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8月16日 灯篭流し

8月16日 灯篭流し

いつしか夜になり、月子と川へ向かう。

死者を冥土に還すとだけあって

落ち着いた雰囲気を出す川は

綺麗に流されていく灯篭であふれかえっていた

「綺麗ね陽介さん」

「そうだな」

灯篭の見事な美しさに見とれている。

しだいにこの時間は永遠に続くものだと錯覚してしまう

だけどこれを見るためだけに来たわけではない。

「なぁ、月子」

月子はこちらを向く

「どうしたの?陽介さん」

「ごめんな、月子を残して俺だけ行っちゃって」

あの日事故で死んだのは月子ではない

月子は驚く

「陽介さん…それって…知ってたの?」

俺はうなずく

「正直月子に会うまでは覚えていなかった。

 だが盆入りだってことを聞いてな、自分がこっちに戻ってきたことがわかったんだ」

月子の顔はみるみるうちに悲哀に満ちてくる

「…陽介さん知ってたのね」

「すまない」

「ほら、また謝ってる。」

はっとして再び謝ろうとしてやめた

月子が俺に抱きついてくる。

「…陽介さんがまた戻ってきてくれてうれしかった。

 だけど普通にふるまわなきゃって思って」

「…なんでだ?」

「だって私が本当のことを言ったら陽介さんまた私を置いて行っちゃうでしょ?」

一呼吸置いたあと月子は言う

「…そんなの嫌だもの」

「…月子」

抱きしめている手に力を込める

月子は嬉しそうだったがどこか悲しそうな雰囲気を出していた。

これから来る別れにおびえているのだろうか

月子の後ろには綺麗な灯篭達が川の端へと流れていた。

「陽介さんが事故にあって死んじゃったって聞いた日

 私ずっと泣いてた、大好きだったもの」

月子の声が次第に震えてくる。

「月子、ごめんな。おれ何もしてやれなかったな」

「ううん、いまこうやって帰ってきてくれただけで私は幸せよ」

「また会おうって、病院で約束したもんな」

ついには泣きじゃくってしまった

「私…一人だけ残されて不安で…ずっと悲しかったのよ」

自らの手で涙をぬぐってやると

月子はその手に顔を埋めた

「陽介さんの手、暖かくて大きいのね」

「そうか…?」

「えぇ、とっても。全然変わらないわね」

「俺の時間は止まってるからな」

月子は困ったような顔をして微笑む

「陽介さん、せっかくここに来たんだから灯篭ながしましょうよ」

名残惜しく体を離し、川のほうへ向きなおる

月子は灯篭を手に取ると川に流そうとそこにしゃがみこんだ

「この灯篭は、陽介さんの魂ね」

「はは…そうだな」

魂が流れていく

俺のもそろそろだ

「流すわよ」

月子が手を離し灯篭が川の中を流れていく

「陽介さんは、もう行っちゃうの?」

「そろそろ、だな」

月子は仕方のないことだと知っているはずだ

しかし、俺にも次第にここからいなくなることへの躊躇が出てくる

不意に思い出したことがあった。

「…月子、忘れててごめんな。彼岸花の花言葉…

悲しい思い出、再会、また会う日を楽しみに。」

「思い出して、くれたのね」

「ああ」

「まるで私たちのようね」

彼岸花は天上に咲く花だという。

還ったらたくさんの彼岸花に囲まれるのだろうか。

それなら、いいかもしれない

夜が更けていく。

朝になれば、太陽は天へ昇り

やさしく月子を照らす。

明日の朝を月子と迎えることはできない。

だから俺はその分月子を照らしてやらなければならない

「月子、俺をいつまでも忘れないでくれよ」

月子は笑顔で答えた

「あなたを一度たりとも忘れた日はないわ。ずっと一緒よ」

再びきつく抱きしめあう。

永遠にも感じられた。

ずっとずっとこのままで居られたらと

しかし長くは続かない。

家に戻ってきて、俺は住み慣れた家を見まわす

生きている時と何も変わりない

ここは二人の家だ

子供には恵まれなかったがそれでも幸せだった日々を思い出す

この世にはもうなにも未練はない。

月子ももう、大丈夫だろう

「月子、そろそろ行くよ」

「…また来年も来てね待ってるから」

「…月子、これ」

家に帰ってくる前に咲いていた彼岸花を取ってきてしまった

すべては月子へのプレゼントの為だ

「…ふふふ、ありがとう」

「今日はムードがないって怒らないんだな」

「あたりまえじゃない」

二人で最後に笑いあう。

「それじゃあな」

ドアノブに手をかけ扉を開ける。

そこには昨日より多くの彼岸花が

俺を迎えてくれるかのように咲き誇っていた



エピローグを書いて終りになります。

後日談らしきなにかですので

読んでいただけると嬉しいです

鬱END注意です

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