大な岩石を武器で打ち飛ばした。
ラスネイドの武装召喚『空全絶護』
左に装備した盾でその岩石を防いだ。砕けた破片が周囲に弾け、建物の壁や道に大きな穴を穿つ。
しかし前方にアムレドの姿は無い。
振り向きざまにランスを振ると、後ろで斧を振りかぶっていたアムレドが咄嗟に受け止めた。
「グッ…お前何者んだ…?」
「只の通りすがりだ」
自分の数倍ほどもある巨人族を吹き飛ばし、ラスネイドは魔力を流し始めた。腕を電撃状の紅い魔力が迸り始める。
「ナメるなガキィィィ!!」
アムレドは同じく魔法を詠唱し、腕が鈍く光る。
そして巨大な体躯が弾け、空中に高く飛び、落下の勢いを利用して巨大な二つの武器をラスネイドに叩き付けた。
莫大な衝撃波に周りの建物にあるガラスは砕け散り、木々は吹き飛ぶ。規模の違う威力が周囲を破壊した。
しかし埃塵が舞立つ中、ラスネイドは平然とそこに立っていた。攻撃を受け止めたランスでアムレドをのけぞらせると、左手の盾で裏拳を叩きこむ。アムレドは激しく飛び、遠く離れた建物に激突し崩れ落ちる。
数瞬後、アムレドの目の前にはラスネイドが立っていた。
「…さぁ、反省したか?」
「…あぁん?何言ってんだお前ぇ」
「下らん事は止めておうちに帰れ」
「断る…!!」
アムレドは跳ね起きると武器を放り出す。必死になった顔からは焦燥より強い怒りが現れていた。全く歯が立たないのが気に障ったのだろう、巨人族の短気さを実感する。
「…聞き分けの無い子供だな」
ラスネイドはアムレドの拳を交わすと頭上にランスを叩き落とした。
「グムゥ……」
巨大な激突音と共に地面にめり込み、静寂が訪れた。巨大な体躯が身じろぎをし、そのまま動かなくなる。
巨人族は頑丈だ。この程度では十中八九死にはしないだろう。ラスネイドはランスをリターンし、バイクを引き換えに召喚した。
そこで頭にふっと不安がよぎる。
フロストはどうなっているのだろうか。暴力団の人間が一人で動くとも考え辛く、フロストに危険が及ぶ可能性は少なくない。
そして思わぬ邪魔が入ったが、住民の安保の為にも早急に母体の龍を駆除しなければならないだろう。
…考えていても仕方が無い。
そうして頭によぎった暗い不安を振り払うとラスネイドは走り出す。
紅の空と、それに照らされる建物がこの町の最後を煌々と物語っていた。
ラスネTUEEーーーーーーーーー!!!!!
いやいつもの事ですってw